退職金と確定拠出年金
- 1加入有無を確認
- 2移換先を決める
- 3金融機関を選ぶ
- 46ヶ月以内に移換
この記事の内容
会社を辞めたあと、退職金や企業型の確定拠出年金(企業型DC)をそのままにしている人向けの記事です。結論を先に言うと、企業型DCに加入していた人は、退職後6ヶ月以内に「移換」の手続きをしないと、自分の資産が自動的に「自動移換」という状態に置かれ、運用もされないまま手数料だけ引かれ続けます(確定拠出年金法第83条)。
放っておくほど不利になる、期限つきの手続きです。離職票や失業保険の陰に隠れて、いちばん後回しにされます。
結論:まず何をするか
| 状況 | やること | 期限 |
|---|---|---|
| 企業型DCに加入していた・転職先に企業型DCがない | iDeCo(個人型確定拠出年金)へ移換する手続き | 退職から6ヶ月以内(確定拠出年金法第83条) |
| 企業型DCに加入していた・転職先にも企業型DCがある | 転職先の企業型DCへ資産を移換する手続き | 同上 |
| 退職金を一時金でもらった | 退職所得控除を踏まえて税額を確認する(会社が源泉徴収するため通常は確定申告不要) | 受け取り時 |
| 何もしないまま6ヶ月を過ぎた | 資産が自動移換され、運用されない状態になる。気づいた時点でiDeCo等への再移換手続きを行う | 気づいた時点ですぐ |
会社員のときは、企業型DCの管理も退職金の計算も、すべて会社と制度運営機関が代わりにやってくれていました。辞めた瞬間、その代行が切れるという点は、年金・保険の手続きと同じです。
なぜ「6ヶ月以内」なのか
企業型確定拠出年金は、その会社に在籍している間だけ加入できる制度です。退職すると加入者ではなくなり、それまで積み立てた資産(個人ごとの口座残高)を、次の行き先に移す必要があります。
行き先は主に2つです。
- 転職先にも企業型DCがある → そちらへ移す
- 転職先に無い・そもそも転職しない → 自分で加入するiDeCoへ移す
この移換の手続きを、退職から6ヶ月以内にしなかった場合、資産は自動的に国民年金基金連合会という組織に移されます。これを「自動移換」と呼びます(確定拠出年金法第83条。実務は国民年金基金連合会から委託を受けた「特定運営管理機関」が担う)。
自動移換には、次のデメリットがあります。
- 資産が現金化された状態で置かれ、運用されない(増える可能性がゼロになる)
- 移換時・管理のたびに手数料が引かれる。2026年8月時点(2026年4月改定後)の金額は、自動移換される際に3,300円/回、毎月の管理手数料が合計98円/月(国民年金基金連合会40円+特定運営管理機関58円)、そこから他制度へ移す際にさらに550円/回(出典: 国民年金基金連合会・特定運営管理機関「自動移換にかかる手数料改定のお知らせ」)
- 自動移換されている期間は、確定拠出年金の加入者期間としてカウントされない(老齢給付金を受け取れる年齢の要件に影響し、受給開始が遅れることがある)
つまり、放置すればするほど、手数料で目減りしながら増えない状態が続きます。
良いことが一つもありません。退職の手続きの中では、優先度を上げてください。
何をすればいいか(企業型DCに加入していた場合)
1. 自分が企業型DCに加入していたか確認する
給与明細や、入社時にもらった書類(確定拠出年金の加入資格に関する通知)で確認できます。分からない場合は、退職した会社の人事・総務に「企業型DCに加入していたか」を聞けば分かります。
2. 転職先が決まっているかで分岐する
| 転職先の状況 | 移換先 |
|---|---|
| 転職先に企業型DCがある | 転職先の企業型DCへ(通常、入社時の案内に沿って手続き) |
| 転職先に企業型DCが無い、または転職先が未定 | iDeCo(個人型確定拠出年金)へ |
| 公務員・専業主婦(夫)になる等 | iDeCoへ(加入条件・掛金上限が変わる。2026年8月時点の月額上限は公務員12,000円、専業主婦(夫)〈国民年金第3号被保険者〉23,000円。出典: iDeCo公式サイト〈国民年金基金連合会〉) |
3. iDeCoへ移す場合の手続き
iDeCoを取り扱う金融機関(銀行・証券会社等)を選び、口座開設と同時に「企業型DCからの資産移換」の手続きを申し込みます。金融機関によって取り扱う運用商品や手数料が違うため、比較してから選ぶことになります。
ただし、選んでいる間に6ヶ月が過ぎると自動移換されてしまう。比較は今日から始めてください。
退職金(一時金)を受け取ったときの税金の考え方
企業型DCとは別に、会社独自の退職金制度で一時金を受け取った場合の話です。退職金には、他の所得より税負担が軽くなる「退職所得控除」という仕組みがあります。
考え方はこうです。
- 勤続年数に応じて、税金がかからない金額の枠(退職所得控除額)が決まる
- 退職金からその枠を差し引いた残りに、さらに2分の1をかけた金額が課税対象になる(国税庁タックスアンサー No.1420)
- その金額に税率をかけて税額が決まる
控除額は、勤続年数が20年以下なら「40万円×勤続年数」(80万円未満になる場合は80万円)、20年を超える部分は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算します(国税庁タックスアンサー No.1420)。勤続年数に1年未満の端数があるときは、1日でも1年に切り上げます。
2分の1をかける計算には例外があります。 役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金(特定役員退職手当等)には、この2分の1計算は適用されません(国税庁タックスアンサー No.2737)。また、役員等以外の人でも勤続年数が5年以下の場合(短期退職手当等)は、退職金から控除額を引いた残りが300万円を超える部分には2分の1計算が適用されません(国税庁タックスアンサー No.2740)。
会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、会社側が計算して源泉徴収するため、通常は自分で確定申告をする必要はありません。提出していない場合は、退職金の支給額に一律20.42%の税率で源泉徴収されます。
この場合も確定申告(還付申告)をすれば、申告書を提出した場合と同じ計算で精算され、払い過ぎた分の還付を受けられます(国税庁タックスアンサー No.2732)。
年の途中で退職して、退職金以外の給与所得についても年末調整・確定申告が必要になるケースは、次の記事(023)で扱います。
確定拠出年金の移換で、実際によく起きること
- 「離職票や失業保険の手続きで頭がいっぱいで、企業型DCのことを完全に忘れていた」
- 「転職先の入社書類に紛れて、企業型DCの案内だけ読まずに放置していた」
- 「6ヶ月を過ぎてから、通知が来て自動移換されていたことに気づいた」
これらは珍しいことではありません。退職時にやることが多すぎる中で、企業型DCの案内は優先順位が下がりやすい書類の一つです。もし6ヶ月を過ぎて自動移換されていたことに気づいても、そこで終わりではなく、気づいた時点でiDeCo等への移換(再移換)の手続きができます。過ぎてしまった手数料は取り戻せませんが、それ以上の目減りを止めることはできます。
感情の面で:忘れていたのは、あなたの落ち度ではない
退職直後は、次の仕事、目の前の生活費、離職票や健康保険の手続きで手一杯になります。そんな中で「6ヶ月後の年金資産の話」まで意識を向けろというのは、正直かなり無理があります。
忘れていたとしても、それはあなたの管理能力の問題ではなく、退職時にやることが多すぎる制度側の設計の問題です。
気づいた今なら、まだ止められる。手遅れではありません。
実体験について
私自身は2026年6月末に退職していますが、企業型DCへの加入有無や、退職金・確定拠出年金の移換手続きで実際に何があったかについては、自分の記録としてまだ整理できていません。調査した範囲での制度説明にとどめ、体験として書くことはしません。記録が整理でき次第、この記事に反映します。
次にやること
まず、退職した会社の人事・総務に「企業型DCに加入していたか」を確認することです。加入していた場合は、6ヶ月の期限を逆算して、転職先の企業型DCかiDeCoか、どちらに移すかをできるだけ早く決めてください。すでに退職から6ヶ月が近い・過ぎている場合は、後回しにせず今日中に確認の連絡を入れてください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です(手数料・掛金上限は2026年8月時点の調査)。個別の税額・手続きの詳細は、税理士または最寄りの税務署、確定拠出年金の運営管理機関にご確認ください。
出典(2026年8月時点で確認) - 確定拠出年金法第83条(自動移換に関する規定。企業年金連合会「用語集」、特定運営管理機関〈JIS&T〉の案内で条文番号を確認) - 国民年金基金連合会・特定運営管理機関「自動移換にかかる手数料改定のお知らせ」(手数料額) - 国税庁タックスアンサー No.1420(退職所得の計算方法)・No.2737/No.2740(1/2課税の例外)・No.2732(申告書未提出時の源泉徴収税率) - iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)(iDeCoの掛金上限額)