解雇と言われたらまず請求する書類
- 1解雇を告げられる
- 2書面で請求する
- 3受け取る
- 4理由の中身を見る
- 5相談窓口へ
この記事の内容
会社から「解雇」と言われて、頭が真っ白になっている人に向けた記事です。先に答えを言います。まず請求するのは「解雇理由証明書」という1枚の書類です。今日サインするものは何もありません。
この書類は、会社が「なぜ解雇するのか」を書面にしたものです。労働者が請求すれば、会社は出さなければなりません。この記事では、請求の根拠、頼み方の手順、そのままコピーして使えるメール文例、受け取ったあとに見るところまでを順に書きます。解雇が有効か無効かの判断はしません。判断は、この書類を手に持って相談窓口へ行ってからで間に合います。
解雇と言われた今日、サインも返事もしなくていい
突然「明日から来なくていい」「今月末で解雇だ」と言われたら、誰でも動揺します。怒りより先に、生活の不安が来る人も多いはずです。それは自然な反応で、落ち着けないことを責める必要はありません。
ただ、その場で急ぐ必要のあることは、ほとんどありません。
- 「分かりました」と口で返さなくていい
- 退職届や、退職に合意する書類を、その場で書かなくていい
- 「後日、書面でお願いします」と言って席を立っていい
「解雇」と「自分から辞める」は、あとで扱いが変わる場合があります。だから、まず言われた内容を紙に残すことが先です。そのための最初の一手が、解雇理由証明書の請求です。
解雇理由証明書は、会社に出す義務がある書類
労働基準法22条2項は、次のことを決めています。
- 解雇を予告された労働者が、解雇の予告の日から退職の日までの間に、解雇の理由について証明書を請求したとき
- 会社(使用者)は、遅滞なく(遅れずに)その証明書を渡さなければならない
会社が断ったり放置したりすると、法律違反になります。罰則は30万円以下の罰金です(労働基準法120条)。
もう1つ、同じ22条に大事な決まりがあります。3項は、請求していない事項を会社が勝手に書いてはならないと定めています。だから請求するときは「解雇の理由だけ」と、範囲をはっきり書くのが基本です。次の文例でも、そうしています。
なお、都道府県労働局(厚生労働省)が「解雇理由証明書」のモデル様式を公開しています(例: 東京労働局・奈良労働局などの労働局サイトで確認、2026年9月確認)。会社が「うちには書式がない」と言っても、自由な書式で足ります。
解雇の言われ方で、根拠の条文が変わる
「解雇を予告された」場合と「その日のうちに解雇された」場合で、使う条文が違います。ただし、どちらも請求できる点は同じです。
| 状況 | 請求の根拠 | 請求できる時期 |
|---|---|---|
| 「○月○日付で解雇する」と予告された | 労働基準法22条2項(解雇理由証明書) | 予告された日から退職日まで |
| 予告なしに、即日解雇と言われた | 労働基準法22条1項(退職時の証明。解雇の場合は理由を含む) | 退職後。請求できる期間は2年とされる(労働基準法115条。賃金以外の請求権の消滅時効) |
| すでに会社を離れたあとで、解雇だったと分かった | 同上(22条1項) | 同上 |
予告があった場合の解雇予告は、原則として30日前に行うか、足りない日数分の平均賃金を払うことになっています(労働基準法20条)。これは解雇予告手当の話で、書類の請求とは別の論点です。手当が出るかどうかにかかわらず、理由証明書は請求できます。
「退職証明書」との違いを表で確認する
会社に頼むときに、名前を間違えると別の書類が出てくることがあります。
| 解雇理由証明書 | 退職証明書 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働基準法22条2項 | 労働基準法22条1項 |
| 請求できる時期 | 解雇の予告日から退職日まで | 退職後 |
| 主に書かれること | 解雇の理由 | 使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由 |
| 使い道 | 解雇の理由を争うか、判断するときの材料 | 転職先や公的手続きに出す |
解雇の場面で先に取るのは、左の解雇理由証明書です。退職証明書は、辞めたあとに必要になったときに請求すれば足ります。
請求の手順は、たった4つ
順番に進めます。
- 言われた日時・場所・言った人・内容を、その日のうちにメモする。 「○月○日15時ごろ、会議室で、部長の○○さんから『今月末で解雇』と言われた」の形で十分です
- 請求の文面を書く。 下の文例をコピーして、○の部分だけ埋めます
- 記録が残る形で送る。 メールが一番手軽です。書面で渡すなら、コピーを取り、渡した日付をメモします
- 期限を1つ添える。 法律は「遅滞なく」としか言いません。「○月○日までに」と自分で日付を書いておくと、放置されにくくなります
宛先は、人事部があれば人事部、なければ代表者か直属の上司です。上司に言いにくい場合は、人事や総務のメールアドレスに送って構いません。
文例|メールで請求する
次の文面は、コピーして○を埋めれば使える形にしてあります。
件名:解雇理由証明書の交付のお願い(○○部 ○○)
○○株式会社
人事部 ○○様(人事部がない場合は、代表取締役 ○○様)
お疲れさまです。○○部の○○(社員番号 ○○)です。
○月○日、○○さんから口頭で「○月○日付で解雇する」とのお話を受けました。
つきましては、労働基準法第22条第2項に基づき、
解雇理由証明書の交付を請求します。
記載をお願いする事項は、次の2点のみです。
1. 解雇の日付
2. 解雇の理由(具体的な事実。就業規則の条項に基づく場合は、
その条項の内容と、当てはまるとされた事実)
交付の期限:○月○日(○)まで
受け取り方法:書面(PDFでのメール添付も可)
なお、現時点で、私が退職に同意したわけではありません。
お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
○○部 ○○
連絡先:○○○○@○○○○
文の最後の「退職に同意したわけではありません」は、自分の今の立場を事実として書いた一文です。解雇を受け入れるか争うかは、まだ決めなくて構いません。決めていない人は、この1行を入れておくと、あとで「あのとき同意した」と言われにくくなります。
書面で出すときも、同じ内容を紙に印刷して手渡すか郵送します。渡した日付が分かるよう、コピーを1部手元に残します。
文例|口頭で言われた、その場で言う一言
その場で相手が上司で、メールを出す前に言われてしまったときは、次の一言で足ります。
解雇ということでしたら、労働基準法22条2項の
解雇理由証明書を出してください。
書面でお願いします。今日は何もサインしません。
長く話す必要はありません。「書面で」と「サインしない」の2点だけ伝えれば、席を立って構いません。そのあとでメールを送ります。
会社が出さない・遅い・「あとで」と言われたら
よくある反応と、次の手を並べます。
| 会社の反応 | 次の手 |
|---|---|
| 「辞めたあとに出す」と言う | 予告の期間中は、在職中に請求する権利があります。メールの期限日を再度伝える |
| 「そんな書類はない」と言う | 自由な書式でよいこと、法律で決まった義務であること(22条2項)を伝える |
| 無視される | 請求のメールの送信履歴を保存して、労働基準監督署か、総合労働相談コーナーへ相談する |
| 「解雇ではなく退職だ」と言い出す | 言われた日付のメモと、請求メールを持って相談窓口へ行く |
交付をめぐる相談先は、無料のものがあります。
- 総合労働相談コーナー:都道府県の労働局や、労働基準監督署の中にある窓口。解雇や退職の悩みを無料で聞いてくれる
- 法テラス:収入などの条件を満たせば、弁護士の無料相談を受けられる(条件は公式サイトで確認)
労働基準監督署は、証明書を出さないことなど「法律違反の申告」を受ける場所です。厚生労働省の案内でも、労働基準監督署が扱うのは賃金・解雇などの法令違反の相談で、法令に直接違反しない解雇の当否は総合労働相談コーナーでのあっせんや裁判所の領域とされています(厚生労働省「労働基準行政の相談窓口」、2026年9月確認)。だから、窓口ごとに「何を聞くか」を分けて行くのが近道です。
チェックリスト|請求の前と、受け取ったあとに確かめること
請求の前
□ 解雇を言われた日時・場所・言った人・言葉のメモを書いた □ 解雇の日付(○月○日付)を確認した □ 雇用契約書か労働条件通知書がどこにあるか分かる □ 就業規則を見られる場所(社内サイト・冊子)を確認した □ 直近の給与明細を3か月分、手元に保存した □ 請求メールの送信履歴を残した
受け取ったあと
□ 解雇の日付が、口頭で言われた日と合っている □ 理由が具体的な事実で書かれている(「能力不足」だけ、「勤務態度不良」だけでは中身が分からない) □ 就業規則の条項が書かれている場合、その条項を実際に読んだ □ 口頭で聞いた理由と、書面の理由が一致している □ 会社名、代表者(または担当者)の名前、日付が入っている □ 写真かコピーを取って、原本とは別の場所にも保存した
書かれた理由が口頭の説明と違ったり、あとから増えたりしたときは、そのまま保管して相談窓口に見せます。自分で言い返す必要はありません。
「辞めてほしい」と「解雇」は、書類の意味が違う
会社が「解雇」という言葉を避けて、こう言ってくることがあります。
- 「今なら自己都合で辞められる。そのほうが次に不利にならない」
- 「退職届を書いてくれれば、円満にすませる」
- 「合意書にサインしてくれれば、少し上乗せする」
これは「退職勧奨」と呼ばれる、辞めるように勧める話です。解雇ではなく、労働者が同意して辞める形になるため、サインをした時点で「合意した」と扱われる場合があります。
判断は個別の事情で変わるので、ここでは一般論だけ書きます。
- 内容が分からない書類は、その場でサインしない
- 「持ち帰って読みます」と言って、コピーをもらう
- 迷ったら、上で書いた相談窓口に、その書類を持って行く
理由証明書を請求しておけば、会社が「解雇」と考えているのか、「辞めてほしい」だけなのかを、文字で確かめられます。
失業保険の手続きにも、この書類が関わる
仕事を失ったあと、ハローワークで雇用保険の手続きをします。そのとき、離職票に書かれる「離職理由」が、給付の扱いに関わります。
解雇による離職の場合、自己都合退職とは扱いが変わる場合があります(雇用保険法23条2項の「特定受給資格者」の区分)。ただし、離職理由の最終的な判断はハローワークが行います。会社が書いた離職理由に納得できないときは、ハローワークの窓口で異議を申し出られます。
このとき、会社の作った解雇理由証明書は、事実を確かめる材料になります。ただし、解雇の理由が労働者自身の重大な落ち度によるとされた場合は、特定受給資格者の区分から外れることがあります(雇用保険法23条2項2号)。自分の離職理由がどの区分に当たるか、給付日数がどうなるかは個別の事情で変わるため、【各自確認:自分の離職理由の区分と所定給付日数をハローワークの窓口で確認】してください。
次にやること
今日のうちに、上の「メールの文例」をコピーして、○を埋めて、人事か上司に送る。 期限は3〜5営業日後の日付で書けば足ります。送ったら、送信済みメールの画面を撮っておきます。
それで今日の仕事は終わりです。書類が届くまでの間は、解雇を受け入れるかどうかを決めなくて大丈夫です。届いたら、チェックリストで確かめて、総合労働相談コーナーに持って行ってください。