入社3ヶ月で辞めたいときの判断
- 「石の上にも三年」は慣用句であり、退職の権利や難易度を左右する法律上の根拠は無い
- 退職の権利は民法627条1項に基づき、無期雇用(正社員)であれば入社何日目でも意思表示から原則2週間で行使できる
- 有期雇用(契約社員など)は民法628条・労働基準法137条により扱いが異なり、契約期間が1年以内だと原則「やむを得ない事由」が必要になる
- 厚生労働省調査では大卒就職者の3年以内離職率は33.8%(令和4年3月卒)で、入社3ヶ月時点の離職は珍しい選択ではない
この記事の内容
この記事は、入社してまだ3ヶ月なのに「もう辞めたい」と思っていて、「石の上にも三年」という言葉が頭から離れず動けなくなっている人に向けて書いています。 結論から言うと、「石の上にも三年」は法律上の根拠がまったく無い慣用句です。退職の権利は、入社してから何日経っているかで変わるものではありません。ただし、雇用契約が「無期」か「有期」かによって、実際の辞めやすさは変わります。この記事では、その事実を軸に、今の自分がどちらに当てはまるかを確認できるように整理します。
- 3ヶ月しか経っていないのに辞めたいと思う自分は、我慢が足りないのではと思っている
- 「石の上にも三年」と言われるたびに、辞める決断ができなくなる
- そもそも入社3ヶ月で辞めることが、法律上・実務上どこまで許されるのか分からない
結論:「石の上にも三年」に法的な意味はない
「石の上にも三年」は、辛くても3年我慢すれば成果が出る、という意味の慣用句です。人生訓としては広く使われていますが、雇用契約や退職の権利を定めた法律には、こうした年数の縛りは一切出てきません。
期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員などの無期雇用)であれば、退職の権利は民法627条1項に基づき、入社1日目でも3ヶ月目でも同じように行使できます。「入社してから日が浅いから辞められない」という決まりは、法律上どこにも存在しません。
一方で、契約社員や派遣社員など「有期雇用」の場合は、話が少し変わります。この違いは後の章で具体的に説明します。
まず、3ヶ月で辞めたいと思うところまで来ていること自体を責めない
「たった3ヶ月で音を上げるなんて」と、自分を責めてしまう人は少なくありません。しかし、辞めたいと思う気持ちには理由があります。仕事内容が募集時の説明と違った、人間関係が合わない、心身に不調が出ている――そのどれもが、我慢が足りないから起きているわけではありません。
朝、会社のことを考えるだけで動けなくなっている、眠れない、食欲がないといった状態があるなら、この記事の続きを読むより先に、医師や産業医に相談してください。 ここから先は、法律上の事実と選択肢の整理です。心身の状態の判断はできません。
「石の上にも三年」はどこから来た言葉か
「石の上にも三年」は、冷たい石の上でも3年座り続ければ温まる、という故事に由来する慣用句とされています。忍耐や継続の価値を説く言葉として、日本では古くから使われてきました。
ただし、この言葉が指す「3年」に、統計的・法律的な裏付けがあるわけではありません。ことわざであり、いわば経験則を表現したフレーズです。「3年経たないと一人前になれない」「3年未満で辞めるのは失格」という意味を、この言葉自体が保証しているわけではない、という点をまず押さえておく必要があります。
入社3ヶ月で辞める人は、実際どれくらいいるか
厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の離職状況」によると、令和4年3月に卒業して就職した人のうち、就職後3年以内に離職した割合は、大学卒で33.8%、高校卒で37.9%でした(厚生労働省・新潟労働局「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者の状況)」全国計、2025年11月28日公表)。俗に「3年3割問題」と呼ばれる現象です。
この資料が公表しているのは「1年目」「2年目」「3年目」という年単位の内訳までで、入社3ヶ月時点に絞った離職率を示す公的な統計は見当たりませんでした(入社3ヶ月時点に限定した離職率の公表統計。一次情報は確認できず)。 ただし、1年目だけで大学卒12.1%が離職しており、3年以内離職者の中には試用期間や入社直後の早い段階で辞めている人も一定数含まれていると考えられます。少なくとも、「3年以内に約3人に1人が辞めている」という事実からは、入社3ヶ月での退職が極端に珍しい選択ではないということが言えます。
辞めやすさを決めるのは勤続年数ではなく雇用形態
「石の上にも三年」への一番の答えは、辞めやすさを左右するのは勤続年数ではなく、雇用契約が無期か有期かという点だ、という事実です。
| 項目 | 無期雇用(正社員など) | 有期雇用(契約社員・派遣など、契約1年以内) |
|---|---|---|
| 根拠法 | 民法627条1項 | 民法628条・労働基準法137条 |
| 退職できるタイミング | いつでも、意思表示から原則2週間で退職可能 | 原則、契約期間中は「やむを得ない事由」がないと退職できない |
| 入社からの日数の影響 | 影響しない(3ヶ月でも1日目でも同じ) | 契約期間が1年を超える場合、労働基準法137条により契約開始から1年経過後はいつでも退職可能 |
| 「やむを得ない事由」の目安 | 該当しない(そもそも制限がない) | 「辞めたい」という気持ちだけでは足りず、契約期間満了まで働き続けることが客観的に困難な事情が必要とされる。「仕事が合わない」程度では原則認められないとする解説が複数あるが、具体的にどこまでが該当するかの統一的な行政基準・最高裁判断は見当たらず、個別の事情ごとの判断とされている(「やむを得ない事由」の該当範囲を示す公的な統一基準。一次情報は確認できず) |
自分が今どちらの契約なのか分からない場合は、雇用契約書か労働条件通知書を確認してください。 「契約期間」の欄に記載がなければ無期雇用、記載があれば有期雇用です。この1点で、辞め方の難易度がまったく変わります。
試用期間中でも、退職の意思表示はできる
「試用期間中だから辞めるにも動きにくい」と思っている人もいますが、試用期間そのものに法律上の定義はなく、長さについても法律で決まった基準はありません。厚生労働省の公表統計として試用期間の長さの分布を示すものは見当たらず(試用期間の長さに関する公的統計。一次情報は確認できず)、複数の人事・法律解説サイトが「1〜3ヶ月、長くても6ヶ月以内が目安」としているのが実務上広まっている水準です。
試用期間であっても、雇用契約が無期雇用であれば適用される法律は変わりません。つまり、民法627条1項に基づき、意思表示から原則2週間で退職が成立します。「試用期間だから辞められない」という決まりもまた、法律上は存在しません。
一方、有期雇用契約に試用期間が組み込まれているケース(契約社員として契約期間内に試用期間がある場合など)は、前章で見た有期雇用の扱いが適用されます。契約書の「契約期間」の有無を確認する重要性は、ここでも変わりません。
辞めることで不利になること・ならないこと
入社3ヶ月での退職について、よく心配されることを整理します。
- 研修費用や採用コストを返還請求されるか:労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額を「あらかじめ約束させる」ことを禁止しています。研修費用の返還を義務付ける契約が無効と判断された例として、新日本証券事件(東京地裁平成10年9月25日判決、海外留学費用の返還請求を労働基準法16条違反として認めなかった事案)がありますが、判決文の原文は確認できていません(複数の法律事務所・労働判例サイトの解説で事件名・年月日・結論の向きが一致しています)。契約内容や研修の性質によって判断が分かれるため、個別の金額・可否については弁護士や労働基準監督署への確認が必要です
- 転職活動で不利になるか:在籍期間が短いことについて、転職先の面接で理由を聞かれる可能性はあります。ただし、理由を整理して説明できれば、それだけで選考から外れると決まっているわけではありません
- 離職票や雇用保険はどうなるか:自己都合退職として扱われた場合、雇用保険の基本手当(失業保険)の受給には、原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上必要です(雇用保険法13条)。入社3ヶ月での退職では、この条件を満たさない可能性が高い点は、事前に把握しておく必要があります
一番影響が大きいのは、失業保険を受け取るための加入期間が足りない可能性がある点です。 退職前に、直近の職歴も含めて被保険者期間が通算12ヶ月に届いているか、ハローワークで確認しておくと安心です。
それでも動けないとき、退職代行という選択肢
「辞める権利があるのは分かったが、自分の口から言い出せない」という状態でも、退職代行を使えば、退職の意思表示という一番負担の大きい部分を代わりに済ませることができます。
退職代行Jobs、退職代行ニコイチ、退職代行ネルサポートなど、運営元(民間企業・労働組合・弁護士)によって対応できる範囲や費用が異なります(※2026年8月時点の調査。有給消化の交渉などができるかどうかは運営元によって変わるため、依頼前に各社公式サイトで確認してください)。
無期雇用であれば、退職代行を使っても使わなくても、法律上の扱いは同じです。「入社3ヶ月だから使いにくい」ということもありません。むしろ、直接言い出せずに時間だけが過ぎている状態の方が、次の一歩を遠ざけます。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職していますが、これは入社3ヶ月ではなく、長期間勤めたうえでの会社都合退職です。そのため、この記事のテーマである「入社3ヶ月での退職」を、自分の実体験として語ることはできません。
この記事で書いた内容は、民法・労働基準法・雇用保険法の条文と、厚生労働省が公表している統計を確認したうえで整理したものです。入社間もない時期の退職そのものを経験した本人の体験談ではない、という点は正直に書いておきます。
次にやること
まず、雇用契約書か労働条件通知書を開いて、「契約期間」の欄があるかどうかを確認してください。 記載がなければ無期雇用で、辞める権利は入社日数に関係なくいつでもあります。記載があれば有期雇用で、契約期間や「やむを得ない事由」の有無を先に整理する必要があります。それが分かってから、直接伝えるか、退職代行を使うかを考えても遅くありません。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理と、筆者個人の体験に基づくものです。個別の状況については、弁護士・労働基準監督署など専門機関にご確認ください。心身の不調がある場合は、医師・産業医にご相談ください。
出典 - 民法627条1項(期間の定めのない雇用契約における解約の申入れと、申入れの日から2週間経過による終了)※条文全文で確認済み - 民法628条(やむを得ない事由による契約の解除)※条文全文で確認済み - 労働基準法137条(1年を超える有期労働契約を締結した労働者の任意退職に関する暫定措置)※条文全文で確認済み - 労働基準法16条(賠償予定の禁止)※条文全文で確認済み - 雇用保険法13条(基本手当の受給資格・被保険者期間の要件)※条文全文で確認済み - 厚生労働省・新潟労働局「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者の状況)」全国計(大卒3年以内離職率33.8%・高卒37.9%) https://jsite.mhlw.go.jp/niigata-roudoukyoku/content/contents/R071126_3_0403_risyoku.pdf (2026年8月確認) - 新日本証券事件(東京地裁平成10年9月25日判決、海外留学費用返還請求と労基法16条)。判決文原文は未確認。事件名・年月日・結論は労働新聞社「労働判例」解説等、複数の法律事務所・判例解説サイトの記述が一致することを2026年8月に確認 - 退職代行各社の料金・運営形態は各社公式サイトを2026年8月に確認(taishoku/services.yaml記載)