退職と締め日の関係
- 退職の自由(民法第627条第1項)により退職日は自分の意思表示から原則2週間後に成立し、会社が退職日を一方的に指定する権利はない
- 健康保険・厚生年金の資格喪失日は退職日の翌日で(健康保険法第36条)、保険料は資格取得月から資格喪失月の「前月」までを月単位で徴収するため(健康保険法第156条第1項・厚生年金保険法第81条第2項)、月末退職だと退職月分の保険料が発生し、月末より1日でも前に退職すると発生しないという分かれ目がある
- 締め日と給料日は法律で一律に決まっているものではなく各社の給与規程による(自社の給与規程は個別に確認)ため、最後の給与がいつ・どの範囲まで支払われるかは締め日から逆算して確認する必要がある
この記事の内容
「退職に締め日は関係あるのか」——この記事はその疑問に答えます。 先に結論を書くと、辞められるかどうかに締め日は一切関係ありません。 退職日は自分の意思表示で決められます(民法第627条第1項)。締め日が効いてくるのは、「最後の給与にいつ・何が乗るか」と「社会保険料が1ヶ月分発生するかどうか」の2点だけです。この記事では、締め日・給料日・社会保険料の資格喪失日という3つの仕組みから、退職日の決め方を整理します。
- 「うちは締め日があるから」と言われたが、それで退職日が決まってしまうのか分からない
- 退職日を「月末」にすべきか「月末より少し前」にすべきか、何が違うのか分からない
- 最後の給与がいつ・どこまでの分が振り込まれるのか見当がつかない
- 会社の締め日・給料日と、退職の手続きがどう関係するのか整理できていない
結論:退職日で変わること・変わらないこと
| 論点 | 変わるか | 分かれ目 |
|---|---|---|
| 退職できるかどうか | 変わらない。退職日は自分の意思表示で決められる | 意思表示から原則2週間後(民法第627条第1項) |
| 社会保険料が1ヶ月分発生するか | 変わる | 退職日が月末かどうか(資格喪失日が退職月に収まるか翌月にずれるか) |
| 最後の給与がいつ・どこまで振り込まれるか | 変わる(会社の規程による) | 締め日と給料日の組み合わせ(法律上の統一基準が無く会社ごとの規程による。一次情報は確認できず) |
| 有給休暇が使えるか | 退職日を後ろにずらすほど消化しやすい | 締め日ではなく退職日そのものが基準 |
「辞められるかどうか」に締め日・給料日は関係ありません。変わるのは「辞めるときにお金の面で何が起きるか」だけです。 どちらを優先するかは、あなたの状況次第です。
退職に締め日は関係あるのか
関係ありません。 退職できる時期は締め日ではなく、意思表示からの日数で決まります。
期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員としての雇用契約)は、労働者が退職の意思表示をしてから原則2週間で終了します(民法第627条第1項)。会社が退職日を一方的に指定したり、「うちは月末締めだから月末まで働いてもらう」と拒否したりする法的な権利はありません。
ただし、実務上は「引き継ぎのため」「有給休暇を使い切りたいため」といった理由で、労働者側が自分の意思で退職日を後ろにずらすことはよくあります。この記事で扱う締め日・給料日の話も、「いつまでに辞めなければならないか」ではなく、「自分で選べる退職日のうち、どれを選ぶと何が変わるか」の整理です。
締め日と給料日は「会社ごとに違う」がまず前提
締め日とは、給与計算の対象となる労働期間を区切る日のことです。例えば「月末締め」なら毎月1日から末日までの労働分をまとめて計算し、「20日締め」なら前月21日から当月20日までを1つの区切りとして計算します。
給料日とは、その締め日で計算した給与を実際に支払う日のことです。「月末締め翌月25日払い」であれば、8月1日〜31日分の給与が9月25日に支払われます。
労働基準法は「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」(労働基準法第24条第2項)と定めていますが、締め日・給料日そのものを何日にするかまでは決めていません。労働基準法の条文を確認したところ、「毎月一回以上・一定期日払い」という原則はあっても、締め日・給料日の日付そのものを定めた規定は見当たりませんでした(締め日・給料日の日付を定める全国統一基準は存在せず、各社の給与規程・就業規則による。一次情報は確認できず)。この記事のシミュレーションはあくまで一例であり、まず自分の会社の締め日・給料日を確認することが前提になります。
分かれ目①社会保険料:月末退職と月末前日退職の差
ここが、退職日を1日ずらすだけで実際にお金の面で差が出る、いちばん分かりやすいポイントです。
健康保険・厚生年金保険の資格は、退職した日の翌日に喪失します(健康保険法第36条)。そして保険料は、被保険者の資格を取得した月から、資格を喪失した月の「前月」までを月単位で徴収する仕組みになっています(健康保険法第156条第1項・第3項、厚生年金保険法第81条第2項)。
この2つを組み合わせると、退職日によって次のような差が生まれます。
| 退職日の例 | 資格喪失日 | その月の保険料 |
|---|---|---|
| 8月31日(月末)退職 | 9月1日 | 8月分が発生する(資格喪失月=9月の前月にあたるため) |
| 8月30日(月末より前)退職 | 8月31日 | 8月分は発生しない(資格喪失月=8月の前月は7月のため) |
つまり、月末に退職すると退職月の保険料が発生し、月末より1日でも前に退職すると発生しません。 保険料は労使折半のため、本人負担分がまるまる1ヶ月分浮くかどうかの差になります。
注意点が2つあります。 1つは、保険料が発生しないからといって、その月の健康保険が使えなかったわけではないということです(在籍していた期間は保険給付の対象です)。もう1つは、給与から天引きするタイミング(当月分を当月の給与から引くか、翌月の給与から引くか)は会社の給与規程によって異なるため(天引きタイミングを定める全国統一基準は無く、各社の給与規程による。一次情報は確認できず)、「最後の給与明細で何月分の保険料が引かれているか」は実際の明細で確認する必要があるということです。
分かれ目②最後の給与:締め日から逆算していつ・どこまで振り込まれるか
退職日をいつにするかで、最後の給与が「いつ」「どの労働分まで」振り込まれるかも変わります。締め日をまたいで退職すると、最後の給与が2回に分かれて振り込まれることもあります。
例えば「月末締め翌月25日払い」の会社で、8月20日に退職した場合、8月1日〜20日分の給与は通常どおり9月25日に振り込まれます。締め日と退職日がずれていても、締め日までの分は次の給料日にまとめて支払われるのが一般的です。
一方で、「20日締め翌月10日払い」のような締め日と給料日が近い会社では、退職日によっては最後の給与が「先に一部だけ振り込まれ、残りは翌月にもう一度振り込まれる」という形になることもあります。これも会社の給与規程・運用によるため(振込タイミングを定める全国統一基準は無く、各社の給与規程・運用による。一次情報は確認できず)、退職を伝える際に「最後の給与はいつ・どの分まで振り込まれるか」を人事・給与担当に確認しておくと安心です。
分かれ目③有給消化と社会保険の関係
有給休暇を消化してから退職する場合、有給消化中も雇用契約は継続しているため、健康保険・厚生年金の資格もそのまま継続します。つまり、有給消化を挟んで退職日を後ろにずらすと、その分だけ社会保険料が発生する月が増える可能性があります。
有給休暇そのものの付与要件(雇入れから6ヶ月・8割出勤で10日、労働基準法第39条第1項)については、別記事で詳しく扱っています。この記事では「有給消化は退職日を実質的に後ろにずらす行為であり、締め日・保険料の分かれ目にも影響する」という点だけ押さえておいてください。
具体例で見る:月末締め翌月25日払いの会社の場合
ここまでの分かれ目を、多くの会社で見られる「月末締め翌月25日払い」というパターンで具体的に並べてみます。あくまで一例であり、実際は自社の規程で確認してください。
| 退職日 | 資格喪失日 | 8月分社会保険料 | 最後の給与の振込日 |
|---|---|---|---|
| 8月20日 | 8月21日 | 発生しない | 9月25日(8/1〜20日分) |
| 8月30日 | 8月31日 | 発生しない | 9月25日(8/1〜30日分) |
| 8月31日(月末) | 9月1日 | 発生する | 9月25日(8月分満額) |
8月30日退職と8月31日退職では、実際に働く日数はほぼ変わらないのに、社会保険料が1ヶ月分発生するかどうかが分かれます。 有給休暇の消化日数などとあわせて総合的に判断する価値がある差です。
退職日を決める前に確認する3つのこと
- 自社の締め日・給料日:就業規則や給与規程、または人事・総務に確認する
- 月末退職か、月末より前かで社会保険料がどう変わるか:この記事の分かれ目を自社の状況に当てはめて計算する
- 最後の給与がいつ・どこまで振り込まれるか:締め日と退職日がずれる場合は特に、実際の振込予定を人事・給与担当に確認する
退職の意思表示自体は、伝えてから原則2週間で成立します(民法第627条第1項)。「いつ辞めるか」を決めるより先に、「いつまでに伝えれば希望の退職日に間に合うか」を逆算することをおすすめします。焦って伝えると、希望していた月末退職・有給消化のタイミングに間に合わないことがあります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職していますが、これは会社都合退職であり、会社側との合意で退職日が決まったため、「締め日・給料日から自分で逆算して退職日を選ぶ」というこの記事のテーマそのものは経験していません。
そのため、社会保険料の月末問題や締め日と給料日の関係についての整理は、自分が確認した条文と一般的な制度の仕組みを組み合わせたものです。一方で、退職後に離職票が届くまで待った経験(会社都合退職の場合、私は退職から3日で届きました)や、最後の給与明細で何が引かれているかを実際に確認した経験はあり、その部分だけは実体験として書いています。
次にやること
まず、自社の就業規則・給与規程で「締め日」と「給料日」を確認してください。 それが分かれば、この記事の分かれ目(月末退職か、その前日かで社会保険料が変わること)を自分の状況に当てはめて計算できます。急いで辞める必要がある状態なら、保険料の1ヶ月分より自分の心身を優先してかまいません。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理と、筆者個人の体験に基づくものです。個別の状況については、弁護士・社会保険労務士・ハローワークなど専門機関にご確認ください。心身の不調がある場合は、医師・産業医にご相談ください。
出典 - 民法第627条第1項(期間の定めのない雇用契約における解約の申入れと、申入れの日から2週間経過による終了)※条文原文を確認済み - 健康保険法第36条(被保険者資格の喪失時期。事実に該当するに至った日の翌日に喪失)※条文原文を確認済み - 健康保険法第156条第1項・第3項(保険料は各月につき算定するが、前月から引き続く被保険者が資格を喪失した月分は算定しない=結果として資格取得月から資格喪失月の前月までを月単位で徴収する形になる)※条文原文を確認済み - 厚生年金保険法第81条第2項(保険料は被保険者期間の計算の基礎となる各月につき徴収する。健康保険法と同様、資格取得月から資格喪失月の前月までが対象になる)※条文原文をWebFetch経由で確認、あわせて日本年金機構公式サイトのFAQでも同じ運用を確認(2026年8月時点) - 労働基準法第39条第1項(雇入れの日から起算して6箇月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者への年次有給休暇10労働日の付与)※条文原文を確認済み - 労働基準法第24条第2項(賃金は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないが、締め日・支払日そのものは定めていない)※条文原文を確認済み - 締め日・給料日・保険料天引きのタイミングは各社の給与規程・就業規則による(法律上の統一ルールが存在しないことは労働基準法第24条第2項の裏付けにより確認済み。個社の具体的な日付は会社ごとに異なるため読者自身の確認が必要)