退職と転職はどちらが先か
- 失業保険(基本手当)を自己都合退職でもらうには離職前2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上必要(雇用保険法13条)。これが無い人は「先に辞める」の選択肢のリスクが大きい
- 自己都合退職には待期7日+給付制限(原則1ヶ月、2025年4月改正)があり、その間は無収入(雇用保険法21条・33条)
- 会社都合退職には給付制限がないため、辞め方によって無収入期間の長さが変わる
- 判断の軸は「貯金÷生活費の月数」と「給付制限が明けるまでの月数」の比較
- 1貯金と生活費を確認
- 2受給資格を確認
- 3給付制限を逆算
- 4先に転職か退職か決める
この記事の内容
「今の会社を辞めてから転職活動をするか、転職先が決まってから辞めるか」で迷っている人向けの記事です。どちらが正解かは人によって違いますが、判断材料になる数字は決まっています。
結論を先に言うと、この順番は「気持ち」ではなく「貯金と失業保険のスケジュール」から逆算して決めるべきです。この記事では、その逆算のやり方を先に示します。
- 転職先が決まってから辞めるべきか、先に辞めてしまうべきか決められない
- 在職中に転職活動をする時間が取れず、かといって収入が止まるのも怖い
- 失業保険がいつからいくら入るのか分からないまま、なんとなく不安だけがある
結論:どちらにも向き不向きがある
| 論点 | 先に転職先を決めてから辞める | 先に辞めてから転職活動する |
|---|---|---|
| 収入が途切れるか | 途切れない(退職と入社がほぼ切れ目なくつながる) | 途切れる(内定が出るまで、または失業保険が出るまで無収入) |
| 転職活動の時間 | 在職中で確保しづらい(有給・休日が中心になりやすい) | 平日を丸ごと使える |
| 失業保険は使えるか | 使わないことが多い(次が決まってから辞めるため) | 自己都合なら待期+給付制限のあと、会社都合なら給付制限なしで受給できる |
| 一番のリスク | 二足のわらじで転職活動が長引き、疲弊すること | 貯金が尽きる前に決まらないこと |
| 向いている人 | 貯金が少ない人、経歴のブランクを避けたい人 | 心身の負担が限界に近い人、貯金に余裕がある人 |
どちらが「正しい」かはありません。貯金がどれだけあるかと、失業保険がいつから入るかの2つが分かれば、自分にとってどちらが安全かは計算で決まります。次の章で、その計算のもとになる数字を整理します。
なぜ順番で迷うのか
「先に辞めてから探せばいい」と言われることもあれば、「辞める前に次を決めておくべき」と言われることもあります。どちらの意見も、それぞれの立場では正しいのですが、前提にしている状況が違うため、そのまま自分に当てはめると噛み合いません。
- 「先に辞めてから」と言う人は、貯金に余裕がある、または会社都合退職で給付制限がないケースを前提にしていることが多い
- 「先に決めてから」と言う人は、貯金が少ない、または自己都合退職で給付制限がかかるケースを前提にしていることが多い
つまり、アドバイスそのものより、自分の状況がどちらの前提に近いかを先に確認する必要があります。その確認材料になるのが、失業保険(雇用保険の基本手当)の仕組みです。
失業保険から逆算する
まず、受給資格があるかを確認する
失業保険を自己都合退職で受け取るには、雇用保険法13条により、原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上必要です。会社都合退職や、ハラスメントなどで「特定受給資格者」「特定理由離職者」に該当する場合は、離職前1年間に通算6ヶ月以上に緩和されます(雇用保険法13条)。
在籍期間がこの条件に届いていない場合、そもそも失業保険が出ません。この場合、「先に辞める」を選ぶと収入がゼロになる期間が長くなりやすく、貯金だけが頼りになります。まずここを、自分の雇用保険加入期間で確認してください(離職票や、在職中であれば人事・総務に確認できます)。
次に、給付制限の有無を確認する
受給資格があっても、自己都合退職か会社都合退職かで、実際にお金が入るまでの早さが変わります。
| 退職理由 | 待期期間 | 給付制限 | 何が起きるか |
|---|---|---|---|
| 自己都合退職 | 7日間(全員共通、雇用保険法21条) | 原則1ヶ月(2025年4月改正で短縮。5年間に2回以上の自己都合退職での受給がある場合は3ヶ月、雇用保険法33条) | 待期+給付制限の間、無収入 |
| 会社都合退職(倒産・解雇など) | 7日間 | なし | 待期が明ければ受給資格が発生する |
待期7日はどちらの退職理由でも共通してかかりますが、自己都合退職はそこにさらに給付制限が上乗せされます。この給付制限のぶんだけ、無収入の期間が長くなります。給付制限の期間は、2025年4月の法改正で原則2ヶ月から原則1ヶ月に短縮されました(退職日から遡って5年間のうちに2回以上、正当な理由のない自己都合退職で受給資格決定を受けている場合は3ヶ月。厚生労働省公式Q&A、2026年8月確認)。
私自身は2026年6月末に会社都合で退職しました。会社都合だったため給付制限がなく、初回振込みまでは退職日(6月30日)から36日、雇用保険説明会(7月15日)からは21日でした。もしこれが自己都合退職で、給付制限(原則1ヶ月)がかかっていたら、同じ計算では初回振込みまでさらに1ヶ月ほど後ろにずれていた計算になります。実際に自己都合退職を経験してはいないので実測値ではなく、給付制限(原則1ヶ月・雇用保険法33条)からの計算ですが、「給付制限があるかないかで、無収入期間が1ヶ月単位で変わる」という感覚は、この実例からも実感しています。
貯金÷生活費の月数と、給付制限が明けるまでの月数を比べる
ここまでの数字を、自分の家計に当てはめます。
- 今の貯金額を、1ヶ月の生活費で割る(何ヶ月分の生活費を持っているか)
- 自己都合退職なら「待期7日+給付制限(1ヶ月、または3ヶ月)」、会社都合退職なら「待期7日」を、無収入で持ちこたえる期間として見積もる
- 1が2を上回っているなら、「先に辞める」を選んでも、失業保険が出るまで生活は成り立ちます
- 1が2を下回っているなら、「先に辞める」はリスクが高く、転職先を決めてから辞めるほうが安全です
これは法律で決まった基準ではなく、家計としての目安です。貯金の月数が、無収入の見込み月数より少ないなら、先に辞めるのは避けたほうがいいという単純な比較ですが、感覚だけで決めるより確実です。
「先に辞める」が向いている人・危ない人
向いているのは、貯金が生活費の3〜4ヶ月分以上ある人、会社都合退職で給付制限がかからない人、そして何より心身の限界がすでに近い人です。無理に在職しながら転職活動を続けることで体調を崩しては、本末転倒です。
危ないのは、貯金が生活費の1〜2ヶ月分しかなく、かつ自己都合退職で給付制限がかかる人です。この組み合わせだと、給付制限が明ける前に貯金が尽きる可能性があります。この場合は、次の章の「先に決める」か、貯金を作る期間を先に置くことを検討してください。
(この3〜4ヶ月・1〜2ヶ月という数字は、前章の「待期7日+給付制限(1ヶ月、または3ヶ月)」の計算をもとにした本記事独自の目安です。統計上の相場ではないので、自分の数字は前章の式で計算し直してください。)
「先に転職先を決める」が向いている人・きつい人
向いているのは、貯金に余裕がなく、経歴に空白期間を作りたくない人です。収入が途切れないという安心感が最大のメリットです。
きついのは、在職中に転職活動の時間を確保しづらい人です。転職活動の時間の捻出方法を尋ねたdoda(パーソルキャリア)の調査では、「休日休暇」を使うと答えた人が65.2%と最も多く、次いで「会社の就業時間後」が35.0%でした(doda調査、2026年8月確認)。面接の多くは企業側の営業時間内に設定されるため、在職中の転職活動では休日や有給休暇を使う場面が多くなりやすいということです。また、今の職場に不満やストレスが大きい場合、働きながらの転職活動は精神的な負担が二重にかかります。この負担が限界に近いと感じるなら、無理に先延ばしにせず、前章の基準に立ち返って「先に辞める」を検討する価値があります。
会社への連絡や引き継ぎの調整自体が負担になっている場合、退職代行Jobs、弁護士法人ガイア、退職代行ネルサポート、円満退職ユニオン のようなサービスを使えば、退職の意思を伝える部分だけを切り離して任せられます(※2026年8月時点の調査。料金・サービス内容は各社公式サイトでご確認ください)。順番を決めることと、実際に辞める連絡をどうするかは、別々に考えて構いません。
それでも決められないとき
貯金の月数を数えても、給付制限の期間を計算しても、それでも決められないことはあります。それは怠けているのではなく、今の状況そのものが判断力を奪うほど負担になっているサインかもしれません。眠れない、食欲がない、涙が止まらないといった不調がある場合は、退職の順番より先に、医師や産業医に相談することを優先してください。
どちらを選んでも、後から状況が変われば計画は修正できます。今日決めた順番が、一生を縛るわけではありません。
次にやること
まず、自分の貯金額を1ヶ月の生活費で割ってください。出てきた月数が、自己都合退職なら「待期7日+給付制限(原則1ヶ月、5年内2回以上の受給歴があれば3ヶ月)」より長いか短いか、会社都合退職なら「待期7日」より長いか短いかを比べてください。長ければ先に辞めても生活は成り立ちます。短ければ、転職先を決めてから辞めるほうを軸に考えてください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。給付制限の期間・受給資格の要件は改正される可能性があります。個別の状況による判断は、ハローワークの窓口でご確認ください。
出典 - 雇用保険法13条(基本手当の受給資格。一般被保険者は離職前2年間に被保険者期間通算12ヶ月以上、特定受給資格者・特定理由離職者は離職前1年間に通算6ヶ月以上。条文は taishoku/laws/雇用保険法.txt 第十三条で確認済み) - 雇用保険法21条(待期期間。求職の申込み後、失業している日が通算7日に満たない間は支給しない。条文は taishoku/laws/雇用保険法.txt 第二十一条で確認済み) - 雇用保険法33条(給付制限。「第二十一条の規定による期間の満了後一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間」。この範囲内での運用が2025年4月改正で原則2ヶ月から原則1ヶ月に短縮。退職日から遡って5年間のうちに2回以上正当な理由のない自己都合退職で受給資格決定を受けている場合は3ヶ月。条文は taishoku/laws/雇用保険法.txt 第三十三条で確認済み、運用の原則月数は厚生労働省公式Q&A、2026年8月確認)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html - doda(パーソルキャリア)「転職活動のために有給休暇(有休)は取った?時間の捻出の仕方を調査」(2026年8月確認)https://doda.jp/guide/ranking/087.html