有期雇用から無期転換の直前に退職するとどうなるか
- 1通算期間を数える
- 2発生日を確認
- 3残るか辞めるか決める
- 4退職を申し出る
- 5離職票を受け取る
この記事の内容
- 先に言っておく。「あと少しなのに」と迷うのは、当たり前の反応
- 結論:権利が生まれる前に辞めれば無期転換の権利は消える。ただし辞めるなら失うものは少ない
- 無期転換の権利は、いつ生まれるのか
- 権利が生まれる前に辞めると、何が起きるのか
- 会社から「更新しない」と言われた場合は、別の話になる
- 自分から辞めるなら、「満了で辞める」と「途中で辞める」は別物
- 無期転換してから辞めるほうが、辞めやすくなるのか
- 失業保険には、辞め方が響く
- 計算例:入社2021年10月1日・1年契約のケースで数える
- 文例:契約満了で更新しないと伝えるメール
- チェックリスト:申し出る前に確かめる6つ
- 言い出しにくいときは、代行を使う選択肢もある
- 次にやること
契約社員やパートとして同じ会社で5年近く働いてきて、無期転換の直前に辞めたくなった人に向けた記事です。「あと少しで無期になれるのに、辞めたら損なのでは」と迷っている人が対象です。 結論から言うと、権利が生まれる前に辞めれば無期転換の権利は消えます。ただし、辞めると決めているなら失うものは思ったより少なく、むしろ気をつけるのは辞め方と失業保険です。 権利が生まれる日、辞めると何が消えるか、会社から更新を切られた場合、失業保険の扱い、計算例、会社に出す文例、確認リストの順に書きます。
先に言っておく。「あと少しなのに」と迷うのは、当たり前の反応
5年近く積み上げてきたものを前にして、手放すのが惜しくなるのは普通のことです。「この5年は何だったのか」と考えてしまう人もいます。 一方で、無期になれば安心というものでもありません。続けるか辞めるかは、権利の有無だけで決める話ではありません。
この記事は、どちらを選んでも損得と手続きが分かった状態で決められるようにするためのものです。 心身の調子が悪くて辞めたい場合は、手続きより先に医師(会社に産業医がいれば産業医)に相談してください。休むべきかどうかの判断は、この記事ではしません。
結論:権利が生まれる前に辞めれば無期転換の権利は消える。ただし辞めるなら失うものは少ない
| 状況 | 無期転換の権利 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 権利が生まれる前に、契約満了で辞める | 生まれない(そのまま消える) | 転職先には持ち越せない |
| 権利が生まれたあと、申込みをせず辞める | 使わないまま終わる | 申込みの期限は、その契約期間の末日まで |
| 権利が生まれたあと、申込みをして辞める | 申込み自体は成立。無期になるのは次の契約期間の初日から | 転換前に辞めるなら、実質は有期のまま辞めるのと同じ |
| 会社が更新しないと言ってきた | 更新の期待が守られる場合がある(労働契約法19条) | 個別の判断になる。相談先へ |
つまり、辞めると決めているなら、無期転換の権利を惜しむ必要は基本的にありません。惜しむべきなのは「残るなら取れたはずの権利」であって、辞める人には使い道が少ないからです。
無期転換の権利は、いつ生まれるのか
「5年働いたら無期になる」と思われがちですが、正確には少し違います。 労働契約法18条1項は、同じ会社との有期契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者が申し込めば無期契約に転換される、と定めています。申込みができるのは、5年を超える契約期間の初日から末日までの間です。
| 契約期間 | 権利が生まれるタイミング |
|---|---|
| 1年契約の繰り返し | 5回目の更新後、つまり6年目の契約の初日 |
| 3年契約の繰り返し | 1回目の更新後、つまり4年目の契約の初日 |
| 6か月契約の繰り返し | 10回目の更新後、つまり11本目の契約の初日(入社から5年後) |
(出典: 労働契約法18条、厚生労働省の無期転換ルールの解説)
- 「通算5年」は、同じ会社との契約期間を足したものです。会社が変われば数え直しです
- 契約と契約の間に一定以上の空白があると、通算がリセットされる場合があります(労働契約法18条2項。原則は6か月以上の空白。契約期間が短いときは基準が変わります)
- 申込みをしても、その日から無期になるわけではありません。無期になるのは、申込みをした契約期間が終わった次の日からです
権利が生まれる前に辞めると、何が起きるのか
自分から契約満了で辞める場合、無期転換の権利は生まれないまま終わります。転職先で勤め直すと、通算は0からです。
失うもの、失わないものを分けると次のとおりです。
| 失うもの | 失わないもの |
|---|---|
| 「無期に転換できる権利」(まだ生まれていない) | 5年間の職歴・実績 |
| 転換後に会社が用意している待遇(あれば) | 有給休暇(残っていれば) |
| 契約が切れない安心感 | 雇用保険の加入期間(失業保険の計算に使う) |
なお、無期転換しても給料や勤務時間などの条件は、会社が別に決めていなければ、直前の有期契約と同じのままです(労働契約法18条1項)。正社員になれるわけではありません。「無期になれば待遇が良くなる」と思って待っているなら、就業規則で無期転換後の条件がどうなるかを先に確認したほうがいいです。
会社から「更新しない」と言われた場合は、別の話になる
自分から辞めるのではなく、会社が更新を止めることを「雇止め」といいます。5年の直前に雇止めを告げられた場合、次のような整理になります。
- 有期契約を何度も更新してきて、更新への期待が合理的といえる場合、会社が理由もなく雇止めをしても認められない場合があります(労働契約法19条)
- 「無期転換を避けるための雇止め」は、制度の趣旨に反するとして厚生労働省も好ましくないとしています。ただし、実際に無効になるかどうかは、契約内容や更新の実態で変わります
ここは個別の事情で結論が変わるので、一般論までしか書けません。心当たりがあるなら、証拠(契約書、更新の案内、雇止めの通知)を手元に残したうえで、各都道府県の労働局にある総合労働相談コーナー(無料)に相談してください。
自分から辞めるなら、「満了で辞める」と「途中で辞める」は別物
| 辞め方 | 進め方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 契約満了で辞める(更新しない) | 更新前に、更新しない意思を伝える | 会社が更新の意思確認をする時期より前に伝えるとスムーズ |
| 契約の途中で辞める | 会社と話し合って合意する(合意退職) | 一方的に辞めるには「やむを得ない事由」が必要(民法628条) |
| 1年を超える契約の途中で辞める | 契約の初日から1年経過後は、申し出ればいつでも辞められる(労働基準法附則137条) | 専門職や60歳以上など、対象外の人がいる。また、1年契約には使えない |
契約期間の途中で辞めるのは、正社員のように「2週間前に言えば辞められる」(民法627条1項)とはいきません。有期契約は、期間が決まっているぶん、途中で辞めるのに理由が要ります。 ただ、会社が合意すれば辞められますし、病気や家庭の事情がやむを得ない事由に当たる場合もあります。
無期転換してから辞めるほうが、辞めやすくなるのか
無期転換すると、契約期間の定めがなくなります。すると、民法627条1項が使えて、原則として2週間前に申し出れば辞められます。 ここまでは事実です。ただし、転換されるのは申込みをした契約期間が終わった次の日からです。
たとえば、1年契約の6年目の初日に申込みをした場合、無期になるのは7年目の初日です。その日までは有期のままなので、その間に辞めたいなら結局「満了まで待つ」か「合意退職」になります。 辞めると決めているなら、転換を待つメリットは薄いです。
失業保険には、辞め方が響く
失業保険(雇用保険の基本手当)は、離職票に書かれる離職理由で扱いが変わります。最終的に決めるのはハローワークです。
| 辞め方 | 離職理由の扱い(一般的な整理) |
|---|---|
| 自分から更新しない・自分の都合で辞める | 自己都合退職として、給付制限がつくのが一般的 |
| 更新を希望したのに、会社が更新しなかった | 自己都合とは別に扱われる場合がある(特定理由離職者など) |
| 3年以上更新を繰り返したあと、会社が更新しないと通知した | 特定受給資格者に当たる場合がある(雇用保険法施行規則36条7号) |
給付制限は、2025年4月の法改正で、正当な理由のない自己都合退職の場合、原則2か月から1か月に短くなりました(厚生労働省)。ただし、過去5年間に自己都合退職が2回以上ある場合は、3か月になります(厚生労働省)。
離職票の離職理由に納得できないときは、ハローワークの窓口で異議を申し立てられます。離職票は会社が作るので、記載を確認してから提出してください。ここで手続きを飛ばすと、あとから直すのが大変になります。
この節は、調査した範囲での一般的な整理です(筆者に契約満了での退職や無期転換直前の経験はありません)。
計算例:入社2021年10月1日・1年契約のケースで数える
前提を1つ置きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 入社日 | 2021年10月1日 |
| 契約 | 1年契約を毎年10月1日に更新 |
| 今日 | 2026年9月21日 |
日付を追うと、次のようになります。
| 出来事 | 日付 | 今日からの日数 |
|---|---|---|
| 通算5年になる日(5回目の契約の末日) | 2026年9月30日 | 9日後 |
| 無期転換の権利が生まれる日(6年目の契約の初日) | 2026年10月1日 | 10日後 |
| 申込みをした場合に無期になる日 | 2027年10月1日 | 375日後 |
(今日から数えた日数は、2026年9月21日を0日目とした計算)
この人が9月30日の契約満了で辞めると、10月1日に権利が生まれる前に終わるので、権利は消えます。 一方、10月1日に更新して申込みをすると、無期になるのは2027年10月1日で、申込みから365日あとです。その365日の間に辞めたくなったら、有期のまま辞めることになり、合意退職などが必要です。
つまり、今「辞める」と決めているなら9月30日満了で辞めて問題なく、残るのは「1年続けたい理由」があるときの選び方です。
文例:契約満了で更新しないと伝えるメール
口頭で伝えたあと、記録に残すためにメールを送っておくと安全です。会社の様式があればそちらに従ってください。
件名:契約更新について(○○部・氏名)
○○課長
お疲れさまです。○○部の△△です。
現在の契約期間は2026年9月30日までですが、
今回は契約を更新せず、期間満了をもって退職したいと考えております。
最終出社日は2026年9月30日を予定しております。
引き継ぎや有給休暇の消化については、ご相談させてください。
退職に伴う書類(離職票、源泉徴収票など)の発行も、
お手続きのほどよろしくお願いいたします。
突然のご連絡となり、申し訳ありません。
どうぞよろしくお願いいたします。
理由は書かなくて構いません。「一身上の都合」でも問題なく、会社に聞かれたら答える程度で十分です。
チェックリスト:申し出る前に確かめる6つ
- □ 契約書で、契約開始日と契約期間、更新の有無を確認した
- □ 更新の回数と通算期間を、自分で数えた(同じ会社との通算か)
- □ 就業規則で、無期転換後の待遇(給与・退職金・勤務条件)を確認した
- □ 契約満了の日と、更新の意思確認がある時期を確認した
- □ 残っている有給休暇の日数を確認し、消化の希望を決めた
- □ 離職票を発行してもらえる時期を、会社に確認した
言い出しにくいときは、代行を使う選択肢もある
「更新しないと言ったら引き止められそう」「合意してもらえず、契約途中で辞められない」という場合は、会社と直接話さずに退職の意思を伝えてもらう方法があります。 弁護士法人や労働組合が運営する退職代行なら、会社との交渉が必要な場面にも対応できます。汎用のリストは次のとおりです。
料金やサービス内容は、公式サイトで最新のものを確認してください。弁護士でない人が会社との条件交渉を代わりにすることは法律で制限されているので、交渉まで任せたいなら弁護士が対応する窓口を選びます。
次にやること
今日、契約書を出して、「契約開始日」「契約期間」「更新の回数」の3つを紙に書き出してください。それで、無期転換の権利が生まれる日と、辞めるならいつが区切りになるかが分かります。