退職届と退職願の違い
- 退職願は会社への合意解約の「申し込み」で、会社が承諾するまでは撤回できる余地がある(最高裁昭和62年9月18日・大隅鉄工所事件)
- 退職届は民法627条1項に基づく一方的な「解約の通知」で、会社に届いた後は原則撤回できない
- 「辞表」は主に役員・公務員が使う言葉とする整理は一般に見られるが、一般の労働者が使った場合の法的効力を明記した公的機関・専門家の一次資料は見当たらない(一次情報は確認できず)
- 書式は縦書きの「私儀」から始める形式が一般的だが、様式に法律上の決まりはない
- 就業規則に「1ヶ月前までに申し出る」等の規定があっても、無期雇用の正社員は民法627条1項により2週間前の通知で退職の効力が生じるという考え方が有力で、就業規則の予告期間を延長する定めは無効とした判例もある(高野メリヤス事件・東京地判昭和51年10月29日)
- 1退職を決める
- 2提出先を確認
- 3願か届か決める
- 4書いて渡す
- 5受理を確認
この記事の内容
「退職届」と「退職願」、似ているようで法的な意味は違います。この記事では、それぞれが何を意味するか、どちらを出すべきか、書き方の型、いつ出せば退職できるかを順番に整理します。
- 退職届と退職願、どちらを書けばいいのか分からない
- 書き方の正解が分からず、テンプレートをそのまま真似ていいのか不安
- いつまでに出せば予定通りの日に辞められるのか分からない
結論:願は「申し込み」、届は「通知」
| 論点 | 結論 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 退職願とは何か | 会社に退職を「お願いする」書面。合意解約の申し込み | 会社が承諾して初めて退職の合意が成立する |
| 退職届とは何か | 会社に退職を「通知する」書面。一方的な解約の意思表示 | 民法627条1項に基づき、会社の承諾を要さない |
| どちらを出すべきか | 円満退職を目指すなら退職願、確実に辞めたいなら退職届 | 撤回のされにくさが違うため |
| 辞表との違いは | 辞表は主に役員・公務員が使う言葉 | 一般の労働者が使った場合の法的効力を明記した公的機関・専門家の一次資料は見当たらない(一次情報は確認できず)。転職メディア各社は「届と同様に扱われることが多い」と共通して説明している |
| いつ出せば辞められるか | 無期雇用の正社員は、届が会社に届いてから2週間で退職できるという考え方が有力 | 民法627条1項。就業規則の予告期間を延長する定めは無効とした判例あり(高野メリヤス事件・東京地判昭51.10.29) |
迷ったら「退職届」を選ぶのが無難です。会社の承諾を待たずに退職の効力が生じるため、引き止めに遭っても撤回されにくいという性質があります。
退職願・退職届・辞表の違い
3つの言葉は似ていますが、法的な位置づけが異なります。
| 書面 | 法的な性質 | 主な使い手 | 撤回のされやすさ |
|---|---|---|---|
| 退職願 | 労働者から会社への「合意解約の申し込み」 | 一般の労働者 | 会社の承諾権者が承諾するまでは撤回できる余地があるとされる(最高裁昭和62年9月18日・大隅鉄工所事件) |
| 退職届 | 労働者から会社への「一方的な解約の通知」 | 一般の労働者 | 会社に届いた後は原則撤回できない |
| 辞表 | 役職・任命された地位を辞する届出 | 役員・公務員・委員などの役職者 | 一般の労働者が使った場合の扱いを明記した一次資料は見当たらない(一次情報は確認できず)。転職メディア各社は「届と同じ扱いになることが多い」と共通して説明している |
退職願は「お願い」なので、会社側の承諾があって初めて雇用契約の終了が合意として成立します。これに対して退職届は、民法627条1項に基づく労働者側の一方的な意思表示であり、会社の承諾は不要とされています(根拠:民法627条1項「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」)。
つまり、退職届は「会社がOKしなくても、2週間後には辞められる」という強い書面です。一方、退職願は会社との対話を前提にした、柔らかい申し出だと考えるとわかりやすくなります。
「なるべく揉めずに辞めたい」なら退職願、「引き止めがしつこそうで、確実に辞めたい」なら退職届、という使い分けが一つの目安になります。
書き方の型
退職願・退職届の様式について、法律上の決まりはありません。ただし、実務上よく使われる型があります。
共通の構成要素
- 表題(「退職願」または「退職届」)
- 「私儀(わたくしぎ)」または「私事」から書き始める
- 退職理由(自己都合の場合は「一身上の都合により」とするのが一般的)
- 退職希望日
- 提出日
- 所属・氏名・押印
- 宛先(会社名・代表者名または直属の上司)
文末表現の違い
同じ構成でも、退職願と退職届では結びの文言が異なります。
| 書面 | 結びの文例 |
|---|---|
| 退職願 | 「令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます」 |
| 退職届 | 「令和〇年〇月〇日をもって退職いたします」 |
「お願い申し上げます」か「退職いたします」かという語尾の違いが、そのまま「申し込み」と「通知」という法的性質の違いを表しています。用紙は白無地の便箋、封筒は無地の白封筒に「退職願」または「退職届」と表書きするのが一般的な形式です。手書き・パソコン作成どちらでも構いませんが、社内の慣習や就業規則に指定がある場合はそれに従ってください。
提出先は、就業規則に定めがあればそれに従い、定めがなければ直属の上司に手渡すのが一般的です。郵送で提出できるかどうかは会社の対応によります。
出すタイミングと就業規則の関係
「いつ出せば、いつ辞められるか」は、就業規則の規定と法律の規定の2つが関わってきます。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 就業規則 | 「退職の1ヶ月前までに申し出ること」等の規定があることが多い |
| 民法627条1項 | 無期雇用の場合、解約の申し入れから2週間経過で雇用契約が終了する |
就業規則の予告期間と民法627条1項の2週間、どちらが優先するかについては見解に幅があります。裁判例では、就業規則で「退職の1ヶ月前(役付者は6ヶ月前)までに申し出て会社の許可を得ること」と定めていた事案で、東京地裁が「民法627条の予告期間は使用者のために延長することはできず、退職に会社の許可を要することもできない」と判断したものがあります(高野メリヤス事件・東京地判昭和51年10月29日)。実務上は、就業規則の規定に従って早めに申し出るのが円満退職につながりやすい一方で、法律上は無期雇用の正社員であれば退職届を会社に届けた日から2週間経過すれば退職の効力が生じるという考え方が有力です。就業規則の期間が長く、会社が首を縦に振らない場合の最終手段として、この2週間のルールを知っておく意味があります。
なお、この2週間ルールは無期雇用(正社員など)を前提としています。契約期間の定めがある有期雇用の場合は、民法627条ではなく628条(やむを得ない事由があるときは直ちに契約を解除できる)や契約内容が別途関わってくるため、本記事の対象外としています。
円満に辞めたいなら、就業規則の予告期間を守って早めに伝えるのが基本です。「2週間で辞められる」は、揉めたときの最終ラインとして知っておく知識だと考えてください。
出したあと撤回できるか
書面を出した後で「やっぱり辞めたくない」と思い直した場合、撤回できるかどうかは書面の種類によって変わります。
- 退職願の場合:会社側の承諾があって初めて退職の合意が成立する性質上、承諾前であれば撤回できる余地があるとされています。ただし、退職承認の決定権を持つ担当者(人事部長など)が退職願を受理した時点で会社側の承諾があったとみなされ、以後は撤回できないと判断した最高裁判例があります(最高裁昭和62年9月18日・大隅鉄工所事件)。実際に誰が承諾権者にあたるか、承諾があったと言えるかは個別の事情によるため、揉めている場合は労働基準監督署や弁護士に確認してください
- 退職届の場合:会社に届いた時点で一方的な解約の意思表示として効力を持ち始めるため、原則として撤回はできません。撤回するには会社側の同意が必要です
「勢いで出してしまった」と後悔しないためにも、退職届を出す前には気持ちを固めておくことをおすすめします。迷いがある段階では、まず退職願として出し、会社との話し合いの余地を残しておくという選択肢もあります。
退職代行を使う場合はどうなるか
退職代行を利用する場合も、退職の意思表示自体は「退職届」または「退職願」の形で会社に伝わることになります。多くの退職代行サービスは、依頼者に代わって会社へ退職の意思を伝え、弁護士監修の退職届テンプレートを渡すなどして書面の提出方法についても案内してくれます(※2026年8月時点の各社公式サイトの調査。書面の要否や提出方法は依頼先・会社によって異なります)。
会社と直接顔を合わせずに退職届を提出したい場合、退職代行Jobs、弁護士法人ガイア、退職代行ネルサポート のようなサービスでは、退職の意思表示と合わせて、退職届の提出方法(郵送か会社側で用意するか)についても相談できる場合があります。なお退職代行CLEARは2025年5月頃から公式サイトの更新が確認できず、複数の比較サイトが運営停止・サービス終了とみて記事を更新しています(2026年8月時点の調査)。利用を検討する場合は、申し込み前に公式サイトの稼働状況を確認してください。
それでも迷うとき
「どちらを出せばいいか分からない」「出したあとに揉めそうで怖い」という不安があるときは、無理に一人で決めず、まずは就業規則を確認し、退職の意思を固めた上で行動することをおすすめします。それでも気持ちが落ち着かない、眠れないといった不調がある場合は、書面の選び方より先に医師や産業医に相談してください。
次にやること
まず就業規則を確認し、退職の申し出に関する規定(提出先・予告期間)を確認してください。円満に辞めたいなら退職願、確実に辞めたいなら退職届を選び、「私儀」から始まる一般的な書式で作成します。会社が受け取りを拒む・引き止めが強い場合は、無期雇用であれば民法627条により届出から2週間で退職できるという知識を最終ラインとして持っておくと安心です。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。個別の雇用契約・就業規則の内容によって状況は異なります。判断に迷う場合は、勤務先の担当部署や弁護士・労働基準監督署にご確認ください。
出典 - 民法627条1項(期間の定めのない雇用契約における解約の申入れと、申入れの日から2週間経過による終了) - 民法628条(やむを得ない事由による契約の解除。有期雇用に関連) - 最高裁昭和62年9月18日判決(大隅鉄工所事件)。退職願の撤回と会社承諾の成立時期に関する判例 - 東京地裁昭和51年10月29日判決(高野メリヤス事件)。就業規則の予告期間と民法627条の優先関係に関する裁判例 - 広島県・今治市雇用労働相談センター(厚生労働省)「辞職と退職願の提出、どう違うの?」(2026年8月確認)