40代の退職とお金
- 40代の退職で最初に出すべき数字は貯金の残高ではなく「収入が途切れる月数」
- その月数は退職理由(自己都合か会社都合か)で変わり、待期7日・給付制限(自己都合は原則1ヶ月、5年内2回以上は3ヶ月)の分だけ後ろにずれる(雇用保険法21条・33条)
- 45歳を境に基本手当日額の上限や一部の給付区分が変わるため、40代は年齢の境目を意識する必要がある
- 住宅ローン・保育料・学費は退職しても減らない固定費として先に足す
- 配偶者の収入・扶養の有無、退職金・企業型DCの有無で必要な備えは大きく変わる
- 1固定費を洗い出す
- 2空白期間を試算
- 3貯蓄・退職金と比較
- 4不足額を判断
- 5対策を選ぶ
この記事の内容
配偶者や子どもがいて、住宅ローンも残っている状態で退職を考えている40代向けの記事です。結論を先に言うと、最初に出すべき数字は「貯金がいくらあるか」ではなく「収入が途切れる期間は何ヶ月か」です。この記事では、その空白期間の長さの決まり方と、家族がいる場合に足すべき固定費、40代特有の年齢の境目を整理します。
結論:貯金額ではなく「何ヶ月耐えられるか」で考える
「貯金が300万円あるから大丈夫」という考え方は、家族がいる40代の場合は危険です。同じ300万円でも、毎月の固定費が15万円の世帯と35万円の世帯では、耐えられる期間が2倍以上違います。
逆算の順番はこうです。①毎月の固定費を出す → ②収入が途切れる月数を見積もる → ③貯蓄・退職金でその期間をまかなえるか計算する。貯金の絶対額ではなく、①と②の掛け算に対して貯蓄が足りているかで判断します。
収入の空白期間はどれだけ続くか
失業保険(基本手当)は、退職してすぐに振り込まれるわけではありません。空白期間の長さは、自己都合退職か会社都合退職かで大きく変わります。
| 退職理由 | 空白期間の目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 会社都合退職(特定受給資格者等) | 待期7日のみ。給付制限なし | 雇用保険法21条 |
| 自己都合退職(通常) | 待期7日+給付制限原則1ヶ月 | 雇用保険法21条・33条。2025年4月改正で2ヶ月から1ヶ月に短縮 |
| 自己都合退職(5年内に3回以上) | 待期7日+給付制限3ヶ月 | 雇用保険法33条・2025年4月の制度改正(厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律」職業安定分科会雇用保険部会資料、2026年8月確認) |
これは別記事(012・011)でfact_check済みの内容です。自己都合退職の場合、待期と給付制限を合わせると最短でも1ヶ月強、条件によっては3ヶ月以上、収入がまったく無い期間ができます。この期間の長さがそのまま「最低限用意しておくべき生活費の月数」の出発点になります。
会社都合退職ならこの給付制限そのものがありません。退職理由によって必要な備えの月数が変わるという点は、40代に限らず退職を考えるすべての人に共通する前提です。
40代は失業給付の”境目”に立つ年代
40代を通しで見ると、途中に大きな区切りがあります。45歳です。
- 基本手当日額の上限が上がる:賃金日額の上限額は30歳以上45歳未満で16,540円、45歳以上60歳未満で18,220円です(令和8年8月1日〜、厚生労働省「基本手当日額の計算式及び金額」で2026年8月に再確認、別記事012の照合結果とも一致)。同じ給与水準でも、45歳を過ぎてからのほうが受け取れる基本手当の天井が高くなります
- 会社都合退職の最大日数区分の起点になる:会社都合退職(特定受給資格者等)で受け取れる日数の上限330日は、45歳以上60歳未満かつ被保険者期間20年以上の場合です(雇用保険法第23条。具体的な日数区分は同条に基づく別表であり、ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」で2026年8月に確認)。就職困難者の360日区分は45歳以上65歳未満が対象です(雇用保険法第22条2項1号。今回taishoku/laws/雇用保険法.txtの条文本文で確認)
つまり44歳での退職と45歳での退職では、同じ勤続年数・同じ給与水準でも、受け取れる金額の上限や日数区分が変わりうるということです。会社都合退職(特定受給資格者)の場合、40代の境目での所定給付日数は次のとおりです。
| 被保険者期間 | 44歳まで(35歳以上45歳未満) | 45歳から(45歳以上60歳未満) |
|---|---|---|
| 1年未満 | 90日 | 90日 |
| 1年以上5年未満 | 150日 | 180日 |
| 5年以上10年未満 | 180日 | 240日 |
| 10年以上20年未満 | 240日 | 270日 |
| 20年以上 | 270日 | 330日 |
(ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」、雇用保険法第23条に基づく特定受給資格者・特定理由離職者向けの表、2026年8月確認)
被保険者期間20年以上のケースでは、44歳での退職と45歳での退職で所定給付日数が60日違います。誕生日と退職時期が近い場合は、この表と自分の被保険者期間を照らし合わせてから動くことをおすすめします。
固定費の逆算:減らせない支出から先に足す
家族がいる40代の場合、退職しても減らない固定費があります。空白期間の月数に掛け合わせる金額を出すときは、まずこの3つを先に足してください。
- 住宅ローンの返済額 — 収入が止まっても引き落としは続きます。金融機関によっては返済猶予の相談ができる場合がありますが、これは個別の契約内容によるため、必要であれば早めに金融機関へ直接相談してください
- 保育料・学費 — 認可保育園の保育料(利用者負担額)は世帯の市町村民税所得割額をもとに決まる仕組みです(子ども・子育て支援法施行令第4条。市町村民税所得割額の算定方法の細目は同法施行規則第21条の2、2026年8月に条文で確認)。多くの自治体では4〜8月分は前々年、9月〜翌3月分は前年の所得を基準にした住民税額が使われるため(渋谷区・中野区など複数自治体の公式案内、こども家庭庁公式サイト、2026年8月確認)、退職してもすぐには保育料が下がらない時期があります。私立の学費や習い事の月謝も、多くは退職と連動して自動的に減る性質のものではありません
- 保険料(健康保険・生命保険など) — 健康保険は任意継続・国民健康保険・家族の扶養のいずれかを選ぶことになり、選び方で金額が変わります。この比較は別記事(015)で詳しく扱っています
これらは「贅沢を我慢すれば減らせる支出」とは性質が違い、契約や制度に紐づいているため、退職を決める前に金額を確認しておく価値があります。
配偶者の収入と扶養で必要な備えは変わる
配偶者に収入があるかどうかは、必要な備えの大きさに直結します。
- 配偶者の扶養に入れる場合 — 年収の見込みが130万円未満(60歳以上・一定の障害がある人は180万円未満)などの条件を満たせば、健康保険料の負担がなくなる場合があります(協会けんぽ公式サイト、別記事015でfact_check済み)
- 扶養に入れない場合 — 任意継続・国民健康保険のどちらが安いかは前年所得や家族構成で変わります。国民健康保険は世帯の扶養家族が増えるほど保険料が上がる仕組みのため、家族構成によっては家族分を分けたほうが安くなることがあります
配偶者の収入がある世帯は、その分だけ空白期間を乗り切りやすくなりますが、「配偶者の収入があるから大丈夫」で試算そのものを省略しないことをおすすめします。配偶者の勤務先が扶養手当・家族手当を出している場合、自分の退職によって配偶者側の手当の条件が変わることもあるため、確認しておく項目のひとつです。
退職金・企業型DCも計算に入れる
貯蓄と並べて計算に入れるべきものが、退職金と企業型確定拠出年金(企業型DC)です。
- 退職金 — 支給額・支給時期は会社の退職金規程によって大きく異なります。「退職すればすぐ振り込まれる」とは限らないため、規程上の支給時期を人事や就業規則で先に確認してください
- 企業型DC — 加入していた場合、資格喪失日の属する月の翌月から起算して6ヶ月以内に移換手続きをしないと、資産が自動的に国民年金基金連合会へ移換され、運用が止まったうえ手数料だけがかかる状態になります(厚生労働省・社会保障審議会企業年金部会資料、別記事011でfact_check済み)。これは当座の生活費そのものではありませんが、放置すると目減りする資産という意味で、退職時にまとめて確認しておくべき項目です
退職金・企業型DCは金額が確定するまで時間がかかることが多いため、「入ってくる予定だが、いつ・いくらかはまだ分からない」というお金として、当座の空白期間の計算からは切り離して考えるほうが安全です。
実体験について、正直に書きます
私自身は2026年6月30日に会社都合で退職しましたが、これは40代での退職ではなく、住宅ローンや教育費のピークと重なる年代特有の悩みを実体験として語ることはできません【本人の実体験の範囲外】。
ただし年齢に関係なく参考になる部分として、実際の収入の空白期間はお伝えできます。会社都合退職だったため給付制限がなく、初回振込までは退職日から36日でした(自己都合退職の場合はこれより後ろにずれます)。また配偶者・子どもがいる世帯として、健康保険は国民健康保険を選び(非自発的失業者の軽減制度が使えたため)、子どもは私の国保にせず配偶者の健康保険の扶養に入れました。子どもを保育園に預けている場合、退職後は「求職中」としての継続利用手続きが必要になり、私の場合は求職活動状況申告書・配偶者の就労証明書・失業の事実がわかる書類の3点が必要でした。
固定費の金額そのものは、前年の年収が逆算できてしまうためこの記事には書いていません。
次にやること
毎月の固定費(住宅ローン・保育料や学費・保険料)を書き出し、退職理由が確定した時点での空白期間の目安(会社都合なら1ヶ月強、自己都合なら1〜3ヶ月強)を掛け合わせて、貯蓄・退職金でまかなえるかを一度計算してみてください。不足しそうな場合は、退職時期をずらす、退職理由を会社と相談する、といった選択肢を検討する材料になります。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。失業保険の金額・日数・年齢区分は制度改正や個別の被保険者期間によって変わるため、正確な数字はハローワークで確認してください。住宅ローンの返済猶予・保育料の算定は個別の契約・自治体によって異なります。心身の不調がある場合は、お金の計算より先に医師・産業医にご相談ください。