退職届を出したあとに撤回できるか
- 1事実を書き出す
- 2その日のうちに伝える
- 3撤回のお願いを書面で
- 4会社の返事を待つ
- 5通らなければ退職日を相談
この記事の内容
退職届や退職願を出したあとで「やっぱり辞めたくない」と思い直した人に向けた記事です。先に答えを言います。撤回できるかどうかは、書類の名前ではなく「会社が退職を認める返事をしたか」と「書面の中身」で分かれます。そして、気づいた時点で当日中に動くほど、通る余地が残ります。
会社に「受理しました」と言われたあとでも、すぐに諦める必要はありません。ただし、通らないこともあります。この記事では、どこまでが法律の決まりで、どこからが会社の判断なのかを分けて書きます。
結論:撤回できるかは、この5つの場面で分かれる
| 場面 | 撤回できるか | 根拠の考え方 |
|---|---|---|
| 退職願を出した。会社はまだ返事をしていない | 撤回できる余地が大きい | 退職願は「辞めさせてください」というお願い。会社が承諾するまでは、お願いを取り下げられるという整理がされる |
| 退職願を出した。会社の承諾権者がすでに承諾した | 原則、撤回できない | 承諾で退職の合意ができあがるため |
| 退職届を出した。会社に届いている | 原則、撤回できない | 一方的な「辞めます」の通知で、届いた時点で効力が出る(民法97条1項) |
| 会社が「撤回していいですよ」と同意した | 撤回できる | 会社との話し合いで、退職をなかったことにできる |
| 上司に脅されて書いた、事実と違う説明でだまされて書いた | 取り消せる可能性がある | 民法96条(詐欺・強迫)、95条(錯誤) |
「受理」という言葉が出てきますが、調べた範囲では、民法・労働基準法の条文に、退職届・退職願の「受理」を決めた規定は見当たりません(2026年9月確認。民法に「受理」が出てくるのは、婚姻・離婚・縁組・離縁の届出だけでした)。つまり「受理された=もう撤回できない」と法律が決めているわけではありません。撤回できるかどうかは、下で説明する「会社が承諾したか」「書面が何だったか」で見られます。
まず、責めなくて大丈夫です
退職を決めるとき、人は迷いながら決めます。出したあとに、こんな気持ちが出てくるのは自然です。
- 上司に引き止められて、気持ちが揺れた
- 次の仕事が決まらず、不安になった
- 職場の状況が変わって、辞める理由が薄れた
- 勢いで出してしまい、冷静になったら後悔している
「一度出したものを引っ込めるなんて、みっともない」と思う必要はありません。ただ、時間が経つほど、会社の側は後任の手配や引き継ぎを進めます。動くなら早いほうが通りやすい、というのは事実です。
撤回できるかを分ける3つの軸
判断の材料は3つです。
- 何を出したか:退職願(お願い)か、退職届(一方的な通知)か
- 誰が、どう返事をしたか:退職を認める権限のある人が、承諾したか
- どんな状況で出したか:自分の意思で出したか、強く迫られたか
書類の題名だけで決まるとは限りません。「退職届」という題名でも、文面が「お願いいたします」なら、お願いとして扱われる余地があります。逆に「退職願」でも、会社がすぐ承諾すれば、そこで合意が成立します。
退職願と退職届の書き分けそのものは、退職届と退職願の違いにまとめています。
退職願は、会社が承諾するまで取り下げられる余地がある
退職願は、法律的には「合意で契約を終わらせたい」という申込みにあたります。会社が承諾すると、そこで合意ができあがります。
最高裁昭和62年9月18日の判決(大隈鉄工所事件として紹介されています)は、退職願の提出を、承諾によって労働契約を終わらせる合意の申込みと見て、会社の承諾があった後は撤回できないという考え方を示したものとして広く紹介されています。厚生労働省系の労働相談の案内でも、同じ整理で説明されています。
ここで大事なのは「誰が承諾したか」です。
- 直属の上司が「わかった」と言っただけ → 退職を決める権限がない人の返事は、承諾と見られないことがある
- 人事部長や社長など、退職を認める権限のある人が「受け付けた」と返事した → 承諾と見られやすい
ただし、誰に権限があるかは会社ごとに違い、個別の事案で結論が分かれます。ここは断定できません。自分の会社の就業規則を開いて、退職の手続きを誰が決める形になっているかを確かめてください。
退職届は、届いたあとは原則、撤回できない
退職届は、法律的には「辞めます」という一方的な通知です。会社の承諾が要りません。
民法627条1項は、期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)について、こう決めています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
そして民法97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と決めています。退職の通知が会社に届いた時点で、退職の手続きが動き出します。相手の同意なしに引っ込められるかというと、一般には撤回できないと説明されます。
期間の定めのない雇用の話です。契約期間が決まっている契約社員は、途中で辞められる場面が限られます(民法628条)。契約社員は契約期間の途中で辞められるかを先に見てください。
撤回できないときでも、会社が同意すれば話は別
法律上は撤回できない場面でも、会社が「いいですよ」と同意すれば、退職をなかったことにできます。 実務ではここが一番の道です。
- 会社が撤回に応じる義務を定めた条文は、民法・労働基準法には見当たりません(2026年9月確認)
- 一方で、会社が撤回を認めてはいけないという条文も見当たりません(同)
- つまり「会社がどう判断するか」に左右されます
人手が足りない職場や、本人を引き止めたかった会社は、応じることがあります。逆に、後任がもう決まっていたり、本人との関係が悪くなっていたりすると、応じないこともあります。応じてもらうためには、謝意と理由を、短く誠実に伝えることが、いちばん効きます。
書かされたなら、取り消せる可能性がある
「辞めなければ懲戒解雇にする」と脅された、「みんな辞めている」「退職金が出る」と事実と違うことを言われた、といった状況で出したものは、別の扱いになる場合があります。
| 状況 | 条文 | 中身 |
|---|---|---|
| 脅されて出した(強迫) | 民法96条1項 | 意思表示は取り消すことができる |
| だまされて出した(詐欺) | 民法96条1項 | 同上 |
| 事実を勘違いして出した(錯誤) | 民法95条1項 | 重要な勘違いなら取り消せる。ただし重大な過失があると認められにくい(同条3項) |
これは条文までの一般論です。自分のケースが当てはまるかは、個別に判断が分かれます。当てはまりそうなら、次の窓口に相談してください。
- 各都道府県の労働局などにある総合労働相談コーナー(無料)
- 弁護士
心身の不調が出ているときは、書類の話より先に、医師や産業医に相談してください。
手順:撤回したいと気づいた日にやること
順番は、次の5段階です。
1. 事実を紙に書き出す(10分)
あとで食い違わないよう、次の5点を、スマホのメモでもいいので書き出します。
- 何を出したか(退職願か退職届か、題名と文面)
- いつ、誰に渡したか
- 相手はなんと返事をしたか(一言でも)
- 退職日は何月何日と書いたか
- 出したときの状況(引き止めの有無、脅しの有無)
2. その日のうちに、上司か人事に伝える
気づいたら当日中に、口頭でいいので「出した書類を撤回させてほしい」と伝えます。翌日以降に持ち越すほど、会社の手続きが先に進みます。
3. 撤回のお願いを書面(メールでも可)で出す
口頭だけだと、言った言わないになります。次の文例を、状況に合わせて直して使ってください。
4. 会社の返事を待つ
返事は、口頭でなく書面かメールで受け取ります。「保留」と言われたら、いつまでに返事がもらえるかを聞いて、その日付も記録します。
5. 通らなかったら、退職日を相談する
撤回が通らなくても、退職日を延ばしてもらう、引き継ぎの期間を長めにもらう、といった相談はできます。ここも会社との話し合いです。
文例:撤回のお願い(メール・書面共通)
そのままコピーして、◯の部分を自分の状況に置き換えてください。
件名:退職届(退職願)の撤回のお願い(氏名)
◯◯部 ◯◯様
お疲れさまです。◯◯部の◯◯です。
◯月◯日に提出いたしました退職届(退職願)について、
撤回をお願いしたく、ご連絡いたしました。
提出後に、◯◯(例:家族と話し合い、もう一度考え直した/
今後の働き方を見直した)という事情があり、
現在の職場で働き続けたいという気持ちに至りました。
突然のお願いで、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
すでに手続きを進めていただいている場合もあると存じますが、
何卒ご検討いただけますでしょうか。
お手数ですが、ご判断を、◯月◯日までに
メールまたは書面でお知らせいただけると助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
◯◯部 ◯◯(氏名)
書かないほうがいいもの。 会社や上司への不満、「本当は辞めたくなかったのに書かされた」といった言い分を、最初の書面には入れません。書かされたと考えているなら、上の「書かされたなら」の窓口に先に相談してください。
チェックリスト:撤回を出す前に確かめること
□ 出した書類の題名と、文面が「お願い」か「通知」かを読み返した □ 誰に渡したか、その人に承諾の権限があるかを、就業規則で確かめた □ 会社から「受け付けた」「承知した」と返事があったか、日付と言葉を書き出した □ 退職日が過ぎていないかを確認した(過ぎていれば、もう会社との契約が終わっています) □ 撤回のお願いを、口頭だけでなく書面かメールで残した □ 会社の返事の期限を、相手と自分の両方が分かる形にした □ 脅された・だまされたという事情があるなら、総合労働相談コーナーか弁護士に、書面を出す前に相談した
撤回が通らなかったとき
会社が応じなかったら、退職は進みます。ここで、次の2点を心に置いてください。
- 退職日までは、まだ会社の一員です。引き継ぎを丁寧にすれば、次の職場での紹介や、円満な関係の余地が残ります
- 退職後の生活(失業保険、健康保険、年金)の手続きは、退職日が決まってからでも動かせます
会社が「話を聞いてくれない」「手続きを止めている」場合は、上司が退職の話を上げてくれないときも参考にしてください。
なお、この記事の内容は、調べた範囲での一般論です。体験談は書いていません。自分のケースで結論が出ない場合は、労働局の相談窓口か弁護士に、書類のコピーを持って相談してください。
次にやること
今日中に、出した書類の題名・渡した相手・相手の返事・退職日の4点を、スマホのメモに書き出してください。そのうえで、上司か人事に「撤回させてほしい」と当日中に伝えてください。