傷病手当金は退職前に確認
- 会社の健康保険に入っていれば、業務外の病気やけがで働けないとき給与のおよそ3分の2を最長通算1年6か月受け取れる制度がある(健康保険法99条)
- 退職しても、条件を満たせば受給を続けられる(同法104条)
- ただし退職日に出勤すると継続受給の資格を失うおそれがあるため、退職日を決める前の確認が要る
- 国民健康保険には原則この制度がない
- 1医師の診断を受ける
- 2傷病手当金を申請
- 3退職時期を検討
- 4退職後も継続受給
この記事の内容
仕事に行こうとすると涙が止まらない。朝、体が起き上がらない。動悸がして電車に乗れない——そんな状態で「もう辞めるしかない」と思っているなら、退職を決める前に知ってほしい制度があります。
それが傷病手当金です。会社の健康保険に入っている人であれば、病気やけがで働けなくなったとき、給与のおよそ3分の2を一定期間受け取れる制度で、条件を満たせば退職したあとも受け取り続けられます。この記事は、うつ・適応障害などの心の不調で働けなくなり、退職を考えている人に向けて、この制度の仕組みと、退職のタイミングで損をしないための注意点を整理します。
- 涙が止まらない、体が動かない。それでも生活のために辞められない
- 辞めたら収入がなくなる。でも今のまま働き続けるのも限界
- 「甘え」と言われそうで、誰にも相談できていない
結論:退職前に傷病手当金を知っておくと選択肢が増える
| 論点 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 誰がもらえるか | 会社の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に加入していて、業務外の病気やけがで働けない人 | 健康保険法1条・99条1項 |
| いくらもらえるか | 目安として、直近12か月の給与(標準報酬月額)の平均を日額換算し、その3分の2 | 健康保険法99条2項 |
| いつまでもらえるか | 支給が始まった日から通算して1年6か月 | 健康保険法99条4項(2022年1月改正) |
| 退職したらもらえなくなるか | 法律上の2条件(被保険者期間・受給できる状態)を満たせば、退職後も引き続き受け取れる | 健康保険法104条 |
| 自営業・フリーランス(国民健康保険)でももらえるか | 原則、対象外 | 国民健康保険には法定給付として制度が無い。自治体独自の任意給付の全国的な実施状況は(一次情報は確認できず) |
辞めてしまってから知っても遅い条件があります。退職日を決める前に、一度立ち止まって確認する価値があります。
傷病手当金とは何か
傷病手当金は、次の4つをすべて満たす場合に支給されます(健康保険法1条・99条・108条、および協会けんぽ公式サイトの要件整理を2026年8月28日に確認)。
- 業務外の病気やけがで療養中であること(仕事中や通勤中のけがは労災保険の対象になるため別制度です。健康保険法1条)
- 療養のため仕事ができない状態(労務不能)であること(健康保険法99条1項)
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること(最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ支給されません。協会けんぽ公式サイトによれば、土日や有給休暇の日も待期期間にカウントされます。4日目から支給対象になります。健康保険法99条1項)
- 休んでいる期間について、会社から給与の支払いがないこと(給与が一部支払われている場合は、その差額が支給されます。健康保険法108条1項)
うつ・適応障害のような心の不調も、医師が「療養のため労務不能」と診断書に記載すれば、身体の病気やけがと同じように対象になります。制度上、心の不調だからといって扱いが変わることはありません。
申請には医師の意見書(診断書)と、会社が記入する欄が必要です。まず医師の診断を受けることが、手続きの出発点になります。
いくら、いつまでもらえるか
支給額
1日あたりの支給額は、次の式で計算されます。
(支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30) × 3分の2
例えば、直近12か月の平均標準報酬月額が26万円だった場合、26万円÷30×2/3 = 1日あたり5,780円になります(健康保険法99条2項の計算式・端数処理に基づき算出)。標準報酬月額は毎月の給与そのものではなく、社会保険料の計算に使われる区分額のため、実際の手取り額とは差があります。正確な額は、加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に確認してください(標準報酬月額は加入者ごとに異なるため、本記事では算出できません)。
支給期間
支給開始日から通算して1年6か月です(健康保険法99条4項)。2022年(令和4年)1月1日の法改正(全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律・令和3年法律第66号)前は、暦の上で1年6か月が過ぎると打ち切られていましたが、改正後は出勤した日を支給期間の計算から除いて「通算」する方式に変わりました(厚生労働省公式サイトを2026年8月28日に確認)。つまり、体調が良い日に出勤し、悪化した日にまた休む、という状態を繰り返しても、実際に休んだ日数の合計が1年6か月に達するまでは受け取れます。
退職しても、もらい続けられるか
ここが、退職を考えている人にとって一番重要な部分です。健康保険法104条は、次の2つの条件をすべて満たせば、退職後(健康保険の資格喪失後)も傷病手当金を受け取り続けられると定めています。
| 条件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 被保険者期間 | 退職日まで継続して1年以上、健康保険の被保険者だったこと(任意継続被保険者・共済組合の組合員だった期間は含めない) | 健康保険法104条 |
| ② 受給中または受給できる状態であること | 退職日の翌日(資格喪失日)の時点で、傷病手当金を実際に受給しているか、受給できる状態にあること | 健康保険法104条 |
条文上の要件はこの2つですが、協会けんぽ公式サイトでは、②の判定に関わる実務上の重要な注意点として、次の2点も案内されています(2026年8月28日確認)。
- 退職日に出勤しないこと:退職日当日に出社して働いてしまうと、②の「受給できる状態」を満たさなくなり、退職後(資格喪失後)の傷病手当金を受け取れなくなります。
- 同一の傷病であること:退職後に受け取れるのは、退職前から継続して療養している同じ病気・けがについての給付です。
退職日に、最後の挨拶のために出社しないほうがいい場合があります。 有給消化中や欠勤扱いのまま退職日を迎えることで、退職後も傷病手当金を受け取れる状態を保てます。退職日の過ごし方ひとつで、その後受け取れる金額が大きく変わることがあるため、退職日を決める前に、会社の担当者や社会保険労務士、加入している健康保険の窓口に確認しておくと安心です。
なお、自営業やフリーランスが加入する国民健康保険には、傷病手当金にあたる法定の制度が原則ありません。自治体が条例で独自の任意給付を設ける余地はありますが、全国の実施状況を横断的にまとめた公的統計は見当たりませんでした(厚生労働省・複数自治体の公式サイトを2026年8月28日に確認)。実際、新型コロナウイルス感染症に伴う特例の傷病手当金を設けていた自治体もありましたが、令和5年5月7日で終了しています2026年8月時点で独自の任意給付を継続している自治体があるかどうかは、自治体ごとに条例を確認する必要があり、全国共通の答えは存在しません。会社の健康保険に加入している「今」のうちに知っておく価値がある制度です。
先に医師に相談してほしい理由
この記事は制度の説明ですが、制度より先に大事なことがあります。傷病手当金を申請するにも、退職を決めるにも、まず医師の診断が前提になります。
そして、傷病手当金の申請書類には医師が記入する欄があるため、「働けない」という状態を、自分の感覚だけでなく医師に確認してもらうことが、手続き上も必要になります。「まだ甘えかもしれない」「これくらいで受診していいのか」と迷う人もいますが、その判断自体を医師に委ねてよい場面です。
眠れない、食欲がない、涙が止まらない、体が動かないといった状態が続いているなら、退職の判断より先に、医師や産業医に相談してください。この記事では、心身の状態そのものについての判断はしません。それは医療の領域です。
退職を決めたときの動き方
体調と収入の見通しが立ち、退職を決めた場合、次のような順番で進めると、傷病手当金の受給条件を崩さずに進めやすくなります。
- 医師の診断書を取得し、傷病手当金の申請を先に済ませておく(退職後でも申請自体は可能ですが、在職中に受給が始まっている状態のほうが、退職後の継続給付の条件「受給中または受給できる状態であること」を満たしやすくなります)
- 退職日を、休職中・欠勤中のまま迎えられるように調整する(「退職日に出勤しないこと」という実務上の注意点)
- 退職の意思を会社に伝える
体調が悪い状態で、上司に直接会って退職を伝えるのが難しいと感じる人もいます。その場合、退職代行Jobs、弁護士法人ガイア、退職代行ネルサポート、円満退職ユニオン のような退職代行サービスを使えば、会社との直接のやり取りを避けて退職の意思だけを伝えることができます(※2026年8月時点の調査。各社のサービス内容・料金は公式サイトで最新情報を確認してください)。ただし、傷病手当金の申請書類には会社側の記入欄があるため、退職後のやり取りが完全にゼロになるわけではない点は留意してください。
休職してから退職するかどうかは、就業規則によって条件が異なるため、この記事では扱いません。会社の休職制度がある場合は、そちらの利用も選択肢に入れて検討してください。
次にやること
まず医療機関を受診し、いま働けない状態であることの診断を受けてください。 そのうえで、加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の窓口に傷病手当金の申請書類を確認し、退職日をいつにするかは、退職後も受給を続けたい場合は「退職日に出勤しないこと」を踏まえて決めてください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。傷病手当金の支給額・支給要件は個人の加入状況によって異なります。判断に迷う場合は、加入している健康保険の窓口・社会保険労務士・医師にご確認ください。
出典 - 健康保険法1条(業務外の事由に関する適用範囲) -
健康保険法99条(傷病手当金の支給要件・支給額・支給期間。原文はtaishoku/laws/健康保険法.txtで2026年8月28日に確認)
- 健康保険法108条(給与との調整) -
健康保険法104条(資格喪失後の傷病手当金の継続給付。原文はtaishoku/laws/健康保険法.txtで2026年8月28日に確認)
-
協会けんぽ公式サイト「傷病手当金」「病気やケガで会社を休んだとき」(支給要件の整理・退職日に出勤しない場合の取り扱いを2026年8月28日に確認)
-
厚生労働省公式サイト「傷病手当金の支給期間の通算化について」(令和4年1月1日施行、令和3年法律第66号。2026年8月28日に確認)
- ハローワークインターネットサービス公式サイト(基本手当は「病気やけがのため、すぐには就職できないとき」は支給されない旨を2026年8月28日に確認)