会社が倒産しそうで退職を迷うとき
- 未払賃金立替払制度は、会社が「法律上の倒産」(破産・民事再生など裁判所の手続き)または中小企業に限り労働基準監督署長が認定する「事実上の倒産」に至った場合に、未払い賃金の8割を独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が立替払いする制度(根拠法令:賃金の支払の確保等に関する法律第7条)
- 対象になるのは退職日の6か月前から請求日前日までの定期賃金・退職手当のみで、賞与や解雇予告手当は対象外、未払額2万円未満も対象外
- 立替払の上限額は退職時の年齢で30歳未満88万円・30歳以上45歳未満176万円・45歳以上296万円(いずれもJOHAS公式サイトで確認、2026年9月7日時点)
- 対象労働者になるには、退職日が破産手続開始等の申立日(事実上の倒産なら労基署への認定申請日)の6か月前から2年間の範囲にある必要があり、実務上は退職後6か月以内に申立て・認定申請が行われないと対象から外れる(厚生労働省Q&A、2026年9月7日確認)。請求自体は倒産認定日等の翌日から2年以内という別の期限がある
- 1倒産の兆候に気づく
- 2退職か様子見か判断
- 3倒産の認定を確認
- 4立替払を請求
- 5支給を受ける
この記事の内容
この記事は、給料の遅配や会社の様子から「倒産するのではないか」と感じ、「今すぐ辞めるべきか、それとも様子を見るべきか」で迷っている人に向けて書いています。 結論から言うと、「待てば待つほど安全になる」わけではありません。会社が実際に倒産した場合に未払い賃金を一部取り戻せる「未払賃金立替払制度」には、対象になる賃金の期間や請求できる期限が決まっており、待ち方によっては使える範囲が狭くなることがあります。この記事では、制度の仕組みと、辞めるタイミングで何が変わるかを整理します。
- 給料の遅配が続いていて会社が危ないと感じているが、今すぐ辞めるべきか判断できない
- 万一倒産したら、未払いの給料はもう戻ってこないのではないかと不安
- 「未払賃金立替払制度」という言葉は聞いたことがあるが、自分がいつ辞めれば対象になるのか分からない
結論:待てば安全になるわけではない
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| まだ給料は満額出ているが、会社の様子がおかしい | すぐ辞める必要はないが、就業規則・雇用契約書を確認し、転職活動は並行して始めておく段階 |
| 給料の遅配が始まっている | 遅配が続くほど、後で制度の対象外になる部分が増えるリスクがある(後述) |
| 会社が破産手続き等を申し立てた、または労基署が事実上の倒産を認定した | 未払賃金立替払制度の対象になり得る。証明書等の準備を進める段階 |
「様子を見る」こと自体は間違いではありません。ただし、未払いの状態を何か月も放置してから辞めても、古い分の未払い賃金までは制度で戻ってこないという前提を知ったうえで様子を見るのと、知らずに見るのとでは判断の質が変わります。
辞めるか迷う前に見ておきたい倒産のサイン
会社の倒産を外部から確実に予測することはできません。ただし、一般的に危険信号とされる兆候はいくつかあります。
- 給料や残業代の支払いが遅れる、または一部しか振り込まれない
- 取引先への支払いが滞っている、取引先が離れているという話が社内で出る
- 経営陣や役員の退任・音信不通が続く
- 賞与(ボーナス)が理由の説明なく取りやめになる
- 社会保険料・住民税の給与天引き分が実際には納付されていない(給与明細と別に自分で確認しないと分かりにくい点です)
これらはあくまで一般的に言われる兆候であり(調査した範囲での整理であり、公的な統計に基づくものではありません)、当てはまるからといって必ず倒産するとは限りません。まずは「いつでも動けるように準備する」段階と捉えるのが現実的です。
未払賃金立替払制度とは何か
未払賃金立替払制度は、勤めていた会社が倒産し、賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払い賃金の一部を独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が会社に代わって立て替えて支払う制度です。根拠となる法律は「賃金の支払の確保等に関する法律」(通称:賃確法)です(JOHAS公式サイト「未払賃金の立替払制度の概要」、2026年9月7日確認)。
対象になる「倒産」には2種類あります。
| 倒産の種類 | 内容 |
|---|---|
| 法律上の倒産 | 裁判所による破産手続開始の決定、特別清算開始の命令、民事再生手続開始の決定、更生手続開始の決定のいずれか |
| 事実上の倒産 | 中小企業の事業主に限り、事業活動が停止し再開の見込みがなく賃金支払能力もない状態について、労働基準監督署長が認定した場合 |
いずれの場合も、労災保険が適用される事業で1年以上事業活動を行っていた会社に雇用されていたことが前提条件になります(JOHAS公式サイト、2026年9月7日確認)。
「倒産しそう」というだけの段階(法律上の手続きも労基署の認定もまだない段階)では、この制度はまだ使えません。制度が動き出すのは、破産等の申立てが実際に行われてから、または労基署が事実上の倒産と認定してからです。
対象になる賃金と、受け取れる金額
対象になるのは、退職日の6か月前の日から立替払の請求日の前日までに支払われるべきだった「定期賃金」(基本給・各種手当など)と「退職手当」です。賞与・臨時的な手当・解雇予告手当・遅延損害金・慰労金などは対象外で、未払い賃金の総額が2万円未満の場合も対象外になります(JOHAS公式サイト、2026年9月7日確認)。
立替払で受け取れる金額は、未払い賃金の8割です。ただし退職時の年齢に応じて上限額が決まっており、上限を超えた分は切り捨てられます。
| 退職時の年齢 | 未払賃金の上限額 | 立替払で受け取れる金額(8割) |
|---|---|---|
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
(いずれもJOHAS公式サイトで確認、2026年9月7日時点。年齢は退職時点のものが基準になります)
「辞める」「待つ」で対象がどう変わるか
この記事の本題である「辞めるか待つか」に直結するのが、対象期間の区切り方です。
対象になる未払い賃金は「退職日の6か月前の日から請求日の前日まで」の範囲に限られます。つまり、給料の遅配が始まってから何か月も我慢して働き続けた場合、退職日から6か月より前に発生した未払い分は、この制度では戻ってきません(JOHAS公式サイト、2026年9月7日確認)。「待てば待つほど未払い額がまとめて戻ってくる」わけではない点は、判断材料として押さえておく必要があります。
もう一つ、対象労働者になるための要件として、退職日が「破産手続開始等の申立日(事実上の倒産の場合は労働基準監督署長への認定申請日)の6か月前の日から2年間」の範囲に入っている必要があります(厚生労働省「未払賃金の立替払制度に関するQ&A」、2026年9月7日確認)。この期間は申立日を基準にした区切りなので、退職日を基準に言い換えると、申立てや認定申請は、退職日から6か月以内に行われる必要があるということです。同資料には「退職後6か月以内に裁判所への破産手続開始等の申立て又は労働基準監督署長への認定申請がなされなかった場合は立替払の対象になりません」と明記されており(同資料、2026年9月7日確認)、退職後の猶予は1年半ではなく6か月である点に注意してください。
「早めに辞めておけば、その後1年半くらいは制度の対象になり得る」という理解は誤りです。分かれ目は「退職後6か月以内に、破産の申立てや労基署への認定申請が実際に行われるかどうか」であり、会社がそれより手続きを先延ばしにすると、先に辞めた人は対象から外れます。逆方向のリスクとして、未払いの状態を長く我慢するほど、6か月より前の分が制度の対象から外れていくこともあり、どちらの方向にも「待てば安全」という単純な関係はありません。
請求の流れと期限
請求の大まかな流れは、倒産の種類によって異なります。
- 法律上の倒産の場合:破産管財人等から未払い賃金に関する証明書を受け取り、JOHASに提出する
- 事実上の倒産の場合:労働基準監督署に認定の申請を行い、認定通知書を受け取ったうえで、同じ労基署で未払い賃金額の確認申請を行い、その後JOHASに提出する
請求の期限は、法律上の倒産では裁判所の決定日の翌日から2年以内、事実上の倒産では労働基準監督署の認定日の翌日から2年以内とされています(JOHAS公式サイト、2026年9月7日確認)。電子申請の窓口としてJOHASの立替払請求サイトも用意されています。手続きの詳細や自分のケースが対象になるかどうかは、JOHASの未払賃金立替払相談コーナー(2026年9月7日時点でJOHAS公式サイトに掲載の電話窓口。番号は変更の可能性があるため公式サイトで確認してください)や、最寄りの労働基準監督署に相談するのが確実です。
会社に在籍したまま辞める意思を伝えること自体に不安がある場合や、会社が倒産に向かっている状況で連絡が取りづらい場合は、退職代行サービスを使って退職の意思表示だけを代行してもらう方法もあります。
実体験について、正直に書きます
私自身は2026年に前職を会社都合で退職しており、離職票を受け取ってハローワークで失業保険の手続きをした実体験がありますが、勤め先が倒産した経験や、未払賃金立替払制度を実際に利用した経験はありません。そのため、この記事の制度の仕組みや「辞める・待つ」の判断に関する整理は、自分の体験ではなく、JOHAS公式サイトを調査した範囲でのものです。離職票を受け取ってからハローワークで手続きを進めるまでの流れの実感は、退職理由が倒産によるものではない点を含めて正直に書いておきます。
未払い賃金の計算例
前提を1つ仮置きし、この記事の本文にすでに書いてある数字(立替払の割合8割・年齢区分別の上限額)だけを使って計算します。
| 項目 | 仮の設定 |
|---|---|
| 退職時の年齢 | 32歳 |
| 月あたりの未払い定期賃金(基本給・手当の合計) | 28万円 |
| 未払いが続いた期間 | 退職日から遡って3か月分 |
- 未払い定期賃金の合計:28万円 × 3か月 = 84万円
- 立替払で受け取れる金額(未払い額の8割):84万円 × 0.8 = 67.2万円
- 年齢区分の上限額と照らし合わせる:32歳は「30歳以上45歳未満」に該当し、上限は176万円(前述の表を参照)。67.2万円は上限を下回るため、上限による切り捨てはなく、そのまま67.2万円が支給される見込みです。
※ この計算は、未払い分がすべて「退職日の6か月前から請求日前日まで」の対象期間に収まっていることが前提です。それより前に発生した未払い分は対象外になります(前述「『辞める』『待つ』で対象がどう変わるか」参照)。実際の支給額は労働基準監督署の認定とJOHASの審査を経て確定するため、この計算例はあくまで目安であり、確定額を示すものではありません。
次にやること
まず、自分の未払い賃金がいつから発生しているか(いつの給料から遅配・未払いになっているか)を給与明細で確認してください。そのうえで、会社が実際に破産等の法的手続きに入っているか、あるいは労働基準監督署に相談できる段階かを確認し、退職のタイミングを判断してください。未払いの状態が続いている場合は、我慢して待ち続けるより先に、最寄りの労働基準監督署やJOHASの相談窓口に、今の状況で制度の対象になり得るかを確認することをおすすめします。
※本記事は2026年9月時点でJOHAS公式サイトを確認して整理した一般的な内容です。個別の状況での対象可否や上限額の適用は、会社の倒産の状況や退職時期によって異なります。具体的な判断が必要な場合は、労働基準監督署やJOHASの未払賃金立替払相談コーナー、弁護士など専門機関にご相談ください。
出典 - 独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)「Ⅰ未払賃金の立替払制度の概要」https://www.johas.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/687/Default.aspx (対象倒産の種類、対象労働者・対象賃金の範囲、立替払の割合と年齢区分別上限額、請求期限、申請の流れを確認。2026年9月7日確認) - 厚生労働省「未払賃金の立替払制度に関するQ&A」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/faq_miharaichingin.html (退職日と破産手続開始等の申立日・認定申請日の期間関係、認定申請の期限を確認。2026年9月7日確認) - 賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)第7条(制度の根拠条文。政府が事業主に代わって未払賃金を弁済する旨を規定。条文本文を確認。2026年9月7日確認)