月末退職と月末前日退職で社会保険料はどう変わるか
- 退職日の翌日が「資格喪失日」になり、資格喪失日が属する月の前月分までしか保険料はかからない(健康保険法第156条3項)
- 月末(例:6/30)退職なら資格喪失日は翌月1日になり、退職月分の社会保険料も発生する
- 月末前日(例:6/29)退職なら資格喪失日はその月の末日になり、会社の社会保険料はその月分発生しない
- ただし退職月前日退職は転職先が決まっていない場合、月末までの数日が無保険期間になり国保・国民年金の切り替えが必要になるため、単純に「得」とは言い切れない
- 自分の場合にどうなるかは、退職日を決める前に総務・人事に確認するのが一番早い
- 1退職日を決める
- 2資格喪失日を確認
- 3保険の切替先を決める
- 4退職
この記事の内容
この記事は、退職日を決めるときに「月末にするか、その前日にするか」で社会保険料が変わると聞いて、結局どちらがいいのか分からずに調べている人に向けて書いています。 結論から言うと、退職日が1日違うだけで、その月の社会保険料が「発生する側」になるか「発生しない側」になるかが変わります。ただし、それだけで「得」と決めつけるのは早いです。仕組みと注意点を順番に整理します。
- 「月末より前日に辞めたほうが保険料が浮く」と聞いたが、本当かどうか分からない
- 退職日を1日ずらすだけで得になるなら、会社にお願いしてみたい
- でも何か落とし穴がありそうで、鵜呑みにするのが怖い
その疑問はもっともです。ネット上には「月末前日退職がお得」という書き方をしている記事も多いですが、話はそこまで単純ではありません。まず、なぜ1日で扱いが変わるのかという仕組みから見ていきます。
結論:資格喪失日が1日ズレるだけで扱いが変わる
会社の健康保険・厚生年金保険には「資格喪失日」というものがあり、退職日の翌日がこの資格喪失日にあたります(健康保険法第36条1項2号)。そして保険料は、資格喪失日が属する月の前月分までしかかかりません(健康保険法第156条3項)。
つまり、退職日を1日ずらすと資格喪失日も1日ずれ、その結果「資格喪失日がどの月に属するか」が変わって、退職月分の社会保険料がかかるかどうかが変わります。1日の差が、月単位の差になって出てくるのがこの話の面白いところです。
なぜ退職日で保険料が変わるのか(資格喪失日の仕組み)
健康保険法第36条1項は、被保険者が「その事業所に使用されなくなったとき」、その翌日から資格を喪失すると定めています。
- 6月30日(月末)に退職 → 資格喪失日は7月1日
- 6月29日(月末の前日)に退職 → 資格喪失日は6月30日
そして健康保険法第156条3項は、「前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない」と定めています。資格喪失日が属する月は、保険料の対象からはずれるということです。
この2つを組み合わせると、次のようになります。
- 資格喪失日が7月1日 → 7月分は保険料算定なし。しかし6月末まで被保険者だったので6月分は対象になる
- 資格喪失日が6月30日 → 6月分も算定なし。その月の保険料は対象にならない
厚生年金保険料についても同じ考え方です。厚生年金保険法第14条2号は「その事業所又は船舶に使用されなくなったとき」の翌日に資格を喪失すると定めており、同法第19条1項は「被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月まで」を被保険者期間に算入すると定めています。つまり資格喪失日が属する月は被保険者期間に入らず、保険料の対象からも外れる仕組みは健康保険と同じです。日本年金機構の解説でも「3月31日付けで退職した場合、資格喪失日は4月1日となる」「厚生年金保険の資格を取得した月の月末以前にその資格を喪失した場合は、厚生年金保険料の納付が必要になる」と説明されています(日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」、nenkin.go.jp、2026年8月31日確認)。
月末退職と月末前日退職の比較
6月に退職する場合を例に、6月30日退職と6月29日退職を比べると次のようになります。
| 6月30日(月末)退職 | 6月29日(月末前日)退職 | |
|---|---|---|
| 資格喪失日 | 7月1日 | 6月30日 |
| 6月分の会社の社会保険料 | 対象になる(健康保険法156条3項) | 対象にならない(同上) |
| 6月30日の保険の空白 | 空白なし(6/30まで会社の保険に加入) | 空白になる(6/30は会社の保険に入っていない) |
| 6月30日の保険の入り先 | 会社の健康保険・厚生年金 | 国民健康保険・国民年金、または転職先の保険(入社日次第) |
給与から実際にいつ天引きされるかは会社の運用次第で、当月分を当月給与から引く会社もあれば、当月分を翌月給与から引く会社もあります。翌月払いの会社で月末退職すると、最後の給与でまとめて2ヶ月分が引かれることもあるという説明が、複数の給与計算・人事系サイトに共通して見られます(マネーフォワード クラウド給与、HR NOTE、2026年8月31日確認)。天引きのタイミングは会社ごとに違うため、自分の会社がどちらかは総務・給与担当に確認しないと分かりません。
「月末前日退職が得」と言い切れない理由
ここまでだけ見ると、「月末前日に退職すれば会社の保険料が浮く」ように見えます。ただし、これは次の日から入る保険が決まっている場合の話ではありません。
月末前日に退職すると、その月の残り(先の例なら6月30日の1日分)は会社の社会保険から外れます。転職先が7月1日入社で、7月1日から新しい会社の保険に入れるなら大きな問題にはなりませんが、次の就職先が決まっていない場合は、6月30日だけのために国民健康保険・国民年金への切り替え手続きが必要になります。
国民健康保険・国民年金は日割りではなく月単位で保険料がかかる制度です。1日だけの空白のために手続きをして、結果的にその月の国保・国民年金の保険料が発生することもあります。つまり「会社の保険料は浮いたが、代わりに別の保険料がかかった」という形になり、実際に得になるかどうかはケースバイケースだという指摘が、退職・転職まわりの複数の実務系サイトに共通して見られます(Money Lifehack、リクナビNEXT等、2026年8月31日確認)。
会社都合退職・自己都合退職のどちらであっても、この資格喪失日の仕組み自体は同じです。国民健康保険料の軽減措置(会社都合退職者向けなど)が使えるかどうかは、また別の話として市区町村の窓口で確認が必要です。
筆者自身は月末に退職している
筆者自身は2026年6月30日、つまり月末に退職しました。資格喪失日は7月1日になるので、6月末までは会社の健康保険に加入していたことになります。7月1日からは国民健康保険に切り替え、会社都合退職の軽減措置が使えたため、任意継続よりも保険料が安く済みました(taishoku/jittaiken.md記載の本人の事実にもとづく。実際に給与から何ヶ月分の保険料が天引きされたかは確認していないため、ここでは書きません)。
月末退職だったので「前日退職にしていたらどうだったか」までは実体験としては分かりませんが、資格喪失日が退職日の翌日になるという仕組みそのものは、実際に自分の離職票や資格喪失の手続きの中で確認できました。
自分の場合はどうなるか、今すぐ確認すること
退職日を1日変えるだけで得かどうかを自分で計算しようとすると、次の要素すべてを把握する必要があります。
- 自分の会社の給与天引きが当月払いか翌月払いか
- 転職先が決まっている場合、入社日がいつか
- 転職先が決まっていない場合、退職月の国民健康保険・国民年金の保険料がいくらになりそうか
これを自分だけで正確に計算するのは簡単ではありません。退職日を決める前に、会社の総務・給与担当に「退職日を〇月〇日にした場合、資格喪失日と最後の給与からの控除はどうなるか」を1回聞いてみてください。 これが、憶測で退職日を決めて後から想定外の請求に驚くのを避ける、一番早い方法です。