ハラスメントで辞めるとき
- ハラスメントが原因の離職は、要件を満たせば「特定受給資格者(会社都合)」として扱われる(雇用保険法23条2項・同法施行規則第36条8号)
- 条件は大きく3つ「ハラスメントの事実があったこと」「会社がその事実を把握していた、または把握しうる状況だったこと」「会社が必要な対応をせず、それによって就業継続が困難になったこと」
- 自己都合との差は主に給付制限の有無(会社都合は給付制限なし、自己都合は原則1ヶ月・直近5年に3回以上の自己都合離職で3ヶ月)と受給できる日数の上限
- 判定はハローワークが行うため、会社の言い分だけでなく、こちらの記録(メモ・メール・診断書・相談窓口とのやり取り)を先に集めておくことが結果を左右する
- 1記録を集める
- 2会社の相談窓口に申告する
- 3退職を伝える
- 4離職票の記載を確認する
- 5ハローワークで判定を受ける
この記事の内容
この記事は、上司や同僚からのハラスメントが理由で会社を辞めようとしている人に向けて書いています。 結論から言うと、ハラスメントが原因の離職は、条件を満たせば「自己都合」ではなく「会社都合(特定受給資格者)」として扱われます(雇用保険法23条2項)。ただしそれは自動で決まるものではなく、ハローワークが記録を見て判定するものです。この記事では、会社都合として認められるための条件と、そのために今日から集めておくべき資料を整理します。
- ハラスメントで辞めたいが、「自己都合」にされると失業保険で不利になるのではと不安
- 会社都合になる条件がよく分からず、何を準備すればいいか分からない
- 会社に相談しても対応してもらえず、証拠をどう残せばいいか困っている
結論:条件を満たせば「会社都合(特定受給資格者)」になる
| 論点 | 結論 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| ハラスメントで辞めたら自動的に会社都合になるか | ならない。条件を満たしていることをハローワークに認めてもらう必要がある | 判定は離職票の記載内容と本人からの申立てをもとにハローワークが行う |
| 会社都合(特定受給資格者)になる条件は何か | 大きく3つ(事実・会社の認識・会社の不対応) | 雇用保険法23条2項、同法施行規則第36条8号(ハラスメントによる離職の要件。2026年9月に法令原文で確認) |
| 何を準備すればいいか | 日時・内容のメモ、メールやチャットの記録、相談窓口とのやり取り、診断書など | ハローワークは「会社の言い分」と「本人の記録」を比較して判定するため |
| 会社が「自己都合」で離職票を出してきたらどうなるか | 記載内容に異議を申し立てることができる | ハローワークへの申立て・審査請求の制度があるため |
「ハラスメントを受けた」という事実だけでは、会社都合と認められるとは限りません。会社がその事実を把握していたのに、必要な対応をしなかったことまで示せるかどうかが分かれ目になります。だからこそ、辞める前の「記録」が結果を左右します。
自己都合と会社都合、失業保険で何が変わるのか
自己都合退職と会社都合退職(特定受給資格者)では、失業保険(基本手当)の受け取り方が変わります。
| 項目 | 自己都合退職 | 会社都合退職(特定受給資格者) |
|---|---|---|
| 待期期間 | 7日間 | 7日間 |
| 給付制限期間 | 原則1ヶ月(2025年4月1日施行の制度改正後。直近5年間に3回以上自己都合離職している場合は3ヶ月) | なし |
| 所定給付日数の目安 | 勤続年数に応じて90日〜150日 | 年齢・勤続年数に応じて90日〜330日(45歳以上60歳未満・勤続20年以上で最大) |
| いつから受け取れるか | 待期7日+給付制限期間を過ぎてから | 待期7日を過ぎればすぐに(給付制限なし) |
具体的な日数は年齢・勤続年数によって細かく分かれています。自分の場合の正確な日数は、離職票を持って管轄のハローワークで確認してください。
一番の差は「給付制限期間があるかどうか」です。自己都合だと、辞めてから実際にお金を受け取れるまでの期間が会社都合より長くなります。生活資金の見通しに直結する部分なので、ここは正確に理解しておく価値があります。
会社都合と認められるための3つの条件
ハラスメントによる離職が特定受給資格者(会社都合)として扱われる根拠は、雇用保険法施行規則第36条8号です。同号は「事業主又は当該事業主に雇用される労働者から就業環境が著しく害されるような言動を受けたことによって離職した者」を、会社都合として扱う理由の一つに定めています(施行規則の条文原文で確認)。
厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」リーフレット(2025年7月版)は、この号の判断基準として、パワーハラスメントとセクシュアルハラスメントを分けて次のように説明しています(リーフレット原文で確認)。
- パワーハラスメントの型:「上司、同僚等の故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを繰り返し受けたことにより離職した場合が該当します」
- セクシュアルハラスメントの型:「事業主が男女雇用機会均等法第11条に規定する職場におけるセクシュアル・ハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかった場合に離職した場合が該当します」
これらを分解すると、会社都合と認められるための条件は、次の3つに整理できます。
- ハラスメントの事実があったこと(いつ・どこで・誰から・どんな言動を受けたか)
- 会社(事業主)がその事実を把握していた、または把握できる状況だったこと(相談窓口への申告、上司への報告など)
- 会社が雇用管理上必要な対応をしなかった、または対応が不十分で、それによって就業を続けることが困難になったこと
3つの条件のうち、2番目と3番目が抜け落ちやすいです。「ハラスメントを受けた」という事実だけを訴えても、「会社は知らなかった」「相談されたので対応した」と会社側が主張すると、ハローワークはどちらの言い分に沿うかを記録で判断します。だからこそ、辞める前に会社へ相談・申告した記録を残しておくことが重要です。
今日から集めておく資料【チェックリスト】
退職を決めている・決めかねている、どちらの段階でも、今日から始められます。
- □ ハラスメントを受けた日時・場所・相手・言動の内容を、その都度メモしておく(記憶があいまいになる前に、スマホのメモでも構いません)
- □ メール・チャット・LINEなどの文面をスクリーンショットで保存する(相手の端末に依存するデータは、削除・機種変更で消えることがあります)
- □ 録音データがあれば保存する(会話の録音自体は、自分が参加している会話であれば違法ではないとされていますが、就業規則で社内ルールが定められている場合もあるため、あわせて確認してください)
- □ 会社の相談窓口(人事・コンプライアンス窓口など)へ相談した記録(相談した日時、相手の名前、伝えた内容、相手の返答)
- □ 会社からの対応・回答の記録(対応してもらえなかった場合は、「何も対応がなかった」という事実自体も、いつまで待ったかとあわせて記録する)
- □ 心身の不調がある場合の診断書(心療内科・内科などでの受診記録。無理に受診を急ぐ必要はありませんが、通院している場合は診断書を取得しておく)
- □ 同僚など第三者の証言(可能であれば。本人に負担をかけない範囲で)
- □ 労働基準監督署や都道府県労働局(総合労働相談コーナー)へ相談した場合は、その相談日・内容の記録
資料は「量」より「日付が入っていること」が重要です。後からまとめて書いた記録よりも、その都度残したメモの方が、ハローワークでの説明力が高くなります。
会社の相談窓口に申告するときの文例
会社に相談窓口があるなら、退職を決める前に、まず申告した記録を残しておくことが会社都合の判定につながります。以下はメールで申告する場合の文例です。件名から本文まで、状況に合わせて書き換えて使ってください。
件名: ハラスメントに関するご相談(〇〇部 〇〇)
〇〇部 〇〇様
お世話になっております。〇〇部の〇〇です。
〇月〇日(〇)〇〇時頃、〇〇(場所)にて、〇〇さんから
「(実際に言われた・された内容をそのまま書く)」
という言動を受けました。同様の言動は〇月〇日、〇月〇日にも
ありました。
現在、業務を続けるうえで大きな支障が出ており、
ご相談させていただきたくご連絡いたしました。
つきましては、下記についてご対応いただけますでしょうか。
・事実確認
・再発防止に向けた対応
・本件に関する経過のご連絡
お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。
〇〇部 〇〇
送った記録(送信日時・宛先)自体が、「会社がハラスメントの事実を把握していた」ことを示す資料になります。返信がない場合も、いつまで待ったかを含めてメモしておいてください。
文例はあくまで型です。実際に言われた・された内容は、要約せずそのまま書くことをおすすめします。「嫌なことを言われた」ではなく「〇〇と言われた」と具体的に書くほど、後で振り返ったときの説明力が上がります。
ハローワークで「自己都合」と言われたときの対処
会社が離職票に「自己都合」として記載してきた場合や、ハローワークの窓口で会社都合と認められなかった場合でも、それで終わりではありません。
- 離職票の「離職理由」欄の記載に納得できない場合、その場でハローワークの担当者に異議がある旨を伝えることができます
- 会社が作成した「離職証明書」の内容に事実と異なる点があれば、本人の記録(メール・メモ・診断書など)を提示して申立てることができます
- 判定に不服がある場合、都道府県労働局の雇用保険審査官に対して審査請求ができます。期限は「処分を受けたことを知った日の翌日から3か月以内」です(厚生労働省「雇用保険の審査請求制度のご案内」で2026年9月確認)。審査請求が棄却された場合や、3か月を経過しても決定が出ない場合は、労働保険審査会への再審査請求(決定書到達の翌日から2か月以内)、または地方裁判所への取消訴訟という選択肢もあります。
離職票への記載が事実と異なる場合、それを黙って受け入れる必要はありません。ただし、この場のやり取りは記録と主張のぶつかり合いになるため、今日から集めておく資料が手元にあるかどうかで、話の進み方が大きく変わります。
「会社が自己都合と書いてきたから、もうそれで確定」ではありません。ハローワークに自分の記録を見せて、判定を求める余地が残っています。ただし、この記事の内容は一般的な整理であり、個別の判定結果を保証するものではないため、実際の状況は管轄のハローワークに確認してください。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を退職しており、これは会社都合退職として扱われていますが、退職理由はハラスメントではありません。そのため、この記事で書いた「ハラスメントを受けて、会社に申告し、会社都合として認められるまで」というプロセスそのものは経験していません。
一方で、離職票を受け取ってからハローワークで手続きをした過程については、実際に自分が体験したことです。離職票が届くまで一定の期間がかかり、その間は「次にどう動けばいいのか」がはっきりしないまま待つ感覚があったことは、実感として書けます。ハラスメントを理由に離職を検討している方にとっても、離職票を受け取ったあとの流れ自体は共通する部分があると思い、その範囲でのみ触れています。
ハラスメントを受けた経験そのものについては、体験談として書くべき事実を持っていないため、この記事では触れていません。
次にやること
まず、今日から「日時・内容のメモ」を取り始めてください。 退職するかどうかをまだ決めていなくても、記録は早いほど価値を持ちます。次に、会社に相談窓口があるなら、退職を伝える前に一度申告し、その記録(送った内容・返信の有無)を残してください。会社への申告や退職の意思表示そのものが難しい状況であれば、第三者に間に入ってもらう選択肢もあります。
※本記事は2026年9月時点の一般的な情報整理と、筆者個人の体験に基づくものです。個別の状況によって会社都合と認められるかどうかの判定は異なります。判断に迷う場合は、管轄のハローワーク・都道府県労働局(総合労働相談コーナー)・弁護士にご確認ください。心身の不調がある場合は、医師・産業医にご相談ください。
出典 - 雇用保険法第23条2項、同法施行規則第36条8号(ハラスメントによる離職を特定受給資格者と認める要件。条文原文で2026年9月確認) - 雇用保険法第21条(待期期間7日)、第33条(給付制限。1ヶ月以上3ヶ月以内の範囲で公共職業安定所長が定めると規定。条文原文で2026年9月確認) - 給付制限「原則1ヶ月、直近5年に3回以上の自己都合離職で3ヶ月」は、2025年4月1日施行の通達改正による運用(厚生労働省 職業安定分科会雇用保険部会資料「令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について」で2026年9月確認) - 厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」リーフレット(2025年7月版、原文で2026年9月確認) - 雇用保険法第69条(審査請求・再審査請求)、厚生労働省「雇用保険の審査請求制度のご案内」(審査請求期間3か月・再審査請求期間2か月。原文で2026年9月確認) - 人事院・東京都保健医療局の公的資料(所定給付日数の一部区分について確認。2026年9月確認)。90日〜330日の範囲は厚生労働省の上記雇用保険制度改正資料の参考表でも確認