退職代行を使った後の確定申告
- 1源泉徴収票が届く
- 2年内の再就職を確認
- 3書類をそろえる
- 4還付申告する
この記事の内容
退職代行を使って会社を辞めた人で、「会社と連絡を取らないまま、確定申告の書類はそろうのか」が気になっている人向けの記事です。
結論から言うと、確定申告に必要な書類も手順も、退職代行を使わずに辞めた人と同じです。 違うのは「書類の届き方」「退職金があるときの申告書」「代行の費用の扱い」の3点だけです。
退職代行を使うと、確定申告の書類と手順は変わるのか
変わりません。確定申告は、税務署と自分の間の手続きです。退職の連絡を誰がしたかは、税金の計算に関係しません。
| 退職代行を使った人 | 使わなかった人 | |
|---|---|---|
| 必要な書類 | 源泉徴収票・控除証明書など | 同じ |
| 申告の方法 | e-Tax・税務署・郵送 | 同じ |
| 還付申告ができる期間 | 翌年1月1日から5年間(国税庁タックスアンサーNo.2030) | 同じ |
| 違いが出やすいところ | 源泉徴収票が届くまでの連絡ルート | 本人が直接会社に聞ける |
やることが変わる人は、年内に再就職したかどうかで分かれます。
| 状況 | やること |
|---|---|
| 年内に再就職し、前の会社の源泉徴収票を新しい会社に出した | 新しい会社が年末調整をする。原則、自分での確定申告は不要(国税庁タックスアンサーNo.1910) |
| 年内は無職のまま年を越した | 自分で確定申告(還付申告)をする。年末調整を受けられず、税金が納めすぎになっていることがある(同No.1910) |
| 再就職したが、源泉徴収票を出しそびれた | 前の会社の給与が年末調整に入っていない。自分で確定申告をする必要がある場合と、払いすぎた税金を戻してもらうために申告する場合がある(国税庁タックスアンサーNo.1900) |
年の途中で辞めた人の申告の全体像は、記事「源泉徴収票と確定申告|年の途中で辞めた人がやること」で説明しています。この記事は、その中で退職代行を使った人がつまずきやすい部分だけを扱います。
退職代行の担当は「退職の意思を会社に伝えること」までです。税金の書類は、辞めたあとも会社が作って本人に送る仕組みなので、代行を使ったことで税金の手続きが増えたり減ったりはしません。
チェックリスト:確定申告の書類がそろっているか
年内に再就職しなかった人が、確定申告の前にそろえる物です。上から1つずつ確かめてください。
□ 退職した会社の源泉徴収票が手元にある(届いていなければ次の見出しへ) □ 年内に別の会社やアルバイトで働いた分があれば、その源泉徴収票もある □ 退職後に自分で払った国民健康保険料・国民年金保険料の金額が分かる(納付書の控え・領収書・年金の控除証明書のいずれか) □ 生命保険・地震保険の控除証明書がある(加入している人のみ) □ マイナンバーが分かる物と、本人確認の書類がある □ 還付金を受け取る口座の情報がある
退職後に自分で払った国民健康保険料・国民年金保険料は、社会保険料控除の対象です(国税庁タックスアンサーNo.1130)。納付書の控えは捨てないでください。
源泉徴収票が届かないとき、退職代行を使った人がやる手順
源泉徴収票は、年の途中で退職した人には、会社が退職の日以後1か月以内に交付することとされています(所得税法226条1項。e-Govの条文で確認、2026年9月)。退職金があるときの源泉徴収票も同じ期限です(同条2項)。退職代行を使ったかどうかは、この義務に関係しません。
ただ、会社との連絡を代行に任せているぶん、「届かないときに誰が動くのか」が普通の退職とは違ってきます。
- 届く予定の時期を確認する。 退職日から1か月を過ぎていなければ、まず待つ。代行に依頼するときに伝えた送付先住所が正しいかも見直す
- 1か月を過ぎたら、代行に確認を依頼する。 運営元が労働組合や弁護士なら、会社への確認や催促まで頼める可能性がある。弁護士でない人が報酬を得て法律上の交渉や代理をすることは弁護士法72条で禁じられているので、民間企業の運営だと会社と交渉できず、確認できる範囲は運営元ごとに異なる(詳しくは記事「退職代行で離職票・源泉徴収票はちゃんともらえるか」)
- それでも届かなければ、本人が会社の総務・人事に書面かメールで依頼する。 退職の連絡以外の事務連絡は、代行を通さず自分で送ってよいかを、代行の契約内容で先に確認しておく。次の手順4で使うので、依頼した日時・方法・相手の返答をメモに残す
- 税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を出す。 国税庁の手続案内(F5-4)では、源泉徴収票を交付されなかった本人が、交付期限(中途退職は退職後1か月)を過ぎたあと、住所地を管轄する税務署に出す届出です。添付するのは、給与支払明細書の写し(保存していれば)と、会社に交付を求めたことが分かる書類です。届出を受けた税務署は会社に交付するよう行政指導をしますが、法的な拘束力はなく、届出のあとも自分で会社に求め続けるよう国税庁は案内しています(国税庁「源泉徴収票不交付の届出書を提出される前に、ご確認ください」)
- 申告の期限が近いのに間に合わないときは、まず源泉徴収票の情報をマイナポータル連携で取れないか見る。 確定申告書等作成コーナーでは、会社が源泉徴収票をe-Taxなどで税務署に出しているなどの条件を満たせば、e-Taxのメッセージボックスで源泉徴収票の情報を確認できます。給与明細だけで申告できるかは、国税庁の公式ページで明記を確認できませんでした(2026年9月確認)。税務署に直接聞いてください
還付申告なら期限は5年あるので、届かないからといって申告をあきらめる必要はありません。焦って会社に強い言葉を送るより、上の順番で動くほうが安全です。
文例:源泉徴収票の送付をお願いする文面
退職から1か月ほど過ぎても届かないときに、自分で会社に送る文面の例です。代行の契約で「会社への連絡は代行が窓口」とされている人は、先に代行へ相談してから送ってください。
件名:源泉徴収票の送付のお願い(○○ ○○)
株式会社○○
総務ご担当者様
○月○日付で退職いたしました、○○ ○○(部署名:○○)です。
確定申告に必要なため、令和8年分の源泉徴収票を
下記の住所へ送付いただけますでしょうか。
送付先:〒000-0000 ○○県○○市○○ 0-0-0
お忙しいところ恐れ入りますが、○月○日までにご対応いただけると助かります。
ご不明な点がございましたら、このメールへご返信ください。
よろしくお願いいたします。
○○ ○○
日付や氏名は自分の情報に置き換えてください。感情的な言葉は入れず、送付先と日付だけを伝える形にするのがポイントです。
退職金や未払い分があるときは、申告書の出し忘れに注意
ここが、普通の退職と一番違いが出やすいところです。
退職金を受け取る人は、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を出しておくと、税金の計算がその場で終わります(国税庁「退職金と税」)。出していないと、退職金の額に一律20.42%の税率で源泉徴収されることになります。20.42%は、所得税法201条3項の税率20%に、復興特別所得税を加えた率です(e-Govの条文と国税庁「退職金と税」で確認、2026年9月)。
退職代行を使うと会社とのやり取りが減るので、この申告書を出さないまま退職金が振り込まれるケースが起こりえます。その場合は、確定申告で精算することになると国税庁は案内しています(国税庁「退職金と税」)。退職金の源泉徴収票と、支払明細を手元に残しておいてください。
| 受け取ったもの | 税金上の扱い(一般的な整理) |
|---|---|
| 給料の未払い分・有給の買い取り分 | 給与としての扱い。源泉徴収票の給与欄に入るのが通常 |
| 退職金 | 退職所得。申告書の提出の有無で源泉徴収の額が変わる |
| 失業保険(基本手当) | 課税されない。確定申告に含めない(雇用保険法第12条。手元の条文全文で確認、2026年9月) |
退職代行の費用は、確定申告で控除できるのか
調査した範囲では、退職代行の費用を確定申告で引ける項目は見当たりません。
- 給与所得者の特定支出控除は、通勤費・職務上の旅費・転居費・研修費・資格取得費・帰宅旅費・勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等)の7種類が対象で、退職代行の費用はその中に入っていません(国税庁タックスアンサーNo.1415)
- 特定支出控除は、支出が職務の遂行に直接必要なものであることを、給与の支払者(またはキャリアコンサルタント)が証明した分に限られます(同No.1415)
- 医療費控除は医療費を支払った場合の控除(同No.1120)、寄附金控除は国や公益法人などへの特定寄附金の控除(同No.1150)で、退職代行の費用はどちらの対象でもありません
「経費で落ちないか」と調べている人が多いテーマですが、ここは期待しすぎず、必要なお金として整理するほうが、あとで困りません。個別の判断が必要なら、税務署か税理士に確認してください。
計算例:年内無職の人は、いくら戻るのか
「還付申告をすると実際にいくら戻るのか」を、仮の数字で確かめます。
前提(すべて仮置き。実際の金額は源泉徴収票を見てください)
| 項目 | 仮置きの数字 |
|---|---|
| 退職日 | 2026年6月末(退職代行で退職)。年内は無職 |
| 1〜6月の給与収入 | 180万円 |
| 源泉徴収票の「源泉徴収税額」 | 4万円 |
| 社会保険料(会社の天引き分+退職後に払った国保・国民年金) | 合計40万円 |
| 給与所得控除 | 74万円(令和8年分は収入220万円までこの額。国税庁タックスアンサーNo.1410。令和8年12月1日施行) |
| 基礎控除 | 104万円(令和8年分は合計所得132万円以下の場合。同No.1199。令和8年12月1日施行) |
計算
- 給与所得 = 180万円 − 74万円 = 106万円
- 課税される所得 = 106万円 − 社会保険料40万円 − 基礎控除104万円 = マイナス38万円 → 0円として扱う
- 本来の所得税 = 0円
- 払いすぎた税金 = 源泉徴収済みの4万円 − 0円 = 4万円が還付される
つまり、この仮の人は、確定申告をしないと4万円を受け取れないまま終わります。実際の還付額は、収入・扶養・各種控除で変わります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」に源泉徴収票の数字を入れると、自分の金額が出ます。
感情の面で:会社と連絡を絶ったあとでも、手続きは進められる
退職代行を使った人は、会社とのやり取りに強い負担を感じてきた人が多いと思います。だから、「源泉徴収票をもらうために、また会社に連絡しなければいけないのか」と思うだけで、気持ちが重くなるのも自然です。
ただ、税金の書類は会社の好意ではなく、法律で決まった義務として届くものです。頼み方も、上の文例のように事務的な数行で足ります。会社に連絡するのがつらいときは、代行や税務署など、間に入れる場所を使ってください。
確定申告は、多くの場合「払いすぎた税金を返してもらう手続き」です。還付申告なら5年の余裕があるので、気持ちが落ち着いてから始めても間に合います。
眠れない、食欲がないなど心身の不調が続くときは、税金の手続きより先に、医師や産業医に相談してください。
実体験について
私は2026年6月末に会社都合で退職しました。ただ、退職代行を使った後の確定申告を自分で経験した記録はありません。この記事は調査した範囲の制度説明で、体験談としては書きません。
次にやること
退職した会社から源泉徴収票が届いているかを確認してください。 退職から1か月以内なら待ち、1か月を過ぎていたら、退職代行に確認を頼むか、上の文例で自分から依頼してください。
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報整理です。個別の税額・控除の適用可否は、税理士または最寄りの税務署にご確認ください。
出典 - 所得税法226条1項・2項(源泉徴収票の交付。年の中途で退職した人と退職手当等は退職の日以後1か月以内)。e-Gov法令APIの全文で確認(2026年9月) - 所得税法201条3項(退職所得の受給に関する申告書がないときは支払額の100分の20)。同上で確認 - 弁護士法72条(弁護士でない者の法律事務の取扱いの禁止)。e-Gov法令APIの全文で確認 - 雇用保険法第12条(失業等給付には租税その他の公課を課さない)。手元の全文で確認 - 国税庁タックスアンサー No.2030「還付申告」(翌年1月1日から5年間) - 国税庁タックスアンサー No.1910「中途退職で年末調整を受けていないとき」 - 国税庁タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」 - 国税庁タックスアンサー No.1130「社会保険料控除」 - 国税庁タックスアンサー No.1410「給与所得控除」(令和8年分は収入220万円まで74万円) - 国税庁タックスアンサー No.1199「基礎控除」(令和8年分は合計所得132万円以下で104万円) - 国税庁タックスアンサー No.1415「給与所得者の特定支出控除」 - 国税庁タックスアンサー No.1120「医療費控除」・No.1150「寄附金控除」 - 国税庁「退職金と税」(申告書がないときは一律20.42%、確定申告で精算) - 国税庁 手続案内 F5-4「源泉徴収票不交付の届出手続」・「『源泉徴収票不交付の届出書』を提出される前に、ご確認ください」 - 国税庁「確定申告書等作成コーナー」(源泉徴収票がお手元にない場合)
出典(2026年9月21日調査) - 所得税法 e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033 (226条1項・2項で、年の中途で退職した人の源泉徴収票と退職手当等の源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内に交付することを確認。本文の記述と一致) - 国税庁 タックスアンサーNo.2030「還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm (還付申告の提出期間が、その年の翌年1月1日から5年間であることを確認。本文と一致) - 国税庁 タックスアンサーNo.1410「給与所得控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm (令和8年分は収入220万円以下で74万円、施行日は令和8年12月1日。令和7年分は65万円であることを確認。本文と一致) - 国税庁 タックスアンサーNo.1199「基礎控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm (合計所得132万円以下で令和7年分は95万円、令和8年分は104万円、令和8年分は令和8年12月1日施行であることを確認。本文と一致) - 国税庁「退職金と税」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_3.htm (退職所得の受給に関する申告書を出さないときは20.42%で源泉徴収され、確定申告で精算することを確認。本文と一致)