傷病手当金と有給休暇、どちらを先に使うべきか
- 1休み始める
- 2待期3日を数える
- 3有給か手当金かを決める
- 4申請書を出す
- 5退職なら退職日は休む
この記事の内容
病気やけがで仕事を休むことになり、「有給が残っているけれど、傷病手当金と、どちらを先に使えばいいのか」で迷っている人に向けた記事です。先に答えを言います。有給と傷病手当金は、同じ日には重ねられません。ただし、最初の3日間だけは、有給を使っても損をしません。
「先か後か」の二択ではなく、日ごとに「この日は有給、この日は傷病手当金」と割り振る話だと考えると、整理しやすくなります。この記事では、その割り振りで金額がいくら変わるかを、計算例で出します。
有給を使った日は、傷病手当金が出ない
傷病手当金は、健康保険から出るお金です。仕事を休んで給料が出ないときの生活を支える仕組みで、条文はこうなっています。
疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないとき(出産手当金の調整に関する一部の場合を除く)は、その差額を支給する。(健康保険法108条1項)
有給休暇を使った日は、給料が払われます。だからその日は、傷病手当金が出ません。協会けんぽの案内も同じ趣旨です。「給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます」(全国健康保険協会、2026年9月22日確認)。
つまり、1日について「有給の給料」か「傷病手当金」のどちらか一方です。両方を同じ日にもらうことはできません(有給の額が手当金より少ないときだけ、差額が出ます)。
待期の3日間は、有給で埋めても損をしない
ここが、この記事でいちばん伝えたい点です。
傷病手当金は、休んだ初日から出るわけではありません。条文は「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」支給すると書いています(健康保険法99条1項)。最初の連続3日間を、待期(たいき)と呼びます。この3日間には、傷病手当金が出ません。
そして協会けんぽは、この待期について次のように案内しています。「待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません」(全国健康保険協会、2026年9月22日確認)。
整理すると、次のとおりです。
| 日 | 傷病手当金 | 有給を使うと |
|---|---|---|
| 休み始めの3日間(待期) | 出ない | 給料が入る分だけ、まるまる得 |
| 4日目以降 | 出る | 給料が入る代わりに、その日の手当金が出なくなる |
待期の3日間は、有給を使わなければ、給料も手当金もゼロの3日間になります。ここを有給で埋めれば、待期の成立を妨げずに、その日の収入だけが増えます。
ただし、有給は「出勤する予定だった日」にしか使えません。休み始めの3日間のなかに土日などの休みの日があれば、その日は有給の対象になりません。
計算例|3つのパターンで、4週間の収入を比べる
同じ4週間を、有給の使い方を変えて比べます。金額は仮置きです。自分の額は、給与明細と、会社・保険者の案内で確かめてください。
前提
- 月曜から金曜勤務(土日は休み)、月給30万円。直近12か月の標準報酬月額の平均も30万円
- 月曜に休み始め、そこから連続28日間(4週間)、医師が働けないと認めている
- 有給は10日以上残っている
- 有給1日の給料:30万円 ÷ 所定労働日20日 = 15,000円(通常の賃金を払う会社の場合。額の決め方は就業規則で決まる。労働基準法39条9項)
- 傷病手当金1日:30万円 ÷ 30 × 2/3 = 6,666.7円 → 端数処理をして6,667円(健康保険法99条2項)
- 社会保険料、所得税、住民税、振込までの日数は入れていない
| パターン | 有給を使う日 | 給料の合計 | 傷病手当金(日数) | 手当金の合計 | 4週間の収入 |
|---|---|---|---|---|---|
| A:有給を使わない | 0日 | 0円 | 25日 | 166,675円 | 166,675円 |
| B:最初の2週間の平日に使う | 10日 | 150,000円 | 18日 | 120,006円 | 270,006円 |
| C:待期の3日間だけに使う | 3日 | 45,000円 | 25日 | 166,675円 | 211,675円 |
数え方の中身です。
- A:待期は月・火・水の3日。4日目(木)から28日目までの25日分が出る。25日 × 6,667円 = 166,675円
- B:有給の10日のうち、月・火・水の3日は待期なので手当金には関係がない。残る7日(木・金と翌週の月〜金)は、有給を使うと手当金が出なくなる。手当金が出るのは 25日 − 7日 = 18日。18日 × 6,667円 = 120,006円
- C:待期の3日だけ有給。手当金の日数はAと同じ25日のまま
有給1日あたりの上乗せは、こう違います。
| 有給を使う日 | 1日あたりの上乗せ |
|---|---|
| 待期の日 | 15,000円(手当金は元々出ない日) |
| 4日目以降の日 | 8,333円(15,000円 − 6,667円) |
ここから分かることは2つです。
- 金額だけを見れば、有給を使うほうが収入は増える。BはAより 103,331円 多い
- ただし有給を10日使っても、増える額は「1日あたり8,333円」が中心で、待期の3日分だけが割がいい。Cは有給3日で45,000円増え、有給を7日残せる
この表は総額の比較です。実際には、給料からは社会保険料や税金が引かれます。傷病手当金には所得税がかからない扱いです(健康保険法62条。詳しくは退職後の傷病手当金と確定申告)。手取りの差は、表の金額より小さくなります。
有給を残しておく理由は、消えるタイミングにある
金額だけなら、有給を使うほうが収入は増えます。それでも「全部は使わない」人がいるのは、有給が、ずっと持っていられる物ではないからです。
- 時効:労働基準法115条は、賃金以外の請求権を2年としています。有給休暇の請求権もこの2年の時効にかかるという厚生労働省の解釈があります(昭和22年12月15日基発第501号)。古い分から消えていきます
- 退職:辞めるときに残っている有給は、その会社では使えなくなります。使い切って辞める方法は、有給休暇を使い切って辞める方法にまとめました
- 復職:会社に戻るなら、通院や体慣らしの休みに、有給が役に立ちます。休職中の有給の扱いは休職中に有給は使えるかを見てください
一方、傷病手当金には枠があります。同じ病気やけがについて、支給を始めた日から通算して1年6か月です(健康保険法99条4項)。
有給の日は手当金が出ない日なので、その日が1年6か月の枠を減らすのかどうかが気になります。条文の99条4項は「その支給を始めた日から通算して一年六月間」とだけ書いていて、有給で休んだ日の数え方は、条文からは読み取れません。長く休む見込みの人は、自分の保険者(協会けんぽか健康保険組合)に聞いてください。
どちらを先にするか|状況別の目安
法律で決まった正解はありません。状況ごとの、考え方の目安です。
| あなたの状況 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 会社に戻るつもり | 待期の3日に使う。残りは復職後のために残す | 待期の有給がいちばん割がいい。復職後の通院日にも使える |
| 辞めるつもり(辞める時期が決まっている) | 待期の3日に使い、残りは退職までの見通しで決める | 退職で残りが使えなくなる。ただし下の「退職日の注意」を先に読む |
| 生活費が今月ぎりぎり | 有給を先に使う選択もある | 手当金は申請から振り込みまで時間がかかることがある。給料は予定日に入る |
| 国民健康保険に入っている | この記事の対象外 | 傷病手当金は健康保険(協会けんぽ・健保組合)の制度。任意継続の被保険者も対象から外れている(健康保険法99条1項) |
どれを選んでも、間違いではありません。体を休めることが最優先で、金額の最適化は二の次で構わないからです。
辞める人の注意|退職日は出勤しない
辞めると決めている人が、傷病手当金を退職後も受けるには、条件があります。要点だけ書きます。
- 退職日の前日まで、継続して1年以上、その健康保険の被保険者だったこと(健康保険法104条)
- 退職のとき、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であること
- 退職日に出勤しないこと。協会けんぽは、退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさない、と案内しています(2026年9月確認)
詳しくは退職後も傷病手当金をもらい続ける条件に書きました。
有給を退職日まで使い切る形にしたときに、この条件がどう扱われるかは、保険者ごとに聞くのが確実です。次の文例を、そのまま使えます。
文例|保険者と会社への問い合わせ
保険者(協会けんぽ・健保組合)に聞くとき
件名:傷病手当金と有給休暇の取り扱いについて(被保険者証の記号番号・氏名)
ご担当者様
現在、療養のため仕事を休んでいます。
傷病手当金の申請にあたり、次の点を教えてください。
1. 有給休暇を使った日は、傷病手当金の支給期間(通算1年6か月)に
数えられますか
2. 休み始めの3日間(待期)に有給休暇を使った場合、待期は成立しますか
3. 退職を予定している場合、有給休暇を退職日まで使うと、
退職後の継続給付の条件に影響はありますか
お忙しいところ恐れ入りますが、ご回答をお願いします。
会社(人事・総務)に聞くとき
件名:有給休暇の残日数と傷病手当金の申請書について(氏名)
人事ご担当者様
お世話になっております。○○部の○○です。
療養のため休むことになりました。次の点を教えてください。
1. 有給休暇の残日数と、それぞれの付与日
2. 休み始めの3日間に有給休暇を使うことは可能か
3. 傷病手当金の申請書の会社記入欄について、記入にかかる日数
よろしくお願いします。
体調がつらいときは、メールにして、この文をそのまま貼るだけで構いません。
チェックリスト|有給と傷病手当金を割り振る前に
□ 有給の残日数と、それぞれの付与日を確認した □ 休み始めの日から数えて、最初の3日間が出勤予定日か確認した □ 自分の健康保険が、協会けんぽ・健保組合・国民健康保険のどれか確認した □ 有給1日の給料の決め方を、就業規則か人事に確認した □ 有給を使った日は手当金が出ないことを分かったうえで、使う日を決めた □ 辞める予定なら、退職日に出勤しない日程になっているか確認した □ 有給の日が通算1年6か月に数えられるかを、保険者に聞いた(長期の人)
全部そろっていなくても、休むことはできます。分かるところから、1つずつで大丈夫です。
「損をしたくない」で自分を追い込まないでください
有給と傷病手当金の順番を調べる人は、たいてい、お金の不安と「休んでいいのか」という気持ちの両方を抱えています。
上の計算例で、有給の使い方によって4週間で10万円ほどの差が出ました。大きな差です。ただ、その差を取り切るために、体調が悪いなかで手続きの順番を練りすぎる必要はありません。待期の3日間だけ有給で埋める、という線でも、十分に整理された選び方です。
休むかどうか、どのくらい休むか、働ける状態かどうかは、主治医や産業医が判断することです。この記事では判断しません。
次にやること
休み始めた日(または休み始める予定の日)から3日分の日付をカレンダーに書き出し、出勤予定日に印を付けてください。印の付いた日が、有給を使える待期の日です。
私自身は2026年に退職し、失業保険の手続きを進めています。傷病手当金は受け取っていないので、この記事の内容は、法令の原文と協会けんぽの案内を調べた範囲でまとめたものです。
傷病手当金と有給休暇は、どちらを先に使えばいいですか
同じ日に両方はもらえませんが、休み始めの3日間(待期)だけは有給を使っても損をしません。待期は傷病手当金が出ない期間なので、そこに有給を重ねれば給料がまるまる上乗せになります。4日目以降は、有給の給料を取ると同じ日の手当金が出なくなるので、増える額は1日あたり8,333円(前提条件による計算例)にとどまります。
有給休暇を使った日は、傷病手当金はもらえますか
原則としてもらえません。有給を使った日は給料が支払われるため、健康保険法108条1項により、その日は傷病手当金が支給されない扱いです。ただし有給の給料が手当金の額より少ないときは、その差額だけ出ます。
待期の3日間に有給休暇を使うと、損をしますか
損はしません。待期の3日間はもともと傷病手当金が出ない期間なので、その日に有給を使えば給料がまるまる収入として上乗せされます。協会けんぽも、待期には有給休暇や公休日が含まれ、給与の支払いの有無は関係ないと案内しています。
退職するとき、有給休暇を退職日まで使い切ってもいいですか
退職後も傷病手当金を継続してもらうには、退職日に出勤しないことが条件の一つです。有給を退職日まで使う場合も、退職日そのものは出勤しない日程にしておく必要があります。詳しい条件の扱いは保険者に確認するのが確実です。
国民健康保険に入っている場合も、傷病手当金はもらえますか
原則としてもらえません。傷病手当金は協会けんぽや健康保険組合など健康保険の制度で、国民健康保険の加入者や任意継続の被保険者は対象から外れています(健康保険法99条1項)。
出典
- 健康保険法99条(傷病手当金)、104条(資格喪失後の継続給付)、108条(報酬等との調整)、62条(公課の禁止):
taishoku/laws/健康保険法.txtの原文で確認(2026年9月22日) - 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html):待期に有給休暇が含まれること、給与が支払われている間は支給されないこと、支給額の計算式、支給期間、退職後の継続給付の条件を確認(2026年9月22日)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)よくあるご質問「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/faq/benefit/002/index.html):「退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」の記載を確認(2026年9月22日)
- 労働基準法39条9項(有給休暇の賃金)、115条(時効):
taishoku/laws/労働基準法.txtの原文で確認(2026年9月22日) - 年次有給休暇の請求権の消滅時効が2年であることの厚生労働省の解釈(労働基準法115条・昭和22年12月15日基発第501号):厚生労働省「年次有給休暇に関するQ&A」(https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/yukyu/q6.html)で確認(2026年9月22日)
- 有給日が通算1年6か月の枠に数えられるか:条文(健康保険法99条4項)に明記なし。保険者への確認事項として記載(2026年9月22日確認)
- 有給を退職日まで使った場合の継続給付の扱い:協会けんぽの上記ページからは確認していない。保険者への確認事項として記載