有給の買い取りは頼めるか
- 有給休暇の買取は労働基準法39条の趣旨から原則NG(休むための権利を金銭で代替すると趣旨が損なわれるという行政解釈)
- 例外的に買取が認められるのは①法定を上回る会社独自の付与分 ②退職時に消化しきれず残った分 ③時効(2年・労基法115条)で消えた分の3パターン
- 買取に法律上の義務はなく、相場は会社の任意設定(多くは「休んだ場合と同じ日給」を基準にするという解説が複数サイトに見られるが、公的な統計はない)
- 会社が拒否したら、まず有給を消化できる期間があるかを先に確認するのが現実的
この記事の内容
この記事は、退職を控えて有給休暇が消化しきれずに余っている人、または退職済みで「あの有給、お金にならないか」と考えている人に向けて書いています。 結論から言うと、有給休暇の買取は労働基準法の趣旨から原則できません。ただし、退職時に残った分を含む3つの例外パターンでは、会社の判断で買い取ってもらえることがあります。ここでは何が根拠で、どこまでが「頼める」範囲なのかを整理します。
- 有給が何日も余ったまま辞めることになりそうで、消化しきれない分をお金にできないか知りたい
- 会社に「買取はできません」と言われたが、それが本当に法律上そうなのか分からない
- 買い取ってもらえるとして、いくらになるのか相場が分からない
まず押さえておきたいのは、「有給の買取」と「有給の消化」は別の話だという点です。順番に整理します。
結論:買取は原則NG、例外は3パターン
有給休暇の買取は、労働基準法第39条の趣旨に反するとされ、原則として認められていません。有給休暇は労働者が心身を休めるための権利であり、それを金銭に置き換えてしまうと、本来の「休む」という目的が失われるためです。
一方で、次の3つは労基法39条が想定する「取得すべき有給」そのものではないため、例外的に買取が認められるという整理が、複数の社労士・法律事務所サイトで共通しています。
| 例外パターン | 内容 |
|---|---|
| ① 法定を上回る会社独自の付与分 | 労基法が定める最低日数を超えて、会社が上乗せで付与した分 |
| ② 退職時に消化しきれず残った分 | 退職により、そもそも今後取得する機会がなくなった分 |
| ③ 時効(2年)で消滅した分 | 労働基準法第115条により、付与から2年で権利が消える分 |
ただし3つとも「買い取ってもよい」であって「買い取らなければならない」ではありません。会社に買取の法的義務はなく、応じるかどうかは会社の任意です。ここが誤解されやすいポイントです。
なぜ原則できないのか
労働基準法第39条は、労働者に年次有給休暇を「与えなければならない」と定めています。この規定の趣旨は、労働者に心身を休める機会を確保することにあります。
もし会社が「有給を取らずに働いてくれれば、その分をお金で払う」という運用を認めてしまうと、労働者が休まずに働き続けることを事実上助長してしまい、有給休暇制度そのものが骨抜きになります。このため、行政解釈上、事前の買い上げ予約によって有給の取得日数を減らすことは労働基準法第39条違反とされています(昭和30年11月30日基収4718号)。厚生労働省の公式サイトを探しましたが通達原文の公開は見当たりませんでした。通達番号と内容(買上げ予約によって有給の取得日数を減らすことは労基法39条違反)は、複数の社労士・法律事務所サイトで一致して紹介されています(古い行政通達のため原文はネット上で一般公開されておらず、内容は複数の専門家サイトの一致で確認。一次情報は確認できず)。
つまり問題視されているのは、「最初から買い取る前提で、有給を取らせない」という運用です。逆に言えば、労基法が本来保障している日数そのものに手をつけない例外パターンであれば、話は別になります。
例外的に認められる3つのケース
① 法定を上回る会社独自の付与分
労働基準法が定める有給日数は最低ラインです。会社が福利厚生としてこれを上回る日数を独自に付与している場合、その上乗せ分は労基法39条が直接保障する日数ではないため、買取の対象にしても法律違反にはならないという整理です。
② 退職時に消化しきれず残った分
退職すれば、その会社で有給を取得する機会自体がなくなります。「休むための権利」を行使する場を失った状態なので、代わりに金銭で清算しても、労基法39条が守ろうとしている「休む機会」を奪うことにはならない、という考え方です。これが最も一般的な買取のケースです。
③ 時効(2年)で消滅した分
有給休暇には取得期限があります。付与された日から2年で権利が消滅します(労働基準法第115条。有給休暇の請求権は同条にいう「賃金の請求権」ではなく「その他の請求権」に当たるため2年)。2020年の法改正で賃金請求権の消滅時効は5年(当面3年、労働基準法附則第143条第3項)に延長されましたが、有給休暇の時効は2年のまま据え置かれています(厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&Aサイト、2026年8月31日確認)。この時効で消える分についても、買取の対象にできるとされています。
3パターンとも共通しているのは、「本来取得できたはずの有給がすでに使えなくなっている」状態だという点です。まだ取得の機会が残っているのに買い取る、という運用は原則できません。
買取の相場はどう決まるか
買取に法律上の義務がない以上、金額にも法律で決まった基準はありません。会社の就業規則や個別の合意で決まります。
複数の解説サイトが挙げているのは、有給休暇を実際に取得して休んだ場合と同じ賃金を基準にする方法です。
| 賃金形態 | 目安となる計算式 |
|---|---|
| 月給制 | 月給 ÷ 所定労働日数 |
| 時給制 | 時給 × 1日の所定労働時間 |
会社によっては、この「通常の賃金」ではなく平均賃金(労働基準法第12条。算定事由発生日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割って算出)を用いる場合もあり、その場合は受け取れる金額が下がることがあります。また、法律上の縛りがないため、「未消化1日につき一律◯円」のように、実際の給与水準とは切り離した定額で設定している会社もあります。
これらはいずれも各解説サイトが挙げている一般的な計算方法であり、実際にどの方法が採用されているかを示す公的な統計は確認できませんでした(買取相場の分布や平均額を示す公的統計・大規模調査は今回の調査範囲では見つからなかった。一次情報は確認できず)。
つまり「有給1日あたりいくら」という全国共通の相場は存在しません。会社の就業規則を確認するか、退職時の交渉の中で金額を提示してもらうしかない、というのが実際のところです。
会社が買取に応じない場合、先にやること
会社に買取の義務がない以上、「買い取ってください」と申し出ても、断られればそれまでです。ここで先に確認すべきなのは、買取よりも消化です。買取は会社の任意ですが、労基法が保障する日数分の有給を取得すること自体は労働者の権利であり、退職日までにまだ日数が残っているなら、そちらを先に交渉する方が現実的です。
ただし、この「有給消化の交渉」を誰でもできるわけではない点には注意が必要です。会社と交渉する権限を持つのは、労働組合運営(団体交渉権に基づく交渉、労働組合法第6条)と弁護士運営(法律事務としての代理交渉)の退職代行に限られます。民間企業運営の退職代行は、法律上「退職の意思を伝える」ことしかできず、有給消化や買取についての交渉を引き受けると、弁護士法第72条が禁じる非弁行為に当たる可能性があります。
自分で会社と交渉するのが難しい状況で、有給消化や退職条件のやり取りを任せたい場合は、運営元が労働組合か弁護士かを申し込み前に確認してください。
次にやること
まず、退職日までに残っている有給日数と、実際に取得できる残り日数を数えてください。 買取は会社の任意ですが、消化は権利です。日数が残っているなら、買取の交渉より先に、その日数を退職日までに取得できないか会社に確認することから始めてください。
※本記事は2026年8月時点の調査に基づく一般的な情報です。買取の可否・相場は会社の就業規則や個別合意によって変わるため、実際の金額や条件は必ず勤務先の就業規則・人事担当者にご確認ください。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士・社会保険労務士にご相談ください。