解雇予告手当の計算例
- 1解雇を告げられる
- 2書面と給与明細をそろえる
- 3平均賃金を計算する
- 4会社に請求する
- 5労基署に相談する
この記事の内容
「明日から来なくていい」と突然言われた人が、会社にいくら請求できるのかを、計算例つきで答える記事です。 30日前に言われていなければ、足りない日数分の給料(解雇予告手当)を受け取れる場合があります。 月給の人と時給のパートの人、それぞれの数字を最後まで出します。
突然クビと言われて、頭が真っ白になっていませんか
いきなり解雇を告げられると、怒りより先に「これからどうしよう」が来ます。家賃、生活費、次の仕事。眠れなくなる人もいます。
まず知っておいてほしいのは、あなたが悪いから手当がもらえない、という話ではないことです。会社には「30日前に言う」か「足りない分のお金を払う」かのどちらかをする義務があります。急に言われて困るのは、法律もわかっているのです。
この記事は、動揺したままでも1つずつ確かめられるように作りました。計算は電卓とスマホの給与明細があれば足ります。心身がつらくて眠れない日が続くときは、医師や産業医に相談してください。
解雇予告手当とは何か:30日前に言わないなら、お金で埋める
労働基準法20条は、会社が社員を解雇するとき、次のどちらかをするよう定めています。
| 会社のやり方 | 内容 |
|---|---|
| 30日以上前に予告する | 「◯月◯日付で解雇する」と30日以上前に伝える |
| 予告手当を払う | 30日に足りない日数ぶん、平均賃金を払う |
たとえば即日解雇なら30日分、10日前に言われたなら20日分です。予告が1日短くなるごとに、平均賃金1日分を払う決まりです(労働基準法20条2項)。
これはあくまで「予告のルール」の話です。そもそもその解雇が認められるかどうかは別の問題で、解雇には客観的で合理的な理由が必要とされています(労働契約法16条)。手当を受け取ったからといって、解雇に納得したことにはなりません。個別の判断は、弁護士や労働基準監督署(労基署)に確かめてください。
自分は対象? 払われないことがあるケース
正社員だけの制度ではありません。パート・アルバイトも、次の例外に当たらなければ対象です。
| 対象にならないケース | 根拠 |
|---|---|
| 働き始めて14日以内の試用期間中 | 労基法21条 |
| 日雇い(1か月を超えて働いていない) | 労基法21条 |
| 2か月以内の契約で、その期間を超えていない | 労基法21条 |
| 季節的な仕事で4か月以内の契約 | 労基法21条 |
| 天災などでやむを得ず事業を続けられない | 労基法20条1項ただし書き(労基署長の認定が必要) |
| 本人に重大な落ち度があり、労基署長が認定した | 同上 |
見落としやすいのは、最後の2つに「労基署長の認定」が要る点です。会社が「懲戒解雇だから手当は出さない」と言ってきても、認定が出ているかを聞く価値があります。ただし、認定なしで解雇した場合の扱いは事情で分かれるので、断定せず労基署に確かめてください。
また、会社の経営が苦しい・資金が足りない、という理由は「やむを得ない事由」には含まれないとされています。経営の見通しを誤って資材や資金が獲得できなくなった場合などは該当しない、という行政解釈が示されています(昭和63年3月14日基発第150号)。
自分から辞める「自己都合退職」や、契約期間が終わるだけの場合は、解雇ではないので予告手当の対象外です。だからこそ、次の章の「サインの前に」が大事になります。
平均賃金の計算例:月給30万円の人の場合
手当の金額は「平均賃金1日分 × 足りない日数」です。まず平均賃金を出します。
平均賃金は、解雇を告げられた日の直前の賃金締切日から数えて、さかのぼる3か月間で決まります(労基法12条)。
平均賃金 = 3か月間の賃金の総額 ÷ その3か月の総日数(休日も含む暦の日数)
前提(仮置き)
- 月給30万円、毎月末締め
- 9月20日に解雇を告げられた(直前の締切日は8月31日)
- 対象は6月・7月・8月の3か月
- 3か月の賃金総額は90万円(基本給・残業代・通勤手当などを合わせた額面)
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 3か月の総日数 | 30日(6月)+31日(7月)+31日(8月)=92日 |
| 賃金総額 | 900,000円 |
| 平均賃金(1日分) | 900,000 ÷ 92 = 9,782円60銭 |
銭(1円の100分の1)未満は切り捨てて計算し、実際に手当を支払うときは1円未満を四捨五入します(労働基準法12条の平均賃金の端数処理。厚生労働省労働局の解説資料で確認)。
日数別の請求額(月給30万円の例)
| 言われ方 | 足りない日数 | 計算 | 手当の額 |
|---|---|---|---|
| 即日解雇(予告なし) | 30日分 | 9,782.60円 × 30 | 293,478円 |
| 10日前に予告 | 20日分 | 9,782.60円 × 20 | 195,652円 |
| 20日前に予告 | 10日分 | 9,782.60円 × 10 | 97,826円 |
| 30日以上前に予告 | 0日分 | ― | 0円 |
つまり、月給30万円で即日解雇なら、約29万円が目安です。額面なので、実際に手元に入る額とは違います。
賃金総額に入れるもの・入れないもの
| 入れる | 入れない |
|---|---|
| 基本給、残業代、通勤手当、各種手当 | 臨時に払われたお祝い金など |
| 月ごとに払われる歩合給 | 3か月を超える間隔で払われるボーナス |
(労基法12条4項。試用期間中、業務上のケガでの休業、産前産後や育児休業の期間があれば、その日数と賃金は除いて計算します。同条3項)
時給のパート・アルバイトの計算例:最低保障に注意
時給や日給の人は、計算がもう1本増えます。働く日が少ない人が不利にならないよう、「最低保障」があるからです(労基法12条1項1号)。
最低保障 = 3か月の賃金総額 ÷ その3か月に実際に働いた日数 × 60%
「総日数で割った額」と「最低保障の額」を比べて、高いほうが平均賃金になります。
前提(仮置き)
- 時給1,100円、1日5時間、週4日勤務
- 直近3か月の総日数は92日、実際に働いた日は52日
- 賃金総額は 1,100円 × 5時間 × 52日 = 286,000円
| 計算 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| ① 総日数で割る | 286,000 ÷ 92 | 3,108円69銭 |
| ② 最低保障 | 286,000 ÷ 52 × 0.6 | 3,300円 |
| 採用する額 | ①②の高いほう | 3,300円 |
即日解雇なら、3,300円 × 30日 = 99,000円が目安です。
「週4日しか働いていないから、月の総日数で割って安くなる」と思われがちですが、最低保障のおかげで、働く日が少ない人でもこの額が下限になります。
手当が払われないときの請求文例
会社が「そんな決まりはない」「今回は払えない」と言ってきたら、口頭のやりとりだけで終わらせず、文面で残します。メールでも書面でも、内容は同じです。下の文をコピーして、○の部分だけ入れ替えてください。
件名:解雇予告手当のお支払いについて(請求)
株式会社○○
人事ご担当者様
○○部の(氏名)です。
○月○日に、○月○日付で解雇するとのお話がありました。
労働基準法第20条に基づき、30日前の予告がない場合は、
不足する日数分の平均賃金(解雇予告手当)が支払われるものと理解しています。
私の場合、予告から解雇日まで○日のため、不足は○日分です。
つきましては、下記のとおりお支払いをお願いいたします。
・不足日数:○日
・平均賃金:○円○銭(直近3か月の賃金総額○円 ÷ 総日数○日)
・請求額:○円
・お支払い期限:○月○日まで
あわせて、解雇理由証明書の交付をお願いいたします(労働基準法第22条)。
計算に相違がある場合は、その内訳をお示しください。
以上、ご確認のうえ、ご返信をお願いいたします。
(氏名)
「解雇理由証明書」は、解雇の理由を書面にしたものです。予告された日から退職日までの間なら、請求すると会社は出す義務があります(労基法22条)。後で解雇の理由を争うときの、大事な材料になります。
支払いの時期
即日解雇のように予告なしで全額を予告手当でまかなう場合、手当は解雇を告げるのと同時に払うのが原則とされています(昭和23年3月17日基発464号)。「後日まとめて払う」と言われても、急ぎで払ってもらう権利はあります。ただ、実際の交渉では、期限を書いて請求するほうが話が進みます。
それでも払われないとき
請求しても動かないときは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に相談します。労基法違反の申告は、労働者にできる権利として定められています(労基法104条)。また、裁判になった場合は、裁判所が未払い分と同額の「付加金」の支払いを命じることがあります(労基法114条)。
請求の期限(時効)は3年です(労働基準法115条、同法附則143条3項)。早めに動くのが安全です。
サインする前のチェックリスト
突然クビと言われた直後に、会社から書類を出されることがよくあります。内容を読まないうちに、その場でサインしないでください。 「解雇」のはずが「自分から辞める」扱いの書類だと、手当の対象外になるおそれがあるからです。
- □ 解雇される日(雇用が終わる日)はいつか、確認した
- □ いつ、誰に、どう言われたか(口頭・メール・LINE)を日付つきでメモした
- □ 「退職届」「退職合意書」「同意書」にまだサインしていない
- □ 直近3〜4か月の給与明細を手元にそろえた
- □ 解雇理由証明書を請求した(書面で)
- □ 会社が「懲戒」「本人の責任」と言うなら、労基署長の認定があるかを聞いた
このうち、記録は特に大事です。あとで「言った・言わない」になったとき、あなたの味方になります。
失業保険との関係:会社都合になる可能性がある
解雇された人は、失業保険(雇用保険の基本手当)で「特定受給資格者」、いわゆる会社都合にあたる場合があります(雇用保険法23条)。自己都合退職や、本人の重大な責任による解雇には1〜3か月の給付制限がかかりますが(雇用保険法33条)、特定受給資格者にはこの制限がないため、自分から辞めた場合より給付が始まるまでの待ち時間が短くなります。
ただし、本人に重い落ち度があると認められた解雇は別に扱われます。離職票の「離職理由」が実際と違っていないか、ハローワークに行く前に確認してください。理由が違っていたら、その場で異議を伝えることができます。
次にやること
今日は、直近3か月ぶんの給与明細を並べて、賃金の総額と3か月の総日数から、平均賃金を1つ出してみてください。そこまでできれば、いくら請求できるかが見えます。書類へのサインは、その後でも遅くありません。