契約社員から正社員を目指す前に
この記事の内容
「正社員の求人が見つからず、契約社員で入って様子を見ようか迷っている」「今すでに契約社員で、このまま正社員を目指していいのか不安」という人向けの記事です。結論を先に言うと、契約社員から正社員を目指すのは「あり」ですが、それは会社に正社員登用の実績と制度があるときに限られます。 登用制度が無い会社に「いつか正社員にしてもらえるはず」という期待だけで入ると、何年たっても契約社員のままということが起こり得ます。
不安なまま入社したり、今の契約を更新し続けたりする前に、確認すべきことを整理します。
結論:まず何を確認するか
| 状況 | やること |
|---|---|
| これから契約社員の求人に応募しようとしている | 求人票・面接で「正社員登用実績」の有無と直近の人数を必ず聞く。「あり」とだけ書かれ人数の記載が無い求人は、実績が薄い可能性がある |
| すでに契約社員で、正社員登用を待っている | 就業規則・雇用契約書に登用制度の条文があるか確認する。口頭で「頑張れば正社員に」と言われているだけなら、それは制度ではなく個人的な期待にとどまる |
| 契約更新を何年も繰り返している | 通算契約期間が5年に近づいていないか数える。5年を超えると「無期転換」を申し込める権利が発生する(後述) |
| 正社員登用の話が出ないまま契約が切られそうになっている | 契約社員にも「雇止め法理」という保護がある場合がある。一人で判断せず、労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーに相談する |
契約社員として働くこと自体は、悪い選択でも「甘え」でもありません。問題は、正社員になれる見込みがどれくらいあるかを確認せずに入ってしまうことです。ここを確認するだけで、数年後の状況がかなり変わります。
契約社員と正社員、法律上どう違うのか
契約社員(有期雇用労働者)と正社員(無期雇用労働者)の一番の違いは、雇用契約に期間の定めがあるかどうかです。契約社員は「1年契約」「6ヶ月契約」のように期間が区切られ、契約期間が終わるたびに更新されるかどうかが決まります。正社員には原則として契約期間の定めがありません。
この違いから、次のことが言えます。
- 正社員は、会社側から一方的に辞めさせる(解雇する)には、労働契約法16条にもとづく厳格な要件(客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性)が必要
- 契約社員は、契約期間が満了すれば、更新するかどうかは原則として会社の判断に委ねられる(ただし後述の雇止め法理による制限はある)
つまり、契約社員のままでいる限り、「次も更新されるかどうか」を会社側の判断に委ね続ける立場にあります。ここが、契約社員から正社員を目指したいと考える人が多い一番の理由です。
同一の会社で働きながら待遇に差がある場合、パートタイム・有期雇用労働法8条・9条により、業務内容や責任の程度などが同じであれば不合理な待遇差は禁止されています(2020年4月施行、中小企業は2021年4月から適用)。ただし、これは「待遇差の是正」を求める根拠であって、「正社員にする」ことを義務づけるものではありません。この違いを混同しないことが大事です。
「無期転換」と「正社員登用」は別物
契約社員の話でよく混同されるのが、この2つです。
| 制度 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 無期転換ルール | 同じ会社との有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者が申し込めば「期間の定めのない契約」に転換される | 労働契約法18条 |
| 正社員登用 | 会社が独自に設ける制度。契約社員から正社員(職種・待遇が正社員と同じ区分)に切り替える | 各社の就業規則(法律上の義務ではない) |
無期転換ルールを使って「無期契約」になっても、給与や役職などの労働条件は、それまでの契約社員のときと同じまま引き継がれるのが原則です(労働契約法18条は契約期間の定めをなくすだけで、他の労働条件を書き換えるものではありません)。つまり「無期契約社員」という、正社員とは別の区分になるだけで、正社員の待遇に自動的になるわけではないケースが一般的です。
「5年働けば正社員になれる」という理解は、この点で不正確です。正社員になりたい場合は、無期転換とは別に、その会社の正社員登用制度に応募し、選考を通る必要があります。
登用されやすい会社・されにくい会社の見分け方
正社員登用の制度があるかどうかは、次のポイントで見分けられます。
| 確認先 | 見るポイント |
|---|---|
| 求人票 | 「登用実績あり」だけでなく、「年間◯名登用」「登用率◯%」など具体的な数字が書かれているか |
| 面接 | 「直近1年で何人が契約社員から正社員になったか」を具体的に質問し、答えが曖昧でないか |
| 就業規則 | 登用の条件(勤続年数・評価・試験の有無など)が条文として存在するか。口頭説明だけで規則に無いなら、制度化されていない可能性がある |
| 社内の実例 | 実際に契約社員から正社員になった人が身近にいるか、いる場合どのくらいの期間がかかったか |
厚生労働省「令和2年有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)」によると、契約社員(有期契約労働者)を雇用する事業所のうち正社員転換制度がある割合は、契約社員の仕事内容によって差があります。正社員とほぼ同じ仕事をしている「正社員同様職務型」では54.6%の事業所に制度がありますが、より軽い業務を担う「軽易職務型」では34.3%にとどまります(いずれも令和2年4月1日時点)。さらに、制度があっても実際に転換した実績がある事業所は、正社員同様職務型で66.8%、軽易職務型で50.0%です。つまり、制度と転換実績の両方がそろっている会社は、契約社員全体で見ても半数に届きません。この数字はあくまで全国平均で、業界・会社の規模によって差が大きいため、自分が入ろうとしている会社・今いる会社の実績を個別に確認することが欠かせません。
契約社員のまま更新され続けるとどうなるか
正社員登用の見込みが薄いまま契約更新だけが続く場合、次の2点は知っておいた方がいいポイントです。
1つ目は、雇止め法理です。 労働契約法19条により、次のいずれかにあたる場合、会社が正当な理由なく契約を更新しないこと(雇止め)は、無効になることがあります。
- 過去に反復更新されており、無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合
- 労働者が「次も更新される」と期待することについて、合理的な理由がある場合
長年更新を繰り返してきたのに、急に「今回で終わり」と言われた場合、この規定に照らして争える可能性があります。ただし、実際に無効と判断されるかどうかは個別の事情によるため、心当たりがある場合は一人で判断せず、労働基準監督署や都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談することをおすすめします。
2つ目は、無期転換ルールを避けるための「雇止め」です。 通算契約期間が5年に近づくタイミングで、会社側が無期転換を避ける目的で更新を打ち切るケースが報告されています(いわゆる「無期転換逃れ」)。これ自体を厚生労働省が正面から「違法」と一律に定義しているわけではありませんが、更新を期待させる言動があった後の雇止めは、上記の雇止め法理に照らして争いになりやすい類型です。
心身に負担がかかっている場合は、判断力も落ちます。無理に一人で抱え込まず、体調に不安があるときは医師や産業医に相談してから、労働条件の話を進めてください。
入社前・在職中に確認すること
最後に、これから契約社員として入る人・すでに契約社員として働いている人、それぞれがやることを整理します。
これから入る場合
- 求人票・面接で正社員登用の「実績数」を必ず確認する(「あり」とだけ書かれた求人は保留にする)
- 就業規則に登用条件が明文化されているかを、入社前に開示してもらえないか聞く
- 迷ったら、正社員求人と契約社員求人の両方に応募し、比較してから決める
すでに契約社員の場合
- 自分の通算契約期間を数え、5年に近づいていないか把握する
- 上司に「正社員登用の条件」を具体的に確認する(評価基準・試験の有無・時期)
- 更新のたびに「次はどうなるか」を曖昧にせず、書面(雇用契約書・就業条件明示書)で確認する
契約社員で入ること自体は、正社員の口が見つからないときの現実的な選択肢です。ただし「いつか正社員になれるはず」という期待だけで動かず、制度と実績があるかどうかを自分で確認する、この1点を最初にやってください。