退職金は一時金と年金どちらで受け取るべきか
この記事の内容
退職金を「一時金(まとめて)」か「年金(分割)」のどちらで受け取るか迷っている人向けの記事です。
結論から言うと、税金だけを見るなら、一時金のほうが軽くなることが多いです。 ただし全員がそうではなく、会社の制度によっては選べないこともあります。
ここでは、税金の仕組みの違い、金額を入れた計算例、税金以外の差、決める前のチェックリストを順に書きます。
先に知っておくこと:そもそも選べる会社は限られる
一時金か年金かを選べるのは、会社にその制度がある場合だけです。
調査した範囲では、次のような形で分かれます。
| 退職金の仕組み | 受け取り方 |
|---|---|
| 退職一時金(会社が退職時にまとめて払う) | 一時金のみのことが多い |
| 確定給付企業年金(DB)・企業型確定拠出年金(DC) | 一時金・年金・併用から選べる制度がある |
| 会社独自の退職年金(社内規程で分割払い) | 会社の規程による |
| iDeCo(個人型確定拠出年金) | 一時金・年金・併用から選べる |
つまり、「選べるかどうか」は退職金規程を見るまで分かりません。まず自分の会社がどのタイプかを確かめるのが最初の一歩です。
税金の種類が違う:一時金は「退職所得」、年金は「雑所得」
同じ1,500万円でも、受け取り方で税金の区分が変わります。
| 一時金 | 年金 | |
|---|---|---|
| 税金の区分 | 退職所得 | 雑所得(公的年金等に当たる場合) |
| 使える控除 | 退職所得控除(勤続年数で決まる) | 公的年金等控除 |
| 課税の方法 | 他の所得と分けて計算(分離課税) | 他の所得と合算(総合課税) |
| 計算のしかた | (収入−控除)×2分の1 | 収入−公的年金等控除 |
| 手続き | 「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ出す | 年金を受け取る年ごとに源泉徴収され、必要なら確定申告 |
(区分は所得税法30条・35条、国税庁「退職金を受け取ったとき」「公的年金等の課税関係」の整理による)
(一時金の「2分の1」は、役員等以外の勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金のうち、300万円を超える部分には適用されません。2022年(令和4年)1月1日以後に支払われる退職金から適用されている改正です。所得税法30条・所得税法施行令69条・69条の2、国税庁「No.2740 勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)」による・2026年9月確認)
ここで押さえたいのは2点です。
- 一時金は、控除が大きく、さらに残りを2分の1にしてから税率をかける。優遇が手厚い
- 年金は、毎年の収入として他の所得と合算される。受け取る年に他の収入があると、税率が上がることがある
一時金の計算例:勤続20年・退職金1,500万円の場合
読者の状況を1つ仮置きして、最後の金額まで出します。
前提
- 勤続20年、退職金1,500万円
- 役員ではない、他に退職金の受け取りはない
- 「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出済み
| 手順 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 退職所得控除 | 40万円×20年(所得税法30条) | 800万円 |
| ② 課税退職所得 | (1,500万円−800万円)×1/2 | 350万円 |
| ③ 所得税 | 350万円×20%−42.75万円(速算表・所得税法89条) | 27.25万円 |
| ④ 復興特別所得税 | 27.25万円×2.1% | 約0.57万円 |
| ⑤ 住民税 | 350万円×10% | 35万円 |
| 税金の合計 | ③+④+⑤ | 約62.8万円 |
| 手取り | 1,500万円−62.8万円 | 約1,437万円 |
税金は退職金の約4.2%です。控除が大きいので、退職金の額に比べて税金がかなり小さくなります。
(所得税の税率・控除額は所得税法89条の速算表、住民税10%は地方税法35条(道府県民税4%)・314条の3(市町村民税6%)による。国税庁「No.2260 所得税の税率」・2026年9月確認)
年金の計算例:同じ1,500万円を10年で受け取る場合
同じ1,500万円を、10年かけて年150万円ずつ受け取る場合を考えます。
前提
- 年150万円を10年間受け取る
- 65歳未満、他に公的年金は受け取っていない
- 公的年金等に当たる年金として計算する
| 手順 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 年の収入 | 1,500万円÷10年 | 150万円 |
| ② 公的年金等控除 | 150万円×25%+27.5万円 | 65万円 |
| ③ 雑所得 | 150万円−65万円 | 85万円(毎年) |
(②の式は、65歳未満・公的年金等の収入合計額が130万円以上410万円未満・年金以外の所得が1,000万円以下の場合の速算式です。国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」による・2026年9月確認)
ここから先の税額は、基礎控除や社会保険料控除などその人の他の控除と他の収入で変わるので、この記事では雑所得の85万円までで止めます。
一時金と並べると、こうなります。
| 一時金 | 年金(10年) | |
|---|---|---|
| 課税の土台 | 350万円(1回) | 85万円(毎年)、合計850万円 |
| 税率のかかり方 | 1回で20%の段に入る | 他に収入がなければ低い段に収まる年もある |
年金は「土台」の合計が大きく見えます。でも毎年の基礎控除などを引いたあとの税額は、他に収入がなければとても小さくなることもあります。だから「年金は損」と決めつけることはできません。 個別の税額は、税理士か税務署に確認するのが確実です。
年金が「公的年金等」に当たらないことがある
ここは見落としやすい落とし穴です。
年金の税金は、その年金が「公的年金等」に当たるかどうかで変わります。
- 確定給付企業年金・企業型DCなど、法律に基づく制度の年金 → 公的年金等として扱われることが多い
- 会社が規程だけで独自に分割払いしている社内年金 → 法律に基づく制度ではないため公的年金等に当たらず、公的年金等控除が使えない場合がある(所得税法施行令82条の2は、公的年金等に当たる年金を確定給付企業年金・企業型DC・適格退職年金契約に基づく年金など、法律に基づく制度に限定しています。2026年9月確認)
後者だと、控除が使えず、年金額がほぼそのまま雑所得になる可能性があります。会社の年金がどちらのタイプかを、受け取る前に人事に確認してください。
税金以外に差が出る3つのこと
税金だけで決めないほうがいい理由が、3つあります。
1. 社会保険料への影響
- 一時金(退職所得)は、国民健康保険料の算定に入らない
- 年金(雑所得)は、他の所得と合算されて保険料の算定に入る
(地方税法703条の4第6項による。国民健康保険料〔税〕の所得割は総所得金額を基準に算定し、退職所得金額は含まないという扱いは全国共通です。2026年9月確認)
そのため、年金で受け取ると、国民健康保険料や介護保険料が上がる可能性があります。ただし保険料率や上限額は自治体ごとに違うため、【各自確認:お住まいの市区町村の国民健康保険料率・上限額。市区町村の国保年金課の窓口かホームページで確認】。
2. 会社の状況が変わるリスク
年金で受け取る場合、10年先まで会社が払い続ける前提になります。
- 会社の経営が悪化したとき、給付が減る・止まる可能性がある制度もある
- 制度の種類によって保全のされ方が違う
一時金は、受け取った時点で自分の手元に来るので、この不安はありません。
3. お金の使い道と、使ってしまうリスク
まとまったお金は、住宅ローンの返済や当面の生活費に使いやすい反面、気づくと減っていることもあります。年金は、毎月決まった額が入るので、使いすぎを防ぎやすい面があります。
税金の差だけで決めず、「その後の暮らしにどちらが合うか」も同じ重さで考えて大丈夫です。
一時金が向く人・年金が向く人
| 一時金が向きやすい | 年金が向きやすい |
|---|---|
| 退職金の額が大きく、控除でほぼ収まる | 退職金の額が小さく、毎月の収入を補いたい |
| 会社の経営に不安がある | 会社の経営が安定している |
| 住宅ローンなど、まとまった支払いがある | まとまったお金を管理する自信がない |
| 国民健康保険料を抑えたい | 他に収入が少なく、税金がほぼかからない |
これは一般的な傾向です。あなたの場合にどちらが合うかは、退職金の額・年齢・他の収入で変わります。
併用という選択もある
企業型DCやiDeCoなどでは、一時金と年金を組み合わせられる制度があります。
例えば、「住宅ローン分だけ一時金で受け取り、残りは年金にする」という形です。
ただし、他の退職金と受け取る時期が近いと、退職所得控除が調整される(控除が小さくなる)ことがあります。2026年(令和8年)1月1日以後に支払われる退職金・企業型DC/iDeCoの一時金からは、先にDC一時金を受け取っていた場合の調整対象期間が「前年以前4年以内」から「前年以前9年以内」に広がりました(令和7年度税制改正)。反対に退職金を先に受け取った場合は、従来どおり「前年以前19年以内」に受け取ったDC一時金があると調整されます。年数の数え方は受給時期の組み合わせで変わるため、【各自確認:ご自身の退職金とDC/iDeCoの受給時期の間隔が調整対象に当たるか。会社の人事・iDeCoの運営管理機関・税理士へ】。
決められなくて当然です
辞める前後は、手続きも気持ちも慌ただしい時期です。その最中に「一生に何度もない大きな選択」を求められれば、迷うのが普通です。
- 「どちらが正解か分からない」のは、あなたの勉強不足ではありません。制度が複雑なだけです
- 会社から「いつまでに決めてください」と言われて焦ることもあるでしょう。焦ってその場で決めなくても、確認する時間を頼んで大丈夫です
- 税金は、あとから「取り戻せる」場合と「取り戻せない」場合があります。まず確認してから決めるのが、結局いちばん安全です
決める前のチェックリスト
□ 自分の会社の退職金が「一時金のみ」か「年金も選べる」かを、規程か人事で確かめた □ 選べる場合、選択の締切日を確かめた □ 年金の場合、その年金が「公的年金等」に当たるかを確かめた □ 年金の支払期間と、その間の会社の給付保全の仕組みを確かめた □ 今後の他の収入(再就職・パート・公的年金の受け取り時期)を書き出した □ 国民健康保険料への影響を、市区町村の窓口で確かめた □ 一時金を選ぶ場合、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払い前に会社へ出す予定にした □ 迷うなら、税理士か税務署の相談窓口に、退職金の額と年齢を伝えて聞く予定にした
会社に問い合わせるときの文例
そのままコピーして使えます。
件名:退職金の受け取り方法について(○○部 氏名)
人事部 ご担当者様
お疲れさまです。○○部の(氏名)です。
退職金の受け取り方法について、次の点を教えてください。
1. 退職金は、一時金と年金のどちらも選べますか。
2. 選べる場合、選択の締切はいつですか。
3. 年金を選んだ場合、支払い期間と、法律に基づく制度か社内規程かを教えてください。
4. 一時金と年金の併用は可能ですか。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認をお願いします。
(氏名)
退職金は一時金と年金、どちらで受け取ると税金は安くなりますか
税金だけを見るなら、一時金のほうが軽くなることが多いです。 一時金は退職所得として分離課税になり、控除額を引いた残りをさらに2分の1にしてから税率をかけるため、優遇が手厚くなります。年金は雑所得として他の所得と合算されるため、受け取る年に他の収入があると税率が上がることがあります。ただし全員が一時金が得とは限らず、会社の制度によっては選べないこともあります。
会社の退職年金が「公的年金等」に当たらないことがあるのはなぜですか
会社が法律に基づく制度ではなく、社内規程だけで独自に分割払いしている年金は、公的年金等に当たらない場合があるからです。 確定給付企業年金や企業型DCなど、法律に基づく制度の年金は公的年金等として扱われることが多い一方、社内規程だけの年金は公的年金等控除が使えず、年金額がほぼそのまま雑所得になる可能性があります。自分の会社の年金がどちらのタイプかは、受け取る前に人事に確認してください。
退職金を年金で受け取ると、国民健康保険料は上がりますか
上がる可能性があります。 一時金(退職所得)は国民健康保険料の算定に入りませんが、年金(雑所得)は他の所得と合算されて保険料の算定に入るためです。ただし保険料率や上限額は自治体ごとに違うため、実際の影響はお住まいの市区町村の窓口で確認する必要があります。
退職金の一時金と年金は、併用して受け取ることはできますか
できます。 企業型DCやiDeCoなどでは、一時金と年金を組み合わせられる制度があります。例えば住宅ローン分だけ一時金で受け取り、残りは年金にするという形です。ただし他の退職金と受け取る時期が近いと退職所得控除が調整されて小さくなることがあるため、受給時期の間隔を事前に確認しておく必要があります。
勤続年数が5年以下でも退職金の「2分の1課税」は使えますか
使えない場合があります。 役員等以外で勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金のうち、300万円を超える部分には2分の1の軽減が適用されません。2022年(令和4年)1月1日以後に支払われる退職金から適用されている改正です。
次にやること
会社の退職金規程を開くか、上の文例で人事に「一時金と年金の両方を選べるか、選択の締切はいつか」を聞いてください。 選べないと分かれば、迷う必要はなくなります。選べると分かれば、締切までに、上のチェックリストで1つずつ確かめれば足ります。
個別の税額は、税理士か税務署でご確認ください。この記事は一般的な仕組みの説明で、あなたの税額を確定するものではありません。
出典(2026年9月23日調査)
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(退職所得控除額の計算式「40万円×勤続年数(20年以下)」「800万円+70万円×(勤続年数−20年)(20年超)」を確認。本文の数値と一致)
- 国税庁 No.2740 勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)(役員等以外で勤続5年以下・300万円超の部分は2分の1が適用されないこと、令和4年1月1日以後の支払分から適用されることを確認。本文の記載と一致)
- 国税庁 No.2260 所得税の税率(330万円超695万円以下の区分は税率20%・控除額42万7,500円であることを確認。本文の数値と一致)
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係/国税庁「高齢者や障害者と税」(65歳未満・収入130万円以上410万円未満の速算式「収入金額×0.75−27万5千円」を確認。本文の「収入×25%+27.5万円」の控除額と数値が一致することを検算済み。また65歳以上は最低保障額が大きいことも確認)
- 総務省 個人住民税(個人住民税所得割の標準税率は合計10%(道府県民税4%・市町村民税6%)であることを確認。本文の数値と一致)