最後の給料が振り込まれない
- 1未払いを確認
- 2会社へ請求
- 3労基署へ相談
- 4内容証明郵便
- 5労働審判・少額訴訟
この記事の内容
退職したのに、約束していた給料日が来ても振り込まれない。催促しても返事がない、あるいは「もう少し待って」と繰り返される。今この記事を読んでいるなら、その不安のただ中にいると思う。結論から言うと、未払い賃金は法律で守られた権利であり、請求すれば取り戻せる可能性が高い。ただし放置すると時効で消える。今日できることから順番に書く。
まず確認すること(チェックリスト)
会社に連絡する前に、自分の状況を整理しておくと話が早い。次を1つずつ確かめてほしい。
- □ 給与明細・雇用契約書・就業規則の給与規定を手元に用意した
- □ 「支払われるはずの金額」と「実際に振り込まれた金額」の差を確認した
- □ 給料日から何日経っているかを数えた
- □ 会社からの説明(延期・計算ミス・拒否など)があったかを記録した
- □ タイムカードや勤怠アプリの記録(労働時間の証拠)を保存した
- □ 会社とのやり取り(メール・LINE・Chatworkなど)を消さずに残した
このうち特に大事なのは最後の2つ。証拠がないと、あとで「言った・言わない」になりやすい。
なぜ給料が振り込まれないのか
会社側の言い分は主に3パターンに分かれる。
| パターン | 内容 | こちらの対応 |
|---|---|---|
| 資金繰りの悪化 | 「来月には払う」と先延ばしにする | 支払期限を書面で確認し、記録を残す |
| 計算・手続きのミス | 振込先や金額の誤り | 訂正と速やかな再振込を求める |
| 会社側の言いがかり | 「損害賠償と相殺する」等、根拠のない理由 | 労働者本人の自由な意思による同意がない一方的な相殺は、賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に反し認められない(日新製鋼事件・最高裁平成2年11月26日判決)。専門家に相談 |
理由が何であれ、賃金は全額を、決められた期日に、現金で直接本人に支払うのが原則(賃金支払いの5原則=通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払い。労働基準法第24条の条文で確認)。この原則に反する支払い遅延・不払いは労働基準法違反にあたる。
未払い賃金はいつまで請求できる?
請求できる権利には期限がある。これを消滅時効という。
賃金請求権の時効は、労働基準法第115条により本来5年、ただし附則(第2条第2項)の経過措置で当分の間は3年とされている(2020年〈令和2年〉4月1日施行分から。労働基準法本則・附則の条文で確認)。つまり「そのうち請求しよう」と先延ばしにしていると、3年で権利そのものが消えてしまう。給料日から数えて日が浅いうちに動くほうが安全なのは間違いない。
遅延損害金はいくら発生する?(計算例)
退職後に賃金が支払われないまま日数が経つと、その間の遅延損害金(利息のようなもの)も合わせて請求できる。退職後の未払い賃金には、賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)第6条第1項に基づき年14.6%の遅延利率が上限として適用される(厚生労働省の通達で確認。在職中の未払いにはこの規定が適用されず利率が異なる)。
計算例(前提を以下に書く)
- 未払い賃金: 30万円
- 退職日: 支払われるはずだった給料日の翌日から60日間未払いが続いた場合
計算式: 未払い額 × 年利14.6% × 未払い日数 ÷ 365日
300,000円 × 0.146 × 60 ÷ 365 ≒ 7,200円
つまりこのケースでは、本来の給料30万円に加えて約7,200円の遅延損害金を上乗せして請求できる計算になる。放置する日数が延びるほど加算額も増えるので、早く動くほうが受け取れる総額も有利になる。
請求の手順
順番に進めるのが基本の流れ。いきなり裁判に行く必要はない。
1. 未払いを確認する
給与明細と実際の入金額を照合し、差額を確定させる。曖昧なまま次に進むと、あとで金額を巡って余計な争いになる。
2. 会社へ請求する
まずは電話・メールなど普段のやり取りで支払いを求める。この段階で応じてもらえれば、それが一番早い。ただし口頭だけで終わらせず、必ずメールなど文字に残る形でも伝える。
3. 労基署へ相談する
会社が応じない、または連絡が取れない場合は、管轄の労働基準監督署に相談する。賃金不払いは労働基準法違反の疑いがあるため、労基署は事業所に対して是正勧告や指導を行うことができる(労働基準法第104条の申告制度で確認)。ただし労基署はあくまで行政指導であり、個人への金銭の取り立てそのものを代行するわけではない点は理解しておく。
4. 内容証明郵便を送る(文例)
口頭・メールで動きがない場合、内容証明郵便で正式に請求すると、相手に心理的な圧力がかかりやすく、後の証拠にもなる。
件名:未払い賃金支払いのご請求について
株式会社〇〇〇〇 御中
私は貴社に〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで勤務しておりました〇〇〇〇です。
〇年〇月〇日支払い予定の賃金〇〇〇〇円が、本書面作成日現在も支払われておりません。
つきましては、本書面到達後7日以内に、下記口座へ未払い賃金全額をお振込みくださいますようご請求いたします。
期限内にお支払いいただけない場合、労働基準監督署への申告、または法的手続きを検討いたします。
【振込先】
銀行名:〇〇銀行 支店名:〇〇支店
口座種別:普通 口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
口座名義:〇〇〇〇
〇年〇月〇日
〇〇〇〇(住所・氏名)
内容証明郵便は郵便局の窓口で出せる。書き方に不安があれば、次のステップの弁護士に相談しながら作成すると確実。
5. 労働審判・少額訴訟
内容証明を送っても支払われない場合、法的手続きに進む。金額や状況によって選択肢が変わる。
| 手続き | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 少額訴訟 | 60万円以下、原則1日で審理終了 | 金額が小さく、証拠が揃っている場合 |
| 労働審判 | 原則3回以内の期日で解決を目指す、非公開 | 話し合いでの早期解決を望む場合 |
| 通常訴訟 | 時間はかかるが金額の上限なし | 高額・複雑な事案 |
少額訴訟の60万円以下・原則1回の期日は民事訴訟法第368条、労働審判の原則3回以内の期日は労働審判法第15条第2項、非公開は同法第16条で確認(裁判所公式サイトの説明とも一致)。
どの手続きも、証拠(給与明細・雇用契約書・勤怠記録・やり取りの履歴)が揃っているほど有利に進む。
会社が倒産していたら(未払賃金立替払制度)
請求先の会社がすでに倒産している、または倒産手続き中の場合は、直接の請求では回収が難しい。この場合、独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が運営する未払賃金立替払制度を使える可能性がある。立て替えられるのは未払い賃金総額(退職手当を除く)のうち、退職時の年齢に応じた限度額(30歳未満110万円、30歳以上45歳未満220万円、45歳以上370万円)までの80%で、会社の倒産という要件を満たす必要がある(JOHAS公式サイトで確認)。制度の利用条件は個別事情によって変わるため、詳細は労基署か労働局の窓口で確認するのが確実。
退職代行に未払い賃金の請求は頼める?
ここは誤解が多いところなので正確に書く。一般的な退職代行サービス(民間業者)は、退職の意思を会社に伝える代行はできても、未払い賃金の金額交渉まではできない。 金銭のやり取りを含む「交渉」を弁護士以外が行うと非弁行為(弁護士法第72条により、弁護士でない人が報酬を得て行ってはいけない法律事務)にあたるおそれがあるため。
未払い賃金の交渉・請求まで任せたい場合は、弁護士が運営する退職代行を選ぶ必要がある。弁護士法人ガイア は弁護士が対応するため、退職の意思表示だけでなく未払い賃金の請求交渉も依頼できる(※2026年9月時点の調査。契約前に対応範囲を必ず確認してほしい)。
一方、退職代行Jobs や 退職代行ネルサポート、円満退職ユニオン のような労働組合・民間運営の退職代行は、退職手続きそのものの代行には強いが、未払い賃金の金額交渉は対応範囲外となることが多い。労働組合が運営する場合は、組合員のための団体交渉であれば弁護士法第72条の非弁行為にあたらないとする裁判例(東京地裁令和4年5月2日判決、控訴審・東京高裁令和4年12月15日判決)があり、団体交渉権に基づき一定の交渉ができるケースもある。ただし退職代行業者との実質的な一体性が認められる場合は例外となりうるため、依頼前に必ず対応範囲を確認してほしい。
相談先はどこ?
一人で抱え込まなくていい。無料で相談できる窓口がいくつもある。
- 労働基準監督署: 会社への是正勧告・指導を求められる。管轄は「労働基準監督署 管轄」で検索すれば調べられる
- 労働局 総合労働相談コーナー: 賃金以外のトラブルも含めて無料で相談できる
- 法テラス: 収入・資産が一定の基準以下で、勝訴の見込みがないとはいえない場合などの条件を満たせば、弁護士費用の立替制度(民事法律扶助)が使える(法テラス公式サイトで確認。要返済で毎月5,000円からの分割)
- 弁護士: 内容証明の作成から交渉・訴訟までまとめて任せられる
「甘えているのでは」と思う必要はない。働いた分の対価を受け取るのは当然の権利であり、それを主張することに引け目を感じる筋合いはない。ただし、請求のやり取りで強いストレスを感じ、眠れない・食欲が落ちるといった状態が続く場合は、労働問題とは別に医師や産業医に相談してほしい。
次にやること
まず、給与明細と実際の入金額を並べて差額を確定させ、会社とのやり取りをすべて保存すること。そのうえで、会社に直接請求しても動きがなければ、最寄りの労働基準監督署に相談する。これが今日からできる最初の一歩になる。
出典(2026年9月8日調査)
- 賃金支払いの5原則(労働基準法第24条)|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html(本文の「賃金支払いの5原則」の内容を確認)
- 未払賃金が請求できる期間などが延長されています(労働基準法第115条・附則の経過措置)|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf(消滅時効が本来5年・当分の間3年である点を確認)
- 賃金の支払の確保等に関する法律施行規則 第1条|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73046000&dataType=0&pageNo=1(退職後の未払い賃金の遅延損害金の利率が年14.6%と定められている点を確認。賃確法第6条第1項の委任先)
- 未払賃金の立替払制度の概要|JOHAS(独立行政法人労働者健康安全機構) https://www.johas.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/687/Default.aspx(立替払の割合80%と、退職時年齢別の限度額〈30歳未満110万円・30歳以上45歳未満220万円・45歳以上370万円〉を確認)
- 少額訴訟|裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_02/index.html(60万円以下・原則1回の期日である点を確認)
- 労働審判手続|裁判所 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_21/index.html(原則3回以内の期日・非公開である点を確認)
本文中の数字はいずれも上記の公式情報と一致しており、修正箇所はなかった。