退職前に確認しておきたい就業規則のチェックポイント
- 1就業規則を入手
- 2退職の規定を読む
- 3退職日を逆算
- 4申出の方法を決める
- 5書面で申し出る
この記事の内容
退職を決めたけれど、会社のルールで何か引っかかるものがないか不安な人に向けた記事です。先に答えを言います。就業規則で先に読むのは、「退職の申し出の期限と方法」「退職金の条件」「有給と引き継ぎ」「辞めたあとの縛り」の4か所。ここを読んでから動くと、あとで揉めにくくなります。
全部読む必要はありません。退職の前に見ておく場所を表にして、退職日の逆算と、就業規則を見せてもらう文面まで用意しました。
就業規則はどこで見られる?会社には見せる決まりがある
まず、就業規則がどこにあるかです。
会社は、就業規則を従業員に知らせておく義務があります。労働基準法106条は、就業規則を「常時各作業場の見やすい場所に掲示する」「備え付ける」「書面で渡す」のどれかで周知するよう定めています。パソコンの共有フォルダに入れて、いつでも見られるようにしている形も、これに含まれます。
よくある置き場所は次のとおりです。
| 置き場所 | 探し方 |
|---|---|
| 社内の共有フォルダ・イントラ | 「規程」「人事」「総務」のフォルダを見る |
| 入社時に渡された書類一式 | 入社日の封筒やファイルを探す |
| 総務・人事の棚やキャビネット | 担当者に「閲覧したい」と伝える |
| 労務管理のクラウドサービス | ログイン後の「社内規程」「お知らせ」を見る |
なお、就業規則を作って労働基準監督署に届け出る義務があるのは、常時10人以上の労働者がいる会社です(労働基準法89条)。10人未満の会社は、作成の義務がありません。「うちには就業規則がない」と言われた場合は、雇用契約書や労働条件通知書が、決まりごとの元になります。
ここまでで、探す場所は分かりました。次は、開いたら何を見るかです。
就業規則で見る8つの項目
全部を読まなくて大丈夫です。退職に関わるのは次の8つです。目次で「退職」「服務」「賃金」「退職金」「懲戒」と書かれた章を探してください。
| 見る項目 | 何が分かるか | 見落とすとどうなるか |
|---|---|---|
| ① 退職の申し出の期限 | 「1か月前まで」など | 期限を過ぎて申し出て、退職日でもめる |
| ② 申し出の方法・提出先 | 書面か口頭か、誰に出すか | 出す相手を間違えて、受け取ってもらえない |
| ③ 退職金の条件 | 勤続年数、自己都合か会社都合か | もらえると思っていた金額が変わる |
| ④ 年次有給休暇の扱い | 申請の手順、残日数の確認方法 | 消化の段取りが遅れる |
| ⑤ 引き継ぎの定め | 引き継ぎの義務、期間 | 最終出勤日を決められない |
| ⑥ 貸与物の返却 | 社員証、PC、制服、鍵 | 返却を忘れて連絡が続く |
| ⑦ 退職後の秘密保持・競業避止 | 辞めたあとの守秘、同業への転職の制限 | 転職先を決めたあとで気づく |
| ⑧ 懲戒・退職金の不支給の条項 | どんな場合に処分や不支給があるか | 不安を必要以上に大きくする |
退職に関する事項(解雇の事由を含む)は、就業規則に必ず書く項目として決められています(労働基準法89条3号)。つまり、就業規則がある会社なら、退職の項目は載っているはずです。退職金は、制度を設ける場合にだけ書く項目です(同89条3号の2)。
先に押さえたいのは①と②です。ここが退職日を決めます。
「1か月前に申し出」と書いてあったら、民法の2週間と、どちらに従う?
就業規則に「退職は1か月前までに届け出ること」と書かれていることは多いです。一方、民法627条1項は、期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)なら、退職の申し入れから2週間で契約が終わると定めています。
この2つがぶつかったとき、どちらが優先するかは、はっきり言い切れません。
- 就業規則の定めが合理的で、周知されていれば、就業規則が労働契約の内容になる(労働契約法7条)
ここでは、白黒をつけずに、現実的な考え方だけ書きます。
- 揉めたくないなら、就業規則の期限に合わせて申し出る
- 期限に間に合わない事情があるなら、まず会社と相談し、最終手段として民法の2週間を頭に置く
- 退職日が決まったら、書面(メールでも可)で日付を残す
法律上、退職の申し出に書面の決まりはありません(民法627条は形式を定めていません)。ただし、言った言わないを避けるために、記録に残る形で出すのが安全です。
なお、契約期間が決まっている人(1年契約など)は、話が変わります。期間の途中で辞めるには、原則として「やむを得ない事由」が必要です(民法628条)。この場合は就業規則より先に、雇用契約書の期間の欄を見てください。
退職を伝える時期そのものは、別の記事(「退職を伝えるベストな時期」)で詳しく書いています。
退職金は「あるかどうか」から確かめる
退職金は、法律で支払いが義務づけられているものではありません。制度を作るかどうかは会社が決め、作るなら就業規則や退職金規程に書きます(労働基準法89条3号の2)。
見るのは次の3つです。
| 見るところ | 書いてあること(例) |
|---|---|
| 支給の条件 | 勤続3年以上、など |
| 自己都合と会社都合の差 | 自己都合だと支給率が下がる、など |
| 支払いの時期 | 退職から何日以内に支払うか |
「退職金規程」が就業規則とは別の冊子になっている会社もあります。就業規則に「退職金は別に定める」とだけあれば、別の規程を探してください。
「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という条項があっても、実際に不支給が認められるかは、事情ごとに裁判所が判断します。条項がある、というだけで、すぐ不安になる必要はありません。ただ、自分の場合にどうなるかは個別の判断になるので、心配なときは弁護士や労働基準監督署の相談窓口に聞いてください。
有給と引き継ぎを、退職日から逆算する(計算例)
退職日は、①申し出の期限、②引き継ぎの日数、③有給の消化日数の3つで決まります。仮の状況を置いて、実際に日付まで出してみます。
前提(仮置き)
- 退職したい日: 2026年11月30日(月)
- 就業規則: 「退職は1か月前までに申し出ること」
- 有給の残り: 10日
- 休み: 土日と祝日(11月は3日と23日)
- 有給は、退職日から逆算してまとめて取る
計算の手順
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 申し出の期限 | 11月30日の1か月前 | 10月30日(金)まで |
| 有給10日の消化 | 11月30日から出勤日を10日さかのぼる(11/30, 27, 26, 25, 24, 20, 19, 18, 17, 16) | 11月16日(月)から消化開始 |
| 最終出勤日 | 有給の開始日の前の出勤日 | 11月13日(金) |
| 引き継ぎに使える日数 | 10月30日〜11月13日の出勤日(10/30、11/2、11/4〜6、11/9〜13) | 10日 |
つまり、就業規則の期限どおりに10月30日に申し出ると、有給を10日使い切っても、出勤日が10日残ります。引き継ぎの資料づくりに使える日数が見えるので、上司に話すときの材料になります。
有給の日数は、給与明細や勤怠システムで確認できます。会社によっては「有給の申請は3営業日前まで」など、手順を就業規則に書いています。ここもあわせて読んでください。
年次有給休暇は労働基準法39条が定める権利です。
有給を使わせてもらえないときは、労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談できます。
辞めたあとの縛りは、書き方と範囲を読む
⑥と⑦は、退職の後に効いてくる項目です。
| 条項 | 読み方 |
|---|---|
| 貸与物の返却 | 社員証・PC・鍵・制服など。返す物と期限を書き出す |
| 秘密保持 | 顧客名簿や社内資料を持ち出さない、辞めたあとも話さない、という約束 |
| 競業避止 | 同業への転職や独立を、一定期間制限するという約束 |
| 社宅・寮 | 退去の期限。退職日から何日以内かを確認する |
競業避止は、転職先が同業のときに気になる項目です。憲法22条は職業選択の自由を認めているので、辞めたあとの制限は、どこまで有効かが個別に判断されます。期間、地域、対象の広さ、代わりにお金が出るかなどが見られます。就業規則に書いてあるだけで、すべてが有効になるわけではありません。
「辞めたら違約金を払う」と読める条項は、労働基準法16条が禁じる「違約金や損害賠償額をあらかじめ決めておくこと」に触れる可能性があります。ただし、研修費用の返還などは別の論点になるので、書いてあったら読み飛ばさず、相談窓口に聞いてください。
就業規則を見せてもらえないときの文例
就業規則が見つからない、または見せてもらえない場合は、書面で頼むと記録が残ります。宛先は人事か総務です。上司に直接言いにくいときにも使えます。
件名:就業規則の閲覧のお願い(〇〇部 山田〇〇)
人事部 ご担当者様
お疲れさまです。〇〇部の山田です。
私事で恐縮ですが、今後の手続きの参考にしたく、
次の資料の閲覧をお願いしたくご連絡しました。
・就業規則(退職に関する章を含む全体)
・退職金規程(ある場合)
・賃金規程(ある場合)
コピーやPDFでいただけると助かります。
難しい場合は、閲覧できる日時を教えてください。
お手数をおかけしますが、〇月〇日までにご返信いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
山田〇〇(〇〇部)
理由は書かなくて大丈夫です。閲覧の依頼は、退職の意思表示ではありません。
それでも見せてもらえないときは、次の順に動けます。
- もう一度、期限を書いて依頼する(記録が残る形で)
- 労働基準監督署に相談する(就業規則の周知は労働基準法106条の義務です)
- 入社時の雇用契約書や労働条件通知書で、必要な項目だけ確認する
就業規則の確認チェックリスト
次の項目を、上から1つずつ確かめてください。全部埋まらなくても構いません。空欄のところが、質問すべき場所です。
□ 就業規則の置き場所を確認した(共有フォルダ、総務、入社時の書類) □ 退職の申し出の期限を確認した(例: 1か月前まで) □ 申し出の方法と提出先を確認した(書面かどうか、誰に出すか) □ 契約期間が決まっているか、雇用契約書で確認した □ 有給の残り日数を、勤怠システムか給与明細で確認した □ 有給の申請手順を読んだ □ 退職金規程の有無を確認した □ 貸与物と返却の期限を書き出した □ 秘密保持・競業避止の条項を読み、転職先との関係を考えた □ 退職日から逆算して、申し出る日と最終出勤日の候補を出した
会社に切り出しにくいときは
規則を読んでも、「会社に話すこと自体がつらい」という人がいます。上司が話を聞いてくれない、引き止めが強い、連絡すること自体がしんどい、という状況です。
それは、あなたが弱いからではありません。心身の調子が悪いときは、医師や産業医に相談してください。この記事では診断や判断はできません。
会社とのやりとりを自分でするのが難しいときは、退職代行という選択肢もあります。※2026年9月時点で、この記事で紹介できるのは次のサービスです。
退職金や有給、未払いの残業代などをめぐって会社と交渉が必要になりそうなときは、弁護士が対応するサービスかどうかを確認してください。弁護士でない人は、会社と交渉することができません(弁護士法72条)。就業規則の内容を自分で読んだうえで、何を頼みたいかを整理しておくと、相談がスムーズになります。
就業規則はどこで見ればいいですか?
結論は、社内の共有フォルダ・入社時に渡された書類・総務や人事の窓口のどれかにあります。会社は就業規則を従業員に周知する義務があり(労働基準法106条)、見やすい場所への掲示・備え付け・書面交付・社内システムでの公開のいずれかの方法で知らせているはずです。ただし常時10人未満の会社は作成義務自体がなく、その場合は雇用契約書や労働条件通知書が決まりごとの元になります。
就業規則の「1か月前」と民法の「2週間」、どちらに合わせればいいですか?
揉めたくないなら、就業規則の期限に合わせて申し出るのが現実的です。就業規則が合理的で周知されていれば労働契約の内容になる一方(労働契約法7条)、民法627条1項は退職の申し入れから2週間で契約が終わると定めており、どちらが優先するかは一律に言い切れません。期限に間に合わない事情があるときは、まず会社に相談し、最終手段として民法の2週間を頭に置いてください。
就業規則を見せてもらえないときはどうすればいいですか?
まずは記事内の文例を使って、人事や総務に書面で閲覧を依頼してください。理由を書く必要はなく、閲覧の依頼は退職の意思表示にはなりません。それでも見せてもらえない場合は、期限を書いて再依頼する、労働基準監督署に相談する(就業規則の周知は労働基準法106条の義務です)、入社時の雇用契約書や労働条件通知書で必要な項目だけ確認する、の順に動けます。
退職金は必ずもらえるものですか?
必ずもらえるとは限りません。退職金は法律で支払いが義務づけられているものではなく、制度を作るかどうかは会社が決め、作る場合は就業規則や退職金規程に条件を書きます(労働基準法89条3号の2)。確認すべきは、支給の条件(勤続年数など)、自己都合と会社都合の支給率の差、支払いの時期の3点です。
有給休暇はいつから消化を始めればいいですか?
退職日、就業規則の申し出の期限、有給の残り日数の3つから逆算して決めます。記事内の計算例のように、退職希望日から出勤日を有給の残り日数分さかのぼると消化開始日が出て、その前日までが最終出勤日になります。有給は労働基準法39条が定める権利なので、消化を拒まれたときは労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談できます。
次にやること
今日、就業規則の「退職」の章を開いて、退職の申し出の期限を1行だけメモしてください。 そのメモの日付から逆算すると、退職日を決めるための材料が全部そろいます。就業規則が見つからなければ、上の文例を人事に送るところから始めてください。
この記事の主な出どころ
- 労働基準法16条(賠償予定の禁止)、39条(年次有給休暇)、89条(就業規則の作成・届出)、106条(法令等の周知義務)
- 民法627条(期間の定めのない雇用の解約)、628条(やむを得ない事由による解除)
- 労働契約法7条(就業規則と労働契約)
- 憲法22条(職業選択の自由)
- 弁護士法72条(弁護士でない人が報酬目的で法律事務を扱うことの禁止)
出典(2026年9月24日調査)
- 労働基準法106条(就業規則の周知義務) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 (掲示・備え付け・書面交付等での周知義務を条文で確認。本文の記述と一致)
- 労働基準法89条(就業規則の作成・届出義務、常時10人以上、退職に関する事項の記載義務) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 (条文を確認。本文の記述と一致)
- 民法627条1項(期間の定めのない雇用は解約の申し入れから2週間で終了) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 (条文を確認。本文の記述と一致)
- 労働基準法39条(年次有給休暇の付与) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 (条文を確認。本文の記述と一致)
- 労働基準法16条(賠償予定の禁止) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 (違約金・損害賠償額の予定を禁じる条文を確認。本文の記述と一致)