2年目で辞めたい
- 退職のしやすさは民法627条上、勤続年数によって変わらない
- 「辞めにくさ」の正体は法律ではなく、後輩ができた・独り立ち扱いになった等の職場内の立場変化と心理的な思い込みであることが多い
- 研修費用の返還を理由に引き止められても、労働基準法16条により違約金・損害賠償額の予定は原則禁止されている
この記事の内容
入社2年目に入って「辞めたい」と思っているのに、1年目のときよりも言い出しにくいと感じている人向けの記事です。 この記事では、その「辞めにくさ」がどこから来ているのかを、法律・会社の制度・心理の3つに分けて整理します。
結論: 辞めにくさの正体は法律ではない
先に結論を書きます。入社2年目が1年目より「辞めにくい」のは、法律上の制約が増えたからではありません。退職のルールは勤続年数に関係なく同じです(民法第627条第1項)。辞めにくさの正体は、後輩ができた・独り立ち扱いになったといった職場内の立場の変化と、そこから生まれる「今抜けたら迷惑がかかる」という心理的な思い込みです。
- 退職の自由は勤続年数で変わらない。期間の定めのない雇用契約は、解約の申し入れから2週間の経過で終了する(民法第627条第1項)
- 「辞めにくい」と感じる理由の多くは、後輩ができた・研修が終わった・同期の中で浮きたくないといった、職場内の立場変化と心理的なもの
- 「研修費用を返せ」と言われても、労働契約に違約金や損害賠償額を予定すること自体は労働基準法第16条で原則禁止されている
以下、2年目特有の「辞めにくさ」の正体、法律上の位置づけ、研修費用の話、有給のタイミングの順に見ていきます。
2年目で「辞めにくい」と感じる3つの理由
1年目と2年目で、会社側からあなたへの見え方は大きく変わります。この見え方の変化が、そのまま「辞めにくさ」の正体になっていることが多いです。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| 独り立ち扱いになった | 1年目は「まだ新人だから」で許されていたことが、2年目になると「もう一人でできるはず」という前提に切り替わる。抜けたときの穴が大きく見える |
| 後輩ができた | 新卒・中途の後輩が入ると、「教える側」「見本になる側」という役割を担わされる。先に辞めることに罪悪感を持ちやすくなる |
| 「まだ2年目なのに」という空気 | 「石の上にも三年」のような慣用句や、同期がまだ残っている状況が、辞める判断そのものを遅らせる方向に働く |
この3つに共通しているのは、いずれも法律上の制約ではなく、職場の空気や自分自身の思い込みだという点です。次の章で、法律上の扱いを確認します。
法律上、勤続年数で退職のしやすさは変わらない
正社員として期間の定めのない雇用契約を結んでいる場合、退職のルールは入社1年目でも2年目でも10年目でも同じです。
- 期間の定めのない雇用契約は、労働者からの解約の申し入れによって、申し入れの日から2週間を経過すると終了する(民法第627条第1項)
- この規定に「勤続◯年以上でないと退職できない」といった条件は付いていない
- 就業規則に「退職は1ヶ月前に申告」等の定めがある会社もあるが、この定めと民法第627条第1項のどちらが優先するかについては、法律家の間でも見解が分かれている。「就業規則の規定が原則として優先する」とする見方と、「民法第627条第1項は労働者の退職の自由を保障する強行規定であり優先する」とする見方の両方があり、統一的な結論は無い複数の弁護士事務所の解説記事を確認したが見解が分かれており、この点についての最高裁判断や省庁の統一見解は見当たらなかった。ただし、就業規則が不当に長い申し入れ期間を定め、退職の自由を実質的に制限していると判断された場合は無効となる、という点は確認した解説の間で共通していた
つまり「2年目だから辞めにくい」という状態は、法律が作っているのではなく、会社の空気や自分の中の遠慮が作っています。ここを分けて考えられると、少し楽になります。
「研修費用を返せ」と言われたら
2年目で辞めようとすると、「入社時の研修費用がかかっているから返してもらう」といった言い方で引き止められることがあります。これは法律的にどこまで通用するのでしょうか。
- 労働基準法第16条は、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ予定する契約を結んだりすることを禁止している
- 「◯年以内に辞めたら研修費用として◯十万円を払え」というような取り決めは、この違約金・損害賠償額の予定にあたるとして無効になる可能性が高い
- ただし、研修費用が労働契約とは別の「金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)」として明確に区別されている場合は、扱いが異なる。過去の裁判例では、研修・留学への参加が本人の自由な意思によるもので、費用を労働契約とは別の金銭消費貸借契約として整理し、一定期間勤務すれば返還を免除する条件を付けていた事案で、会社側の返還請求が認められたものがある(野村證券事件、長谷工コーポレーション事件)。一方、研修が業務の一環としての性格が強く、返還義務が退職を抑制する制裁のような性格を持つと判断された事案では、返還請求が認められなかった(新日本証券事件、東京地裁1998年9月25日判決)。どちらに転ぶかは研修の任意性・業務との関連性・返還条件の合理性といった個別事情次第であり、判決文そのものは確認できていない裁判所の判例検索で該当判決の原文には到達できず、複数の弁護士事務所の解説記事で事件名・年・結論の方向性が一致していることを確認した
いずれにしても、「研修費用を払わないと辞めさせない」という言い方自体は、退職の自由を制限する根拠にはなりません。金銭を請求されて不安な場合は、契約書や合意書の内容を確認したうえで、弁護士や労働基準監督署に相談することをおすすめします。
有給休暇が増えるタイミングと「もったいない」の心理
もう一つ、2年目特有の心理として「有給がもったいないから今は辞めにくい」という感覚があります。これは有給休暇の付与ルールが関係しています。
労働基準法第39条により、フルタイムで週5日勤務している労働者の年次有給休暇は、勤続年数に応じて次のように増えていきます。
| 勤続年数 | 付与日数 |
|---|---|
| 6ヶ月 | 10日 |
| 1年6ヶ月 | 11日 |
| 2年6ヶ月 | 12日 |
| 3年6ヶ月 | 14日 |
入社2年目の途中(勤続1年6ヶ月時点)で有給が11日に増えるため、「もう少し在籍すればまた有給が増える」という感覚が、辞める判断を先送りにさせることがあります。ただし、有給は在籍している間しか使えない権利であり、「増えるまで待つ」ことと「今の職場で働き続けたいかどうか」は本来別の話です。有給の増減を理由に、心身がつらい状態を我慢し続ける必要はありません。
実体験について、正直に書きます
私自身は2026年6月末に前職を退職しましたが、これは執行役員という立場での退職であり、入社2年目という勤続年数の段階で経験したものではありません。そのため、この記事のテーマである「2年目特有の辞めにくさ」を自分の体験として語ることはできません【本人の実体験の範囲外】。この記事の法律・制度に関する説明は、民法・労働基準法の条文と、労働局等の公開情報を調査した範囲で整理したものです。
次にやること
今日、自分が感じている「辞めにくさ」が、法律上の制約なのか、それとも職場の空気や自分の思い込みなのかを、一度紙に書き出して分けてみてください。 分けてみると、法律上の制約に見えるものはほとんど無いことに気づくはずです。会社との話し合い自体が負担で、直接伝えるのが難しい場合は、退職の意思表示だけを任せられる退職代行という方法もあります。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理と、筆者個人の体験に基づくものです。研修費用の返還や退職に関する個別の契約内容の有効性については、最終的な判断を弁護士・社会保険労務士など専門家にご相談ください。心身の不調がある場合は医師・産業医にご相談ください。