退職後の生活費シミュレーション
この記事の内容
会社を辞めると決めたけれど、「収入が止まったら月いくらで暮らせるのか」が分からず動けない人へ。給料がゼロになるのではなく「失業保険に置き換わるまでの空白」がいちばんの敵だという話と、その空白を数字で埋める方法を書く。
お金の不安は、性格の弱さではない。金額と時期がはっきりしないまま「なんとなく怖い」状態が続くこと自体がストレスになる。この記事は、その「なんとなく」を具体的な数字に置き換えるためのものだと思ってもらえればいい。
退職後、収入はどう変わるか
給料は退職日で止まる。次の収入は失業保険(雇用保険の基本手当)だが、これは退職した翌日から出るわけではない。
- 会社都合退職: 離職票提出・求職申込みから7日間の「待期期間」を経て支給開始(雇用保険法21条)
- 自己都合退職: 待期期間7日に加えて、給付制限がつく(雇用保険法33条)。2025年4月1日以降に離職した場合は原則1ヶ月、過去5年以内に自己都合退職が2回以上ある場合は3ヶ月(ハローワークインターネットサービスで2026年8月確認。2025年3月31日以前の離職は原則2ヶ月・過去5年2回以上で3ヶ月だったが、2025年4月の改正でさらに短縮された)
つまり自己都合で辞めた場合、退職から実際にお金が振り込まれるまで1〜3ヶ月の空白がある。ここを貯金でしのぐ前提で計算しないと、途中で資金が尽きる。
失業保険はいくらもらえるか
基本手当日額は、退職前6ヶ月の給与(賞与を除く)を180で割った「賃金日額」に給付率をかけて算出する(雇用保険法17条)。給付率は60歳未満で50〜80%、60〜64歳で45〜80%で、賃金が低いほど高くなる設計になっている(雇用保険法16条)。
給付日数(自己都合・一般離職者の場合)は下表の通り(雇用保険法22条)。
| 被保険者期間 | 給付日数 |
|---|---|
| 1年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
会社都合退職・特定理由離職者(特定受給資格者)はこれより日数が多くなる区分がある(雇用保険法23条)。賃金日額の上限額・下限額は毎年8月に改定されるため(雇用保険法18条)、正確な金額はハローワークインターネットサービスの最新の表で確認する必要がある。
「だいたい額面の5〜6割」という言われ方をよく見るが、これは給付率のレンジをざっくり丸めたものであり、賃金水準によって実際は変わる。自分の場合の概算は、ハローワークの窓口か試算ツールで出してもらうのが確実。
モデルケースで計算の流れをつかむ
仮に、退職前6ヶ月の給与合計が180万円だった場合の流れを見ておく(あくまで計算式の理解用の仮の数字で、実際の給付率・上限額は年度により異なるため自分の金額には当てはめない)。
- 賃金日額 = 180万円 ÷ 180 = 1万円(雇用保険法17条)
- 基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(60歳未満は50〜80%) → 5,000円〜8,000円の範囲(雇用保険法16条)
- 被保険者期間5年で自己都合退職なら、給付日数は90日(雇用保険法22条)
- 基本手当の総額の目安 = 基本手当日額 × 90日
この計算式に、自分の実際の給与とハローワークで教えてもらう給付率を当てはめれば、受け取れる総額のおおよそが見える。賃金日額には上限額・下限額があり毎年8月に改定されるため(雇用保険法18条)、正確な数字はハローワークインターネットサービスの最新情報で確認する。
支出はどう変わるか
給料が止まっても、支出は自動では減らない。むしろ在職中は会社が半分負担していたものが、退職後は全額自己負担に切り替わるものがある。
| 費目 | 在職中 | 退職後 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 会社と折半 | 任意継続 or 国保で全額自己負担(任意継続は加入から最長2年間、標準報酬月額は資格喪失時の額と加入者平均額のいずれか低い方が上限になる。健康保険法38条・47条) |
| 年金 | 厚生年金(会社と折半) | 国民年金第1号被保険者に切り替え、全額自己負担(国民年金法7条・88条) |
| 住民税 | 給与天引き | 退職翌年も前年所得分の納付書が届く(前年所得に課税。地方税法313条。自治体から直接請求、普通徴収は年4回・6月/8月/10月/1月が納期。地方税法320条) |
| 家賃・光熱費・食費 | 変わらない | 変わらない |
住民税は「今の収入が無いから安くなる」ものではない。前年の所得に対して課税されるため、収入が減った直後の時期に前年分の請求がそのまま来る。これが在職中の感覚とずれやすい部分。
月いくらで暮らせるか|目安の組み方
正確な「いくらで暮らせるか」は家族構成・住んでいる地域・家賃で大きく変わるため、一律の金額は出せない。その代わりに、自分の数字を当てはめる手順を示す。
- 固定費を洗い出す: 家賃・水道光熱費・通信費・保険料・国民年金(定額)・国民健康保険 or 任意継続保険料・住民税(月割り)
- 変動費の下限を決める: 食費・日用品・交通費を「切り詰めた場合の最低ライン」で見積もる
- 空白期間(自己都合なら1〜3ヶ月、会社都合なら7日程度)× 固定費+変動費 の合計 を、退職前に確保しておく目安とする
- 失業保険が出始めたあとの不足分があれば、その差額 × 給付日数分だけ貯金を追加で見ておく
この4段階で出した金額が「最低限、通帳に残しておきたい額」になる。ここに引っ越し・転職活動費・急な出費の余白を上乗せするかは、本人のリスク許容度次第。
実体験: 会社都合で辞めた場合、空白期間はこれくらいだった
私自身、2026年6月30日に会社都合で退職し、失業保険を申請した。以下は自分の場合の実際の日数で、会社都合退職だったため自己都合より短い(給付制限が無いため)。自己都合の読者は上の表の日数を目安にしてほしい。
- 離職票: 退職日から3日で届いた(6/30退職→7/3(金)17時ごろ)。マイナンバーと紐づけていたため早かったと思われる
- ハローワーク初回: 離職票が届いた次の平日(7/6・月)に行った。待ち時間は15分ほどで、持参物で足りなかったものは無かった
- 雇用保険説明会: 7/15(水)
- 会社都合のため給付制限は無かった
- 初回振込までの日数: 退職日から36日(6/30→8/5)、説明会からは21日(7/15→8/5)
- 求職活動実績: 初回認定では、ハローワークの窓口で相談したこと自体と、7/15の雇用保険説明会に出席したことが実績として扱われ、それ以外の活動は不要だった
会社都合だと給付制限が無い分、自己都合より1〜3ヶ月分、空白が短くなる。逆に言えば、自己都合で辞める場合は「振込まで最短でも1ヶ月強、長ければ3ヶ月」を前提に貯金を積む必要がある。
さらに退職後は、住民税が前年所得分として届く。私の場合は1期分(3ヶ月分)ずつ、年4回の分割払いになった(地方税法320条の年4回の納期どおり)。健康保険は国民健康保険を選び、会社都合退職者向けの軽減措置が使えて任意継続より安くなったが、子どもは妻の健康保険の扶養に移した(国保は世帯の扶養が増えると保険料が上がるため)。金額そのものより、「いつ・何が来るか」が事前に分かっているだけで、支出の見通しはかなり立てやすくなった。
貯金が足りないと分かったときの選択肢
計算してみて「空白期間を乗り切る貯金が無い」と分かった場合、選べる手はいくつかある。
- 有給休暇を消化してから辞め、退職日を後ろにずらして給料が出る期間を延ばす
- 退職代行を使う場合、費用を分割・後払いできるサービスを選ぶ(退職代行Jobsなど。後払い対応の可否はサービスごとに異なるため申し込み前に確認する)
- 傷病手当金・失業保険の給付制限短縮の対象になるか(体調不良が理由の場合など)をハローワークや医師に確認する
貯金がないことは「辞めてはいけない理由」にはならない。ただし空白期間を無策で迎えると生活が崩れるため、辞める前に数字で確認しておく。
次にやること
自分の固定費を紙かスマホのメモに書き出し、「退職から失業保険の振込まで何ヶ月しのぐ必要があるか」をハローワークの案内(自己都合なら給付制限1〜3ヶ月+待期7日、会社都合なら待期7日のみ)に当てはめて、必要な貯金額を1つの数字にする。