専門実践教育訓練給付金と失業保険は併用できるか
- 専門実践教育訓練給付金は、受講費用の50%(年間上限40万円)を基本に、資格取得+就職で20%、さらに賃金が5%以上上昇すれば10%が上乗せされ、最大80%まで戻る仕組み(2024年10月1日施行の改正による)
- ただし対象は厚生労働大臣が指定した講座に限られ、被保険者期間(原則3年・初回2年)などの受給資格を満たす必要がある
- 80%は「満額もらえたら」の上限であり、実際に満額に届く人は資格取得+就職+賃金上昇の3条件をすべて満たした人に限られる
- 1対象講座を選ぶ
- 2受給資格を照会
- 3受講開始・給付申請
- 4修了・資格取得
- 5就職で追加給付
この記事の内容
この記事は、退職前後や在職中に「資格を取ってキャリアを変えたい」と考えている人に向けて書いています。 専門実践教育訓練給付金を使うと、受講費用の最大80%がハローワークから戻ってきます。この給付金は失業保険(基本手当)とは別の制度なので、失業保険を受け取っているかどうかに関係なく、受給資格の条件を満たせば利用できます。ただしこの「80%」は条件を全部満たした場合の上限で、対象者にも対象講座にも縛りがあります。この記事では、その仕組みと、満額もらえる人が実際には限られている理由を整理します。
- 「最大80%戻る」という言葉だけが先に耳に入り、自分が対象になるのか分からない
- 対象の講座が決まっていることを知らず、興味のある講座で使えると思い込んでいる
- 退職を考えているが、在職中と離職後で受給できる条件が違うのか分からない
結論: 80%は上限であって平均ではない
専門実践教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定した講座を受講・修了した場合に、教育訓練施設に支払った費用の一部がハローワークから戻る制度です。基本の給付率は受講費用の50%で、これに資格取得+就職で20%、さらに賃金上昇で10%が上乗せされ、最大80%まで積み上がります(雇用保険法施行規則第百一条の二の七で確認。給付率の上限を70%から80%へ引き上げたのは「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第26号)による2024年10月1日施行の改正)。
| 論点 | 結論 |
|---|---|
| 給付率の上限 | 受講費用の80%(雇用保険法施行規則第百一条の二の七第六号) |
| 全員がその率になるか | ならない。基本は50%で、追加分は条件を満たした人だけ |
| 誰でも使えるか | 使えない。厚生労働大臣が指定した講座に限られる |
| 在職中・離職後どちらでも使えるか | どちらでも使える可能性があるが、受給資格の要件(被保険者期間など)を満たす必要がある |
「80%戻る」という言葉だけを見て動くと、対象講座でなかった・受給資格を満たしていなかった、というすれ違いが起きます。まず自分が対象かどうかを確認することが最初の一歩です。
専門実践教育訓練給付金とは何か
雇用保険の教育訓練給付制度には、対象講座のレベルに応じて3種類あります(雇用保険法施行規則第百一条の二の七で確認)。
| 種類 | 給付率 | 対象のイメージ |
|---|---|---|
| 一般教育訓練給付金 | 受講費用の20% | 資格試験対策講座など、比較的短期のもの |
| 特定一般教育訓練給付金 | 受講費用の40%(修了のみ)〜50%(資格取得+就職) | 速習型の資格講座など |
| 専門実践教育訓練給付金 | 受講費用の50%(修了)〜70%(資格取得+就職)〜80%(さらに賃金上昇) | 業務独占資格の養成課程、専門職大学院など、中長期のキャリア形成につながる講座 |
専門実践教育訓練給付金は、この3種類の中で最も給付率が高い代わりに、対象講座と受給資格のどちらも一番厳しく設定されています。「中長期的なキャリア形成を支援する」という制度の目的上、資格取得や専門職大学院の修了など、時間のかかる学び直しが対象になっています。
受給できる人の条件
受給できるかどうかは、大きく分けて「被保険者期間」と「離職からの経過期間」の2つで判定されます(雇用保険法第60条の2、雇用保険法附則第11条、雇用保険法施行規則第百一条の二の五で確認)。
| 立場 | 条件 |
|---|---|
| 在職中で、雇用保険に加入している人 | 被保険者期間が通算で原則3年以上。ただし初めて教育訓練給付を受ける場合は、当分の間「3年」が「1年」(専門実践教育訓練は「2年」)に緩和される(雇用保険法附則第11条・同法施行規則附則第24条) |
| 離職して雇用保険の被保険者でなくなった人 | 上記の被保険者期間に加えて、離職日の翌日から受講開始日までが原則1年以内であること。妊娠・出産・育児・疾病・負傷その他やむを得ない理由により30日以上教育訓練を開始できない場合は、ハローワークへの申出により最長20年まで延長できる(雇用保険法施行規則第百一条の二の五) |
この「離職日の翌日から1年以内」という条件があるため、退職してから時間を空けずに動き始めるかどうかで、受給できるかどうかが変わってくる可能性があります。退職を検討している段階で「いずれ専門実践教育訓練給付金を使うかもしれない」と思っているなら、退職後に確認するのではなく、退職前にハローワークで自分の被保険者期間を照会しておくほうが、後で慌てずに済みます。
対象講座は決まっている
専門実践教育訓練給付金は、興味のある講座なら何でも使えるわけではなく、厚生労働大臣が指定した講座に限られます(雇用保険法施行規則第百一条の二の七第四号)。指定される講座の分野は、おおよそ次のような範囲です(厚生労働省の指定講座公表資料で確認)。
- 業務独占資格・名称独占資格の取得を目標とする養成課程(看護師・介護福祉士・社会福祉士など)
- 専門職大学院の課程(法科大学院・MBAなど)
- デジタル分野など、第四次産業革命に対応したスキル習得を目的とする講座
指定される講座は固定ではなく、厚生労働省が定期的に見直し・公表しています。そのため「以前は対象だった講座が今は対象外」「今回新しく対象になった講座がある」ということが起こり得ます。受講を検討している講座が現時点で指定講座かどうかは、厚生労働省の教育訓練給付制度検索システムで、講座名や実施校から直接確認するのが確実です。
対象講座かどうかを確認しないまま申し込んでしまうと、支払った受講料は一切戻ってきません。受講の契約をする前に、必ず指定講座であることを確認してください。
給付率80%の内訳
「最大80%」がどう積み上がるかを分けると、次のようになります(雇用保険法施行規則第百一条の二の七第四号〜第六号で確認)。
| 段階 | 給付率 | 条件 |
|---|---|---|
| 基本給付 | 受講費用の50% | 講座を修了すること |
| 追加給付(1) | +20%(合計70%) | 資格等を取得し、かつ修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用されること |
| 追加給付(2) | +10%(合計80%) | 上記に加えて、修了後の賃金額が受講開始前の賃金額の105%以上であること(=5%以上上昇すること) |
80%まで届くのは、「講座を修了する」「資格を取る」「1年以内に雇用される」「賃金が5%以上上がる」の4つをすべて満たした人だけです。修了しただけの人は50%、資格を取って就職まで済ませた人は70%というのが、実際の分布に近いイメージです。
支給されるタイミングと上限額
給付金は、修了後にまとめて支払われるのではなく、受講中から一定期間(支給単位期間)ごとに分けて申請・支給される仕組みです(雇用保険法施行規則第百一条の二の十三第4項で確認)。支給単位期間は、受講開始日から6か月ごとに区分されます。訓練期間は原則2年以内で、資格取得につながる講座については3年以内(取得に必要な最短期間)まで認められます(厚生労働省「Q&A〜専門実践教育訓練給付金〜」で確認)。その間、半年ごとに受講状況を確認しながら給付を受ける形になります。
支給される金額の上限は、実際に届く給付率によって次のように変わります(雇用保険法施行規則第百一条の二の八で確認)。
| 給付率 | 1年あたりの上限 | 訓練期間全体を通じた上限 |
|---|---|---|
| 50%(修了のみ) | 40万円 | 120万円 |
| 70%(資格取得+就職) | 56万円 | 168万円 |
| 80%(さらに賃金上昇) | 64万円 | 192万円 |
「1年あたり40万円」という説明も「訓練期間全体で168万円」という説明も、それぞれ別の給付率のケースの数字であり、間違いではありません(通算上限は年間上限×3年分に相当します)。自分がどの上限に当てはまるかは、最終的にどの給付率まで届くか次第です。受講を検討している講座が決まったら、その講座の受講料をもとに、ハローワークの窓口で実際に戻ってくる金額の見込みを確認することを勧めます。
離職者向けの上乗せ: 教育訓練支援給付金
離職して専門実践教育訓練給付金の対象講座を受講する場合、条件を満たせば「教育訓練支援給付金」という別の給付を上乗せで受けられる仕組みがあります(雇用保険法附則第11条の2で確認)。これは、離職者向けの専門実践教育訓練を受けている失業状態の人に対して、雇用保険の基本手当の日額に相当する計算方法で算定した額の60%が支給されるというものです。
この教育訓練支援給付金は、期限を区切った時限措置として運用されている制度です。条文上、対象は「令和9年3月31日(2027年3月31日)以前に教育訓練を開始した人」に限られ、かつ教育訓練を開始した時点で45歳未満であることが条件です(雇用保険法附則第11条の2第1項)。2026年9月時点はこの期限内にあるため、新規の受給者も対象になります。ただし期限は法改正でさらに延長・変更される可能性があるため、受講を開始する時点で、この給付金が使えるかをハローワークで改めて確認してください。
退職前に確認しておきたいこと
- 検討している講座が、現時点で専門実践教育訓練の指定講座になっているか(厚生労働省の検索システムで講座名から確認)
- 自分の被保険者期間が、受給資格に必要な期間(原則3年。初回は一般・特定一般1年/専門実践2年)に届いているか
- 退職を予定している場合、離職日から受講開始日までを1年以内に収められるか
- 教育訓練支援給付金を使う予定なら、受講開始日が対象期限(令和9年3月31日以前)と年齢要件(開始時45歳未満)の両方を満たしているか
これらはすべて、ハローワークの窓口で照会できます。特に被保険者期間の確認は、退職前であれば在職中の記録も含めて正確に把握できるため、退職を決める前の段階で一度相談しておく価値があります。
実体験について、正直に書きます
正直に書きます。私自身は2026年6月末に前職を会社都合で退職し、離職票を待ってハローワークで失業保険の手続きをした経験はありますが、専門実践教育訓練給付金を利用した経験はありません。そのため、この記事の受給条件・給付率・支給の仕組みに関する説明は、自分の体験ではなく、複数の情報源を調査した内容の整理です。ハローワークの窓口が、事前の相談にも丁寧に応じてくれるという感触は、失業保険の手続きで実際に窓口とやり取りした際の実感としてありますが、それ以上のことは書いていません。
次にやること
まず、検討している講座名を、厚生労働省の教育訓練給付制度検索システムで検索し、指定講座かどうかを確認してください。 指定講座であれば、次にハローワークの窓口で、自分の被保険者期間が受給資格を満たしているかを照会してください。退職を予定している場合は、退職前に相談しておくと、離職後の1年以内という期限に振り回されずに動けます。退職の意思表示や有給消化の交渉自体が負担になっている場合は、退職代行という方法もあります。
※本記事は2026年9月時点で確認できた情報の整理と、筆者個人の体験に基づくものです。給付率・支給上限額・支給要件は制度改正により変わることがあるため、実際の受給にあたっては最寄りのハローワークで最新の内容をご確認ください。
出典 - 雇用保険法第60条の2、雇用保険法附則第11条・第11条の2(教育訓練給付金・教育訓練支援給付金の根拠規定。給付率・支給要件期間・時限措置の期限は条文原文で確認。2026年9月1日確認) - 雇用保険法施行規則第百一条の二の五、第百一条の二の七、第百一条の二の八、第百一条の二の十三(受給資格の延長要件・給付率の区分・支給上限額・支給単位期間の定義は条文原文で確認。2026年9月1日確認) - 「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第26号)による2024年10月1日施行の給付率引き上げ(70%→80%)。教育訓練給付金.JP「特定一般、専門実践教育訓練給付金の給付率を引き上げる改正(令和6年10月1日施行)」https://kyoikukunren.jp/a/7923 で改正の経緯を確認、法律番号は雇用保険法附則の経過措置規定内の引用で確認(2026年9月1日確認) - 厚生労働省「Q&A〜専門実践教育訓練給付金〜」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197058.html (2026年9月1日確認。訓練期間の上限=原則2年以内、資格取得につながる講座は3年以内) - 厚生労働省「専門実践教育訓練の指定講座を公表しました(令和8年10月1日付け新規指定講座は138講座、指定講座数は令和8年10月1日時点で3,485講座)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75305.html (2026年9月1日確認。指定講座は定期的に見直されるため、本文では特定の講座数を断定情報として扱っていない) - ハローワークインターネットサービス「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/senmonjissenkyouikukunrennokyuuhunogoannai.pdf (2026年9月1日、WebFetchでの取得を試みたがPDF構造の問題で本文抽出不可。本文の数字は上記の法令原文で裏取り済み)