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退職時に備品を紛失・破損したら弁償は必要か

ぜんたいの流れ
  1. 1紛失・破損に気づく
  2. 2会社に報告する
  3. 3弁償の根拠を確認する
  4. 4給与天引きに同意しない
  5. 5書面で回答する
この記事の内容
  1. まず知っておくこと:会社の請求にも歯止めがある
  2. 紛失・破損のケース別に考える
  3. 「無くした」と「返さない」は別の話
  4. 給与から天引きされたら:労基法24条を確認する
  5. 請求されたらやる手順
  6. 会社への回答文例
  7. 計算例:減価を考えた弁償額の目安
  8. それでも高額を求められたら
  9. チェックリスト:弁償に応じる前に確認する5つ
  10. 次にやること

会社から借りていたパソコン・携帯電話・制服・工具などを、退職までに壊してしまった、あるいは無くしてしまった人向けの記事だ。結論から言うと、会社が「弁償してもらう」と言っただけで、請求された金額をそのまま全額払う義務が発生するわけではない。弁償が必要かどうか、必要だとしていくらかは、壊れた・無くなった経緯と、会社側の管理体制の両方で決まる。この記事では、その判断の枠組みと、実際に請求されたときにやることを整理する。

まず知っておくこと:会社の請求にも歯止めがある

会社が労働者に損害賠償を求める法的な根拠は、民法415条(債務不履行)または民法709条(不法行為)にある。貸与品を壊した・無くしたことが、労働者側の故意または過失による損害だと会社が主張すれば、賠償を求めること自体は法律上できる。

ただし、労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めている。つまり、入社時に「備品を壊したら一律5万円」のような金額をあらかじめ決めておく契約は、それ自体が無効になる。会社が請求できるのは、あくまで実際に生じた損害についてであり、契約で決めた罰金ではない。

さらに重要なのが、最高裁判所が示した「請求できる範囲にも上限がある」という考え方だ。最高裁昭和51年7月8日判決(茨城石炭商事事件・民集30巻7号689頁)は、業務中の従業員の過失で生じた損害について、会社が従業員に求償できるのは「信義則上相当と認められる限度」に限られると判断した。判決では、会社の事業の規模や施設の状況、従業員の業務内容や労働条件、加害行為の態様、会社側が損害の発生をどれだけ防止・分散する努力をしていたか、といった事情を総合的に考慮するとされ、この事案では損害額の4分の1に限って請求が認められた。

ここが要点

つまり、「壊した=全額弁償」ではない。会社の管理体制(保険に入っていたか、使い方の指導をしていたか)と、労働者側の過失の重さの両方を見て、金額は絞られるのが基本の考え方になる。

紛失・破損のケース別に考える

ケース 弁償を求められにくい 弁償を求められやすい
原因 通常の使用による経年劣化・自然な故障 業務外の私的利用中の破損、明らかな不注意(飲食物をこぼす等)
保管状況 会社の指示通りに保管していた 指示された保管ルールを破っていた(車内放置・施錠忘れ等)
会社側の備え 会社が動産保険・盗難保険に加入していた 保険に未加入で、損害を丸ごと個人に転嫁しようとしている
過失の程度 軽い不注意(うっかり) 重大な過失または故意
連絡のタイミング 気づいた時点ですぐ会社に報告した 隠していた、退職直前まで黙っていた

通常の使用に伴う消耗(パソコンのバッテリー劣化、制服の色あせなど)は、そもそも「損害」として弁償の対象にならないという考え方が一般的だ。弁償の話が出るのは、紛失(所在が分からなくなった)や、明らかな不注意による破損の場合に限られる。

「無くした」と「返さない」は別の話

紛失と、貸与品を返さずに持ち去ることは、法的な扱いが異なる。無くしてしまった・壊してしまったことは基本的に民事上の損害賠償の話にとどまるが、貸与品を意図的に自分の物にする(会社に返す気がないまま持ち出す)場合は、横領罪(刑法252条)にあたる可能性が出てくる。ここで扱うのはあくまで「うっかり無くした・壊した」ケースであり、故意に持ち去る話ではない。 返却できるものは、退職日までに必ず返す(または返すと会社に伝える)ことが、この二つを混同されないための最初の一歩になる。

給与から天引きされたら:労基法24条を確認する

「弁償分は最後の給料から引いておくので」と会社が一方的に言ってきた場合は注意が必要だ。労働基準法24条は、賃金は全額を労働者に支払わなければならないと定めている(全額払いの原則)。例外として控除が認められるのは、法令に定めがある場合(税金・社会保険料など)か、労働者の過半数代表と会社が結ぶ労使協定(24条1項但書)がある場合に限られる。

会社に弁償金を天引きする労使協定が存在しない状態での一方的な天引きは、この原則に反する可能性がある。弁償するかどうか・いくら払うかについて自分が同意していない段階で、給与明細から勝手に引かれていた場合は、まずその根拠(労使協定の有無)を確認してほしい。

請求されたらやる手順

  1. その場で金額に同意しない。「確認して回答します」と持ち帰る
  2. 貸与品リストと現物の状態を自分でも記録する(写真・メモ・受け渡し時の書類があれば確認)
  3. 紛失・破損の経緯を書き出す(いつ・どこで・何をしていたときか)
  4. 会社の備品管理規程・貸与品規程を確認する(閲覧を求める権利がある)
  5. 保険加入の有無を尋ねる(動産保険・盗難保険があれば、会社側も一部負担しているはず)
  6. 給与天引きの提案には同意しない。振込等、同意した方法でのみ支払う

会社への回答文例

金額をその場で認めず、根拠を確認するための返信文例。

件名:貸与品の件について

〇〇部長

このたびは貸与品の紛失(破損)についてご連絡いただき、
申し訳ございません。事実確認のうえ、誠実に対応いたします。
つきましては、以下について書面でご教示いただけますでしょうか。

・弁償を求める金額の算定根拠(購入価格・使用年数からの減価等)
・当該貸与品にかかる会社の保険加入の有無
・お支払い方法(給与天引きではなく振込での対応を希望します)

確認のうえ、あらためてご回答いたします。

〇〇(氏名)

このメールの目的は支払いを拒否することではなく、「請求された金額をその場で認めていない」という記録を残すことだ。根拠が示されない、または規程に金額の定めがないまま一律の金額を求められている場合は、それ自体が争う材料になる。

計算例:減価を考えた弁償額の目安

会社支給のノートパソコン(購入価格12万円、法定耐用年数4年=48ヶ月。国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」の器具・備品/電子計算機(パソコン、サーバー用を除く)による)を、使用開始から18ヶ月で誤って破損させたと仮定する。定額法に近い考え方で、経過月数分の価値がすでに減っていたとみなして試算すると、次のようになる。

項目 数値
購入価格 120,000円
耐用月数 48ヶ月
使用済み月数 18ヶ月
残存価値の割合 (48−18)÷48 ≒ 62.5%
弁償額の目安(試算) 120,000円 × 62.5% ≒ 75,000円

前提:この計算は法律で定められた算定方法ではない。損害賠償額は民法415条・709条と信義則(茨城石炭商事事件)に基づき個別事情で判断されるため、法令や裁判所が定めた統一の算定式は見当たらない(2026年9月確認)。ここでの試算は「新品時の全額を求めるのは不合理」という考え方を分かりやすくするための一例で、会計上の減価償却の考え方を目安として使う弁護士の解説が複数見られたため、それを参考にしている。実際の金額は、会社側の管理状況(保険加入の有無)や過失の程度によって、この試算よりさらに下がる余地がある。新品購入時の金額をそのまま満額請求されている場合は、その根拠を確認する価値がある。

それでも高額を求められたら

会社が金額を譲らず、繰り返し支払いを求めてくる場合、その場で分割払いや金額に同意する必要はない。ここで、退職代行サービスを使う場合に知っておきたい線引きがある。

一般的な退職代行サービス(弁護士資格を持たない業者)は、退職の意思を会社に伝えることはできても、弁償金額の交渉や争いにはそのまま入れない。 金額を争う・減額を求める・支払い義務そのものを否定するといったやり取りは「法律事務」にあたり、弁護士でない者が代理で行うと非弁行為(弁護士でない人が行ってはいけない交渉)になる。

  • 弁償請求そのものの有効性を争いたい、減額交渉をしたい → 弁護士に相談する

  • 退職の意思を伝えるだけで、弁償の話は自分で対応する予定 → 一般の退職代行でも対応できる場合がある

  • PR:弁護士法人ガイア

※いずれも2026年8月時点の調査。料金・対応範囲は各社サイトで要確認。

チェックリスト:弁償に応じる前に確認する5つ

  • □ 紛失・破損は通常の使用によるものか、明らかな不注意によるものか
  • □ 会社の備品管理規程・貸与品規程に、弁償の条件と金額の算定方法が明記されているか
  • □ 会社が動産保険・盗難保険に加入していたか
  • □ 請求金額が、購入価格そのままではなく減価を考慮したものか
  • □ 給与天引きではなく、自分が同意した方法での支払いを求められているか

複数に「いいえ」がつく場合、請求されている金額は減額できる、または争える余地がある。

次にやること

まず、貸与品リストを見て、自分の手元にある物・返却済みの物・紛失した物を一覧にする。返せる物は退職日までに返す。弁償を求められたら、その場で金額に同意せず、算定根拠を書面で求めることから始める。

出典(2026年9月9日調査)

  • 民法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(415条・709条の条文を確認。本文の条文番号・内容と一致)
  • 労働基準法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049(16条「賠償予定の禁止」の条文を確認。本文の引用と一致)
  • 労働基準法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049(24条「賃金の支払」・全額払いの原則を確認。本文の記載と一致)
  • 裁判所 裁判例検索「茨城石炭商事事件」(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決) https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54209(事件番号・判示事項・民集30巻7号689頁の記載を確認。本文の判決内容と一致)
  • 国税庁 確定申告書等作成コーナー「耐用年数(器具・備品)」 https://www.keisan.nta.go.jp/r6yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensukigu1.html(電子計算機・パーソナルコンピュータ(サーバー用を除く)の耐用年数が4年であることを確認。本文の計算例の前提と一致)

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退職届を受け取る側に長くいて、そのあと自分が出す側になりました

人を採用し、辞めていく人を見送る立場に長くいました。退職代行から電話を受けたこともあります。そして自分が辞める番になり、失業保険の申請・ハローワークでの手続き・健康保険の切り替え・住民税の直接納付・保育園の継続手続きまで、すべて自分で通りました。両側を見た人間が書いています。「代行を使ったら会社はどう思うのか」に答えられるのは、受け取ったことがあるからです。

この記事の作り方: 下書きにAIを使い、法令の条文と官公庁の公式ページに照らして事実確認したうえで公開しています。確認の取れない記述が残る記事は公開せず、一次資料が見つからない箇所は本文にそう書いています。確認の手順を見る →

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