退職後の傷病手当金と確定申告
- 1源泉徴収票を用意
- 2傷病手当金を除く
- 3還付・控除を確認
- 4申告書を作成
- 5還付金を受け取る
この記事の内容
退職したあとも傷病手当金を受け取っている人が、「確定申告は要るのか」「税金はかかるのか」で迷ったときの記事です。先に答えを言います。傷病手当金そのものは、申告しなくていい。 申告が関わってくるのは、傷病手当金とは別の理由がある場合だけです。
体調が悪いなかで税金の書類まで考えるのは、それだけで負担です。この記事は「自分はどれに当てはまるか」を短く見分けられるように書きました。
傷病手当金は非課税|確定申告の対象に入らない
傷病手当金は、健康保険法の「保険給付」の1つです(健康保険法52条1項2号)。そして同法62条にこう書いてあります。
租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない。(健康保険法62条)
つまり、傷病手当金を基準にして税金をかけることはできません。給与のように所得税が天引きされることもなく、確定申告書に収入として書く欄もありません。傷病手当金だけを受け取っていて、ほかに収入がない年は、申告する理由がありません。
「公課」は税金を含む公的な負担金のことです。条文は「租税」全般を挙げているので、住民税も傷病手当金を基準にはかけられません。住民税(所得割)の課税標準は「所得税法の規定による総所得金額の計算の例により算定する」と定められており(地方税法32条1項・2項)、所得税法上非課税の傷病手当金は、この総所得金額にそもそも含まれません(taishoku/laws/地方税法.txt
の原文で確認、2026年9月24日)。
所得税法のどの条に当たるかは、調べた解説サイトの間で条番号の書き方が食い違っており、法令の原文までは到達できませんでした(2026年9月21日確認)。そのためこの記事は、原文を確認できた健康保険法62条だけを根拠にしています。
申告が関わるのは3つのとき
傷病手当金が非課税でも、確定申告をする・したほうがいい場面はあります。全部「傷病手当金以外の理由」です。
| 状況 | 申告 | ひとこと |
|---|---|---|
| 傷病手当金だけで、ほかに収入なし | 不要 | 書く場所がない |
| 年の途中で退職し、年末調整を受けていない | した方がいい場合が多い(任意) | 給与から引かれた所得税が戻ることがある |
| 医療費がたくさんかかった | 医療費控除で申告できる | ただし戻る額は払った税額が上限 |
| 副業など給与以外の所得がある | 金額によっては必要 | 国税庁は20万円超を目安に挙げている |
年の途中で辞めた人は、給与の所得税が戻ることがある
一番多いのがこれです。会社員は、毎月の給与から所得税が仮に引かれ、年末に会社が「年末調整」で精算します。年の途中で辞めると、この精算を受けないまま年が終わります。
国税庁は、年の途中で退職し年末調整を受けずに源泉徴収税額が納め過ぎになっているときは、原則として還付申告ができると案内しています(国税庁タックスアンサー No.2030、2026年9月21日確認)。
ここで大事なのは、この還付に傷病手当金は関係しないということです。戻るのは「辞める前の給与から引かれた所得税」です。傷病手当金は、その計算の入力欄に出てきません。
- 還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間出せます(同No.2030)。3月15日を過ぎても間に合います
- 必要なのは、前の会社の源泉徴収票です。届いていなければ、会社に請求します
- 年内に再就職して新しい会社で年末調整を受けた場合は、この還付の話は基本的に不要です。年末調整と確定申告の分かれ目は12月退職と1月退職の違いにまとめています
年末調整をしないまま辞めた場合に、自分でやる範囲は年末調整をしないまま辞めたらを見てください。
計算例|傷病手当金をもらう年に、いくら戻るか
前提を仮置きします。数字は例です。自分の額は源泉徴収票を見てください。
| 項目 | 仮置きの金額 |
|---|---|
| 働いた期間 | 1月〜3月末(3月末退職) |
| 給与の合計(給与収入) | 90万円 |
| 源泉徴収票の「源泉徴収税額」 | 2万円 |
| 源泉徴収票の「社会保険料等の金額」 | 13万円 |
| 4月〜12月 | 傷病手当金のみ。給与なし |
計算の流れ(2026年9月24日時点の最新の表で計算。令和8年・9年分の所得税に適用される数字)
- 給与所得控除:給与収入220万円までは74万円(国税庁No.1410、令和8年・9年分の表。令和7年分までは190万円まで65万円だったが、税制改正で引き上げられた)
- 給与所得:90万円 − 74万円 = 16万円
- 所得から引く額:社会保険料13万円 + 基礎控除104万円(国税庁No.1199の表。合計所得132万円以下の場合。令和7年分は95万円、令和10年分以後は99万円になる予定)=合計117万円
- 課税される所得:16万円 − 117万円 = マイナスなので0円
- 納める所得税:0円。源泉徴収税額2万円が全額戻り、還付は2万円
傷病手当金は、どの行にも入っていません。入れる必要がないからです。
ここから分かることが2つあります。
- 収入が少ない年は、課税される所得が0円になりやすく、引かれた所得税が全額戻りやすい
- すでに0円のところに医療費控除を足しても、所得税の戻りは増えない。戻るのは払った税額までです
医療費控除は、傷病手当金の額を引くのか
通院や入院で医療費がかさんだ年は、医療費控除が気になります。国税庁の計算式は次のとおりです(No.1120、2026年9月21日確認)。
(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補てんされる金額)− 10万円(総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%)
保険金などで補てんされる金額は、「その給付の目的となった医療費の金額を限度として」差し引くとされています。
傷病手当金は、休んだ間の生活の支えとして出るお金で、医療費そのものを補うお金ではありません。国税庁のこのページに、傷病手当金についての記載はありませんでした(2026年9月21日確認)。医療費から傷病手当金を引くかどうかで迷うときは、税務署の相談窓口か、税理士に聞くのが確実です。
もう1つ、上の計算例の人は総所得金額等が16万円なので、10万円ではなく「16万円の5%」が基準になります。ただし前の章のとおり、所得税がすでに0円なら、医療費控除で所得税が増えて戻ることはありません。医療費控除が効くのは、その年に所得税をそれなりに払っている人です。
傷病手当金は「収入」なのか|税と、扶養・国保は別の物差し
確定申告では収入に入れなくても、別の場面では、傷病手当金が収入として数えられることがあります。税の非課税と、扶養や保険料の判定は、別々のルールで動いているからです。
| 場面 | 見るところ | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 確定申告 | 所得税法上の所得 | 傷病手当金は入れない |
| 家族の健康保険の扶養に入る | 加入先の健保組合・協会けんぽの基準 | 加入先に確認する |
| 国民健康保険料 | 市区町村の計算 | 市区町村に確認する |
この2つは、調べた範囲では、傷病手当金の扱いを1つに言い切れる公的な資料を見つけられていません(2026年9月21日確認)。「税金で非課税だから、扶養の年収にも入らない」と決めてしまわず、先に窓口へ聞いてください。
それぞれの記事もあります。
- 国民健康保険はいくらになるか
- 国民健康保険の減免
- 住民税の請求は辞めたあとに来る:住民税は前の年の所得をもとに計算されるので、傷病手当金の期間中でも請求が来ることがあります
申告を急がなくていい場合と、急ぐ場合
体調が落ちていると、締切が全部同じ重さに見えてしまいます。分けて考えれば、少し軽くなります。
| 種類 | 期限 | 急ぎ度 |
|---|---|---|
| 還付申告(給与の所得税を取り戻す) | 翌年1月1日から5年間 | 急がなくていい。元気な時期に回せる |
| 医療費控除のための申告 | 同じく還付申告なら5年間 | 急がなくていい |
| 給与以外の所得があって申告が必要な人 | 通常の確定申告期間 | 期間内に出す必要がある |
「給与以外の所得」は、国税庁が20万円を超える場合を必要な人の要件の1つに挙げています(No.1900、2026年9月21日確認)。副業や不用品の売却で利益が出た年は、この線に触れていないかを確認してください。
体調が戻らないうちは、還付は後回しにして大丈夫です。今は治療と休養を優先してかまいません。心身の不調が続くときは、主治医や産業医に相談してください。
チェックリスト|自分は申告が要るか、した方がいいか
□ 前の会社の源泉徴収票が手元にある(無いなら会社に請求する) □ 源泉徴収票の「源泉徴収税額」が0円より大きい □ 12月31日までに、新しい会社で年末調整を受けていない □ 退職後の年内に、給与をもらう働き方をしていない(傷病手当金と失業保険は収入欄に書かない) □ 副業などの給与以外の所得がある場合、その合計が20万円を超えていないか確認した □ 医療費が多かった場合、領収書か医療費のお知らせを保管している □ 扶養や国保の判定は、加入先の窓口に別途聞いた
上の2〜3つ目が当てはまるなら、還付申告で所得税が戻る可能性があります。残りは、追加で確認する項目です。
手順|還付申告を出すまでの流れ
- 前の会社の源泉徴収票を用意する
- 傷病手当金の額は、収入欄に書かない(別に控えておくだけでいい)
- 源泉徴収票の数字を、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」に入力し、還付額を出す
- 医療費が多い年は、医療費控除の入力もする(前の章のとおり、所得税がすでに0円なら効かない)
- マイナンバーカードなどで送信し、還付金を受け取る
入力画面ごとの手順は、退職した年の確定申告|e-Taxでの申告手順に書きました。源泉徴収票の見方と確定申告の全体像は、源泉徴収票と確定申告が入口です。
傷病手当金が退職後も続く条件は、退職後も傷病手当金をもらい続ける条件を見てください。
次にやること
前の会社の源泉徴収票を探して、「源泉徴収税額」の欄が0円より大きいかだけ見てください。0円より大きければ、還付の可能性があります。手続きは、体調に余裕が出てからで間に合います。
私自身は2026年6月に退職し、失業保険の手続きを進めています。傷病手当金は受け取っていないので、この記事の内容は、法令の原文と国税庁の案内を調べた範囲でまとめたものです。
出典
- 健康保険法52条1項2号(保険給付の種類)、62条(租税その他の公課の禁止)、99条(傷病手当金):
taishoku/laws/健康保険法.txtの原文で確認(2026年9月21日) - 地方税法32条1項・2項(所得割の課税標準):
taishoku/laws/地方税法.txtの原文で確認(2026年9月24日) - 国税庁タックスアンサー No.1120(医療費控除)、No.1199(基礎控除)、No.1410(給与所得控除)、No.1900(給与所得者で確定申告が必要な人)、No.2030(年の中途で退職した人の還付申告):2026年9月24日に最新の内容を確認。No.1199とNo.1410は令和8年度税制改正で数字が変わっており、計算例は改正後(令和8年・9年分)の数字で更新済み
- 所得税法の条番号:解説サイト間で食い違い、原文に到達できず(2026年9月21日確認)
出典(2026年9月24日調査)
- 健康保険法62条(租税その他の公課の禁止):e-Gov法令検索(条文原文を確認。本文の引用と一致)
- 地方税法32条1項・2項(個人住民税・所得割の課税標準):e-Gov法令検索(条文原文を確認)
- 国税庁 No.1410(給与所得控除):国税庁タックスアンサー(令和8年・9年分は給与収入220万円までの控除額が74万円であることを確認。本文の数字と一致)
- 国税庁 No.1199(基礎控除):国税庁タックスアンサー(合計所得132万円以下の場合、令和8年分は104万円・令和7年分は95万円・令和10年分以後は99万円であることを確認。本文の数字と一致)
- 国税庁 No.2030(年の中途で退職した人の還付申告):国税庁タックスアンサー(中途退職者の還付申告と、翌年1月1日から5年間提出できることを確認。本文の記載と一致)