退職代行で懲戒解雇・損害賠償はある?請求が認められる条件と事例
- 退職代行を使ったこと自体は懲戒解雇の理由にならない(退職は民法627条で保障された労働者の権利)
- 懲戒解雇が有効になるのは、横領・重大なハラスメント・長期の無断欠勤など就業規則上の別の重大な事由がある場合だけ
- 損害賠償請求も、利用しただけでは発生しない。認められるには具体的な損害と労働者の義務違反の両方が要り、実際に認められるハードルは高い
- 契約社員など有期雇用は民法628条が絡み、無期雇用より注意点が増える
この記事の内容
退職代行を使おうとすると、「懲戒解雇にされるのでは」「訴えられて損害賠償を請求されるのでは」という不安が出てきます。この記事はその2つの不安に、法律の根拠を分けて答えるためのものです。結論を先に言うと、退職代行を使ったこと自体を理由に懲戒解雇されることも、損害賠償を請求されることも、原則としてありません。
- 退職代行を使うと、経歴に「懲戒解雇」と残ってしまうのではないか
- 急に辞めることで、会社から損害賠償を請求されるのではないか
- ネットで「訴えられた」という話を見て不安になっている
結論:利用しただけでは、どちらもされない
| 論点 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 退職代行を使っただけで懲戒解雇されるか | されない | 退職は民法627条で保障された労働者の権利 |
| 懲戒解雇が有効になる場合はあるか | ある。ただし退職代行の利用とは別に、就業規則上の重大な事由が必要 | 横領・重大なハラスメント・長期の無断欠勤など |
| 損害賠償を請求されるか | 請求自体はできても、認められるハードルは高い | 民法415条・709条。義務違反と具体的損害の両方が必要 |
| 有期雇用契約(契約社員など)は違うか | 違う。契約期間の途中で辞める場合は別の条文が絡む | 民法628条 |
懲戒解雇と損害賠償は、法律上まったく別の話です。どちらも「退職代行を使った」ことそのものが理由にはなりません。 ここを混同して不安になっている人が多いので、この記事では2つを分けて説明します。
懲戒解雇が有効になるのはどんなときか
懲戒解雇は、会社が労働者に科せる処分の中でもっとも重いものです。退職金が支払われない、再就職の際に不利になりうるなど、労働者への不利益が大きいため、法律上のハードルはかなり高く設定されています。
退職代行の運営元や労働問題専門の法律事務所の解説では、退職代行の利用それ自体は懲戒解雇の理由にならないという説明で一致しています(複数の法律事務所サイトで確認・2026年8月28日)。理由はシンプルで、退職すること自体が労働者に認められた権利だからです(民法627条。詳細は既存記事「即日退職はどこまで可能か」)。権利の行使を理由に会社が重い処分を科すことは、労働者保護の考え方に反します。
懲戒解雇が有効になりうるのは、退職代行の利用とは別に、次のような重大な事由が就業規則上あった場合です。
- 横領など、業務上の地位を利用した犯罪行為
- 会社の名誉を著しく害するような重大な行為
- 経歴の重大な詐称
- 長期間の無断欠勤
- 重大なセクシャルハラスメント・パワーハラスメント
「長期間の無断欠勤」そのものが懲戒解雇の理由として有効になるかどうかに、一律の日数基準はありません。懲戒解雇の有効性について日数の基準を定めた法令・通達は調べた範囲で見当たらず、法律事務所の解説記事でも具体的な日数は一致していませんでした(2026年9月6日時点)。なお、これとは別の制度として、労働基準法20条の「解雇予告除外認定」(会社が予告なしに即時解雇するために労働基準監督署の認定を受ける仕組み)では、厚生労働省の通達(昭和23年11月11日基発第1637号・昭和31年3月1日基発第111号)が認定すべき事例の一つとして「原則として2週間以上の正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」を挙げています(福井労働局の公式資料に通達の認定基準本文が掲載されており、該当の記載を確認・2026年9月6日)。この「解雇予告除外認定」は懲戒解雇が有効かどうかの基準ではなく、あくまで解雇予告手当の要否に関する別の基準である点に注意してください。また、通常の退職代行の利用は「有給休暇を使い切って出社しないまま退職日を迎える」形が中心であり、無断欠勤には当たりません(有給消化の仕組みは既存記事「即日退職はどこまで可能か」で解説)。この点で、一般的な退職代行の利用が上記の重大事由に該当することは通常ありません。
「解雇」を通知されても、退職はどのみち成立する
会社が腹を立てて「懲戒解雇にする」と通知してきた場合でも、押さえておきたい点があります。
民法627条により、退職の意思表示から2週間が経過すれば、会社の承諾の有無にかかわらず契約は終了します。つまり、退職代行が意思表示を伝えた時点で、遅くとも2週間後には労働契約が終わることは動きません。 会社側の「懲戒解雇」という通知は、実質的な不利益(退職金の扱い、離職票の離職理由の書き方など)には影響しうるものの、「契約が終わるかどうか」自体を左右するものではありません。
合理的な理由がなく、退職代行を使われたことへの腹いせのような形で懲戒解雇を通知することは、労働契約法15条(懲戒)の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない懲戒は、権利の濫用として無効とする」という規定に触れ、無効と判断される可能性が高いとされています(複数の法律事務所解説で言及・2026年8月28日確認。労働契約法15条の条文は法令データベースサイトで複数確認)。
離職票の離職理由欄に「懲戒解雇」と記載され、それによって失業保険の受給に不利益が生じるなど、具体的な実害が出た場合は、自分だけで対応せず弁護士に相談することをおすすめします。
退職代行で損害賠償を請求される可能性はあるか
懲戒解雇と並んでよく不安視されるのが、損害賠償請求です。
法律上の根拠になりうるのは、主に次の2つです。
- 民法415条(債務不履行):労働契約上の義務を果たさなかったことによる損害
- 民法709条(不法行為):会社の権利や利益を違法に侵害したことによる損害
ただし、法的な根拠があることと、実際に請求が認められることは別です。複数の法律事務所解説が一致して指摘しているのは、損害賠償が認められるには、労働者側に何らかの義務違反があり、かつその違反によって会社に具体的な損害が生じたことの両方が必要という点です(2026年8月28日確認)。
「退職代行を使って辞めた」という事実だけでは、この2つの条件は満たされません。有給休暇を使い切って辞めるという、法律上認められた方法を使っているだけだからです。
損害賠償の話が現実味を帯びるのは、次のようなケースに限られるとされています。
- 長期間の無断・無連絡欠勤が続いていた場合
- 引き継ぎを一切せず、それによって具体的な契約解除や取引損失など、金額に換算できる損害が実際に発生した場合
- 顧客情報などの機密情報を不正に持ち出した場合
いずれも、退職代行を使ったこと自体ではなく、それとは別の労働者側の行為が問題になっているケースです。
実際に損害賠償が認められた事例
「損害賠償を請求されて実際に支払いを命じられた」という報道・記事を目にすることもありますが、内容をよく読むと、通常の退職代行の使い方とは事情が異なるケースであることがほとんどです。
法律事務所や社会保険労務士事務所の解説記事で紹介されている例の一つに、ケイズインターナショナル事件(東京地裁平成4年9月30日判決)があります。引き継ぎをしないまま退職した従業員に対して、会社が200万円の損害賠償を請求し、裁判所が70万円の支払いを命じたという事案です(複数の社会保険労務士事務所・法律事務所の解説記事で金額が一致していることを確認・2026年8月28日。判決全文は労働判例616号10頁に掲載とされますが、裁判所の無料の裁判例検索では公開されておらず(2026年9月6日確認)、本記事は複数の解説記事の一致した要約に依拠しています)。
この事例から読み取れるのは2つです。
- 損害賠償が認められること自体は、法律上ありえる
- ただし、認められるとしても「請求額そのまま」ではなく、実際の損害額に応じて大きく減額される傾向がある
さらに重要なのは、この事案が「引き継ぎを一切せず、取引先との契約解約という具体的な損害が発生した」という、かなり特殊な事情を伴っている点です。有給休暇を使って出社しないまま退職日を迎える、一般的な退職代行の使い方とは前提が違います。
「損害賠償された人がいる」という情報だけを見ると不安になりますが、その人が何をしたかまで確認すると、多くは引き継ぎ拒否や情報持ち出しなど、退職代行の利用そのものとは別の行為が原因です。通常の使い方をしている限り、過度に恐れる必要はありません。
契約社員・派遣は注意点が少し違う
ここまでの話は、期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員に多い形)を前提にしています。契約社員や、契約期間が決まっている働き方の場合は、少し事情が変わります。
契約期間の途中で辞める場合、民法628条が関係します。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。 (民法628条、条文原文を2026年8月確認)
「やむを得ない事由」があれば契約期間の途中でも辞められますが、その事由が自分の側の落ち度で生じたものである場合は、相手方(会社)に損害賠償の責任を負う可能性があるという条文です。無期雇用の民法627条とは別の条文なので、契約社員や有期雇用の派遣社員が退職代行を検討する場合は、この点を先に確認しておくと安心です。
なお、労働基準法137条により、契約期間が1年を超える有期契約(一定の事業の完了に必要な期間を定める契約などは除く)を結んでいる場合は、契約期間の初日から1年が経過していれば、会社に申し出ることでいつでも退職できるという規定もあります(労働基準法137条、条文原文を2026年8月確認)。自分の契約が何年契約で、いつから何年経っているかは、契約書か雇用契約の控えで確認してください。
次にやること
まず、自分の雇用契約が「期間の定めのないもの(正社員に多い)」か「期間が決まっているもの(契約社員・一部の派遣など)」かを確認してください。 期間の定めがない場合、退職代行の一般的な使い方(有給消化して出社しないまま辞める)で懲戒解雇や損害賠償を心配する必要は基本的にありません。期間の定めがある場合や、すでに会社から懲戒解雇・損害賠償の話が具体的に出ている場合は、自分だけで判断せず、退職代行の相談時にその事情を伝え、必要であれば弁護士が対応する窓口を選んでください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。懲戒解雇・損害賠償請求の該当性は個別の事情によって大きく変わります。判断に迷う場合は、退職代行への相談とあわせて弁護士にご確認ください。
出典 - 民法627条・628条・415条・709条(e-Gov法令検索で条文原文を確認) - 労働基準法137条(法令原文を直接確認) - 労働契約法15条・16条(e-Gov法令検索。条文は法令データベースサイトの転記で複数確認・2026年8月28日) - 退職代行で懲戒解雇されるリスクは低い!万が一懲戒解雇された時の対策 - 退職代行が失敗するケースとは?リスクを抑える3つの方法 - 退職代行で損害賠償請求される?訴えられる事例8選を弁護士が解説 - 退職代行で損害賠償請求をされるリスクはある? - ケイズインターナショナル事件(東京地裁平成4年9月30日判決) - ケイズインターナショナル事件(東京地判平4.9.30労判616号10頁)解説 - 解雇予告除外認定について(兵庫労働局)(通達番号の確認) - 解雇予告除外認定の申請について(福井労働局参考資料)(昭和23年11月11日基発第1637号・昭和31年3月1日基発第111号の認定基準本文を掲載。「原則として2週間以上の正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」の記載を2026年9月6日確認)