退職勧奨の断り方
- 1勧奨を受ける
- 2内容を記録する
- 3応じるか判断する
- 4回答を決める
- 5条件を交渉する
この記事の内容
上司や人事から「そろそろ次を考えてもらえないか」「今の部署に君の席はもう無い」と言われた。それが退職勧奨だ。応じる義務は無い。この記事は、断ってよい理由と、実際に断るときの言い方、応じるか迷ったときの判断材料を答える。
退職勧奨とは何か。解雇や退職強要とどう違うか
退職勧奨とは、会社が従業員に「自分から辞めてほしい」と持ちかけ、合意による退職を求める行為を指す。ここが一番の要点で、退職勧奨は「お願い」であって「命令」ではない。応じるかどうかは従業員が決めてよい。
一方、会社が一方的に雇用契約を終わらせるのが「解雇」で、こちらは労働契約法16条により「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることが必要になる(要件を欠く解雇は無効)。退職勧奨は解雇と違い、従業員の同意が要る点が根本的に違う。
勧奨の回数や態様が行き過ぎ、従業員の自由な意思決定を妨げるほどになると「退職強要」として違法(不法行為)になりうる。この線引きを示した裁判例として下関商業高校事件(最高裁判所第一小法廷 昭和55年7月10日判決、労働判例345号20頁)がある。学校側が退職しない限り勧奨を続けると繰り返し述べ、短期間に多数回・長時間にわたり退職を迫ったことを違法と判断した事件で、判決文の原文は確認できていないが、事件名・判決年月日・「違法」という結論の向きは複数の弁護士・社会保険労務士の解説で一致している(2026年9月確認)。
| 退職勧奨 | 解雇 | 退職強要 | |
|---|---|---|---|
| 法的性質 | 合意を求めるお願い | 会社からの一方的な契約終了 | 違法な圧力(不法行為) |
| 従業員の同意 | 必要(拒否できる) | 不要(一方的) | 形式上は同意でも実質は強制 |
| 拒否した場合 | 雇用は継続する | 争うには裁判・労働審判が必要 | 拒否しても圧力が続くことがある |
| 根拠 | 民法上の契約自由 | 労働契約法16条 | 民法709条(不法行為) |
なぜ会社は退職勧奨をしてくるのか
理由が分からないまま話をされると、余計に不安になる。多くの場合、退職勧奨の背景にあるのは次のどれかだ。
- 会社の業績悪化・組織再編で、特定のポストや部署ごと無くなる
- 人員整理のコストとして、解雇より合意退職の方が会社側の法的リスクが低い
- 個人の評価・適性のミスマッチ(本人の能力不足というより、配置の問題であることも多い)
どの理由であっても、「あなたに価値が無い」と決めつけられたわけではない。会社側の都合で持ちかけられている話だという前提を持っておくと、その場で自分を責めずに聞くことができる。
退職勧奨に応じる義務はあるか
無い。何度打診されても、返事は「検討します」でも「お断りします」でもよい。退職勧奨に応じなかったことを理由に懲戒処分や不利益な配置転換をすることは、それ自体が別の違法行為になりうる。
突然そう言われると、その場で頭が真っ白になる人は多い。責められている、値踏みされている、と感じるのも自然な反応だ。ただ制度としては「同意が要る話」なので、感情が追いつかないうちに返事をする必要はない。
ただし、拒否し続けたことで職場に居づらくなる、業務から外されるといった現実的な不利益が起きるケースはある。法律上の正しさと、実際に働き続けられる環境かどうかは別問題として、両方を見て判断する必要がある。
退職強要チェックリスト|どこからが違法になるか
次のいずれかに当てはまる場合、単なる勧奨の範囲を超えている可能性がある。
- □ 一度断ったのに、同じ内容で何度も呼び出されている
- □ 「辞めないなら解雇する」「懲戒処分にする」と告げられた
- □ 長時間・多人数で退職を迫られた
- □ 拒否した後に、仕事を取り上げられた・机を移された・部署に居場所が無くされた
- □ 「辞めるまで話は終わらない」と、退勤を妨げられた
複数当てはまる場合は、会社の窓口以外に相談先を持つ段階に来ている。都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」は利用無料で、専門の相談員が面談・電話で対応し、労働者からの相談を受けたうえで、会社への助言・指導や、あっせん(話し合いの仲介)の案内を受けられる窓口になっている(厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」で確認。2026年9月確認)。
応じるか迷ったときの判断材料
退職勧奨そのものの適法・違法とは別に、「自分がどうしたいか」を決める材料は次の3つ。
- 今の職場に残って働き続けたいか(人間関係・業務内容・キャリアの観点で)
- 勧奨の理由に納得できるか(業績不振・組織再編なのか、個人への評価なのか)
- 応じた場合の条件が、自分から辞める場合より有利か(後述)
この3つを紙に書き出すだけでも、頭の中だけで堂々巡りしている状態からは抜け出しやすくなる。急いで即答する必要は無い。「持ち帰って検討します」「回答までお時間をください」は普通の対応であり、その場で判断を迫られる話ではない。
断るときの文例
口頭で断るのが気まずい場合、書面やメールで意思を残しておくと、後で「言った・言わない」にならずに済む。
件名:ご提案の件について
〇〇部長
先日ご提案いただいた退職の件、検討いたしましたが、
現時点では継続して勤務させていただきたく存じます。
業務上の課題があるのであれば、改善に取り組みますので
具体的にご指摘いただけますと幸いです。
〇〇(氏名)
このメールの目的は2つある。断る意思をはっきり残すことと、「改善の機会は求めた」という記録を残すことだ。もし後で不利益な扱いを受けた場合、この記録が相談先での説明材料になる。
口頭で直接伝える場合は、一文ずつ短く区切って話すと感情的にならずに済む。「ご提案はありがたいのですが、今回は辞退します」「理由があれば伺いたいです」「今後も改善しながら続けたいと思っています」。長く説明しようとすると、引き止められた反動で言い訳のようになりやすい。
応じる場合は「退職理由」の扱いを確認する
退職勧奨に応じて退職する場合、会社都合退職(会社側の事情による離職)として扱われるのが一般的で、自己都合退職に比べて雇用保険の基本手当が早く出やすく、給付日数も手厚くなる場合がある。雇用保険法第33条により、自己都合退職者には1〜3ヶ月の給付制限があるが、会社都合退職はこの給付制限の対象外になる。また同法第22条により、会社都合退職者などの「特定受給資格者」は所定給付日数が優遇される区分がある(確認: 雇用保険法第33条・第22条)。ただし具体的な給付制限の有無・所定給付日数は年齢・勤続期間・離職理由の区分によって変わるため、最終的にはハローワークでの個別確認が必要になる。
離職票に書かれる「離職理由」が実態と違う(勧奨だったのに自己都合にされている等)場合は、ハローワークで異議を申し立てることができる。退職に合意する前に、次の2点を確認しておく。
- □ 離職理由は「会社都合」で処理されるか、書面で確認したか
- □ 退職日・退職金・有給消化の扱いに合意しているか
それでも会社が引かない、直接のやり取りをこれ以上続けたくないとき
拒否しても勧奨が止まらない、話し合いの場に出るだけで消耗する、という段階まで来たら、間に人を挟む選択肢もある。弁護士であれば、会社との条件交渉や退職理由の是正まで代理できる。退職代行サービスの中には、本人に代わって会社への意思表示だけを行うものもあるが、退職条件の交渉ができるのは弁護士と、団体交渉権を持つ労働組合(合同労組・ユニオン系のサービス)に限られる。弁護士でも労働組合でもない業者が交渉まで行うと、弁護士法72条が禁じる非弁行為(弁護士でない者が報酬を得て他人の法律事件を交渉すること)に当たるおそれがある点に注意する(確認: 弁護士法第72条)。
話し合いが繰り返されることで眠れない、食欲が落ちる、出社しようとすると体調を崩すといった状態が出ている場合は、まず医師や産業医に相談してほしい。判断力は体調に大きく左右される。無理に自分だけで抱え込む必要は無い。
- 弁護士法人ガイア(弁護士による代行。条件交渉が必要な場合はこちら)
※いずれも2026年8月時点の調査。料金・対応範囲は各社サイトで要確認。
次にやること
まずは今日、会社から言われた内容と日時をメモに残す。誰に・いつ・何と言われたか、書面はあったか。これが無いと、後で「言った・言わない」になったときに何も残らない。
出典(2026年9月8日調査)
- 労働契約法第16条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128#Mp-Ch_3-At_16(解雇に「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることが必要と定める条文を確認)
- 弁護士法第72条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205(弁護士・弁護士法人でない者が報酬を得て他人の法律事件に関する法律事務を取り扱うことを禁じる条文を確認)
- 雇用保険法第33条・第22条(厚生労働省 法令等データベース) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75161000&dataType=0&pageNo=1(自己都合退職の給付制限が「一箇月以上三箇月以内」であること、所定給付日数を受給資格者の区分ごとに定める条文を確認)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html(利用無料・予約不要・面談または電話で対応することを確認。あっせんは同コーナーへの直接申込ではなく「案内を受けられる」窓口だったため、本文の表現を修正)
- 下関商業高校事件 最高裁判所第一小法廷 昭和55年7月10日判決(労働政策研究・研修機構「雇用関係紛争判例集」) https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/10/82.html(事件名・判決年月日・退職勧奨を違法と判断した結論の向きを確認。判決文原文は同ページでも確認できず、本文の記載どおり)