マルチジョブホルダーの退職
- 1加入状況を確認
- 2退職を伝える
- 3離職票を請求
- 4ハローワークで申込み
- 5待期と給付制限
- 6認定日と振込
この記事の内容
複数の職場で働いている人が、どれかを辞める、または全部辞めるときに、失業保険(雇用保険の基本手当)がもらえるのかを知りたい人に向けた記事です。 結論から言うと、雇用保険に入っているのは、たいてい1つの職場だけです。失業保険の手続きで中心になるのは、その1社から出る離職票です。加入していない職場を辞めても、失業保険の対象にはなりません。 どの職場で入っているかの確かめ方、パターン別の流れ、会社に出す文例、手続き前のチェックリストの順に書きます。
先に言っておく。掛け持ちで疲れて辞めたいのは、当たり前のこと
2つ、3つと職場を持っていると、それだけで体力も気力も削られます。 シフトの調整、通勤、それぞれの職場の人間関係。1つ辞めるだけでも大ごとなのに、「全部辞めたらお金はどうなるのか」まで考えるのは、相当な負担です。
辞めたいと思うのは、甘えではありません。ただ、辞め方を間違えると、もらえるはずの給付が受け取れなくなることがあります。この記事は、その「間違い」を先に潰すためのものです。
なお、筆者は2026年に退職し、失業保険の手続きをハローワークで実際に行いました。ただし、複数の職場を同時に持っていた経験はありません。以下は、調査した範囲での一般的な整理です。個別のケースは、最終的にハローワークの窓口で判断されます。
体の不調が続いているときは、手続きより先に、医師(会社に産業医がいれば産業医)に相談してください。休むべきかどうかの判断は、この記事ではしません。
結論:どの職場を辞めるかで、失業保険の扱いが変わる
| あなたの状況 | 失業保険(基本手当) | 離職票 |
|---|---|---|
| A. 雇用保険に入っている1社を辞め、他の職場は続ける | 出ない場合や、減額される場合がある。残る仕事の働き方しだい | 加入先から出る |
| B. 雇用保険に入っていない職場だけを辞める | 出ない | 出ない(加入していないため) |
| C. 全部辞める | 加入先の離職票で申請できる。ほかの職場の収入は別扱い | 加入先から出る |
表のポイントは1つです。失業保険は、雇用保険に入っていた職場を辞めたときの制度です。 入っていなかった職場の勤務期間や給料は、原則として計算に入りません。
どの職場で雇用保険に入っているか、まず確かめる
辞める順番も、離職票を頼む相手も、ここで決まります。確かめる方法は3つあります。
| 確かめ方 | 見るもの | 手間 |
|---|---|---|
| 給与明細 | 「雇用保険料」が引かれているか | すぐ見られる |
| 雇用保険被保険者証 | 入社時に会社から渡された紙(加入先の名前が載っている)。会社が保管している場合もある | 書類が手元にあれば早い |
| ハローワークで照会 | 被保険者番号や資格取得年月日を記した「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会回答書」の交付を受けられる(ハローワークの案内。2026年9月確認) | 窓口に行く必要がある |
| マイナポータルで確認 | マイナンバーカードがあれば、雇用保険の加入記録を確認できる(厚生労働省の案内。2026年9月確認) | オンラインでできる |
給与明細で雇用保険料が引かれている職場が、加入先の候補です。
なぜ、複数の職場で雇用保険に入れないのか
雇用保険は、加入の条件を満たす職場が複数あっても、加入できるのは「生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける」1社だけです。ほかの職場では、従たる賃金であれば被保険者になりません(厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~事業主の皆様へ」。2026年9月確認)。
加入の条件そのものは、次のとおりです。
| 条件 | 内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 働く時間 | 1週間の所定労働時間が20時間以上 | 雇用保険法6条 |
| 見込み | 31日以上、雇用される見込みがある | 雇用保険法6条 |
つまり、週20時間以上の職場が2つあっても、入れるのは主に稼いでいる1社です。週10時間の職場を2つ掛け持ちしていても、合算はできないのが原則です(雇用保険法6条。事業主ごとに見て20時間に届かなければ、合計が20時間以上でも対象外になります)。
なお、加入の条件は、2028年10月1日から「週20時間以上」が「週10時間以上」に広がります(令和6年の雇用保険法改正。厚生労働省の資料で確認)。この記事の「週20時間」は、2026年9月時点の現行の条件です。
65歳以上には、合算できる特例がある
65歳以上の人には、複数の職場の労働時間を合算して雇用保険に入れる「マルチジョブホルダー制度」があります(2022年1月1日開始。雇用保険法37条の5、厚生労働省「雇用保険マルチジョブホルダー制度」Q&A。2026年9月確認)。 条件は、2つの職場それぞれで週の所定労働時間が5時間以上20時間未満(雇用保険法施行規則65条の7)、2つの合計が20時間以上、それぞれ31日以上働く見込みがあることです。本人がハローワークに申し出て、申し出た日から加入する仕組みで、会社が自動で入れてくれるものではありません。
この特例に入っている人(65歳以上で雇用保険に入っている人は、特例でなくても同じです)が失業したときに出るのは、基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」という一時金です。離職の日以前1年間に被保険者期間が通算6か月以上あることが条件で、額は基本手当の日額の30日分(被保険者期間1年未満)または50日分(1年以上)です(雇用保険法37条の2〜37条の4)。自分が制度の対象かどうかは、ハローワークで確認してください。
パターン別:辞めたあと、何が起きるか
A. 加入している1社だけを辞めて、他の職場は続ける
ここが一番迷いやすいところです。
失業保険は「働く意思と能力があるのに、仕事に就けない状態(失業)」の人に出ます(ハローワークインターネットサービス「基本手当について」)。他の職場で働き続けている場合、それが失業と言えるかどうかが問題になります。
ハローワークの案内(失業認定申告書の注意書き。東京ハローワーク渋谷の案内、2026年9月確認)では、働き方で扱いが次のように分かれます。
- 週20時間以上の継続的な仕事に就いた → 「就職」として扱われ、基本手当は出ない
- 1日4時間以上働いた日 → 「就労」として扱われ、その日の基本手当は支給されない
- 1日4時間未満(内職・手伝い) → 収入を申告する。収入の額によって、働いた日数分の基本手当が減額されることがある
パート・アルバイト・ボランティアなど、名前や収入の有無を問わず、認定日に申告する決まりです。どれに当たるかは、ハローワークの判断です。離職票を持って窓口に行き、「続けている仕事がある」と最初に伝えてください。申告をしなかったり偽ったりすると、不正受給として、支給された分の返還に加え、その2倍以下の額の納付を命じられることがあります(雇用保険法10条の4)。
B. 雇用保険に入っていない職場だけを辞める
失業保険の手続きは、発生しません。離職票も出ません。 辞めたあとに変わるのは、健康保険や住民税のほうです。後半で触れます。
C. 全部辞める
離職票が出るのは加入先の1社だけですが、失業保険の手続きは通常どおり進められます。給付の金額のもとになる賃金日額は、離職前の最後の6か月間(被保険者期間として計算された月)に支払われた賃金の合計を180で割って出します(雇用保険法17条)。離職票に載るのは、加入先の会社が届け出る賃金です(雇用保険法施行規則7条)。
注意点は、加入していなかった職場の給料は、この計算に入らないことです。掛け持ちの合計収入が多くても、給付額には反映されません。
全部辞める場合の手順(時系列)
全部辞める場合の流れを、順番に並べます。
- 加入状況を確認する。 上の3つの方法で、どの職場が雇用保険の加入先かをはっきりさせる
- 退職を伝える。 加入先には、離職票が必要であることも同時に伝える
- 離職票を請求する。 会社が退職後に手続きして、ハローワークが発行します。届くまでの日数は会社ごとに違う
- ハローワークで求職の申込みをする。 離職票などを持って、住所地を管轄するハローワークへ
- 待期と給付制限を待つ。 求職の申込みをした後の7日間(待期)は、給付が出ない。自己都合の退職では、その後にさらに待つ期間(給付制限)がある。会社都合の退職では、給付制限はかからない
- 認定日に失業の認定を受け、振り込まれる。 認定日ごとに、その間の求職活動の実績と、働いた日の申告を出す
| 用語 | 中身 | 出どころ |
|---|---|---|
| 待期 | 申込み後、失業している日が通算7日に満たない間は給付が出ない | 雇用保険法21条 |
| 給付制限 | 自己都合退職などの場合、待期の後にさらに待つ期間。法律上は1か月以上3か月以内で所長が定める。2025年4月1日以降の退職は原則1か月(それ以前は原則2か月) | 雇用保険法33条、厚生労働省・ハローワークの案内(2026年9月確認) |
| 受給期間 | 離職した日の翌日から原則1年。この間に給付を受け切る必要がある | 雇用保険法20条 |
| 所定給付日数(自己都合など) | 算定基礎期間(同じ会社で雇用保険に入っていた期間)が10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日。会社都合(特定受給資格者)は別の日数 | 雇用保険法22条・23条 |
もらえる条件は、離職日以前の2年間に、雇用保険の加入期間が通算12か月以上あることが基本です(雇用保険法13条1項)。会社都合などの場合(特定受給資格者・特定理由離職者)は、1年間に6か月以上に短くなります(同条2項)。
筆者は会社都合で離職したため、給付制限はありませんでした。初回の振込は、退職日から36日、雇用保険説明会の日から21日でした。自己都合の退職では、上の表のとおり給付制限の分だけ後ろにずれます。
離職票が届かないとき
会社は、退職の翌日から10日以内に、ハローワークへ資格喪失届を出す決まりです(雇用保険法施行規則7条1項)。本人が離職票を希望しない場合は、離職証明書を添えないこともできる扱いです(同条3項。離職の日に59歳以上の人は除く)。つまり、離職票は「必要です」と伝えておかないと、出てこないことがあります。 辞める前に、離職票が必要なことをメールで残しておくと、催促するときに話が早くなります。文例は下にあります。
筆者は会社都合で退職し、退職日から3日で離職票が届きました。催促はしていません。早かった理由は、マイナンバーと紐づけていたためでした。これは会社都合の場合の日数で、自己都合の人や会社によって日数は違います。
加入先の会社に出す文例:離職票の発行のお願い
そのままコピーして使える形にしました。氏名や日付は書き換えてください。
件名:【離職票の発行のお願い】(氏名)
〇〇株式会社
人事ご担当者様
お世話になっております。(部署名)の(氏名)です。
(退職日:〇年〇月〇日)付で退職いたします。
つきましては、失業保険の手続きに必要なため、
雇用保険の資格喪失手続きと、離職票の発行をお願いいたします。
・離職票(1・2)を郵送していただきたく存じます
送付先:〒〇〇〇-〇〇〇〇 (住所)
・雇用保険被保険者番号は、(分かる場合は記載/不明なら「被保険者証をご確認ください」)です
お手数をおかけしますが、発行の目途を教えていただけますと助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
(氏名)
(連絡先メールアドレス/電話番号)
ほかの職場(加入していない職場)には、離職票の依頼は不要です。通常の退職の連絡だけで足ります。
辞めるときにいっしょに変わる、健康保険と住民税
失業保険と同じくらい、忘れやすいのが健康保険です。
複数の職場で社会保険(健康保険・厚生年金)に入っている場合は、「二以上事業所勤務」の扱いになります。本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、事実が起きてから10日以内に日本年金機構へ出します。標準報酬月額は複数の職場の報酬を合算して決まり、保険料は各職場の報酬額に応じて按分されます(日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」。2026年9月確認)。 1社を辞めて二以上勤務でなくなるときは、辞める職場が資格喪失届を出します(日本年金機構の案内)。辞める職場と残る職場の両方の担当者に、「二以上事業所勤務の届け出が出ているか」を聞いてください。
全部辞めて、保険証がなくなる場合は、選択肢が3つあります。
| 選び方 | 期限 | 出どころ |
|---|---|---|
| 国民健康保険に入る | 職場の健康保険の資格喪失日(退職日の翌日)から14日以内 | 厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」、世田谷区の案内(2026年9月確認) |
| 今の健康保険を任意継続する | 資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内 | 健康保険法37条 |
| 家族の扶養に入る | 家族の会社の指示による | 各健康保険組合の案内 |
会社都合などの非自発的な離職の場合は、国民健康保険料の軽減制度があります。前年の給与所得を100分の30とみなして保険料を計算する仕組みで、雇用保険受給資格者証が要ります(厚生労働省の通知に基づく制度。実施内容は世田谷区など各市区町村の案内で確認。2026年9月確認)。筆者は国民健康保険に入り、この軽減措置が使えて、任意継続より安くなりました。ただし子どもは、妻の健康保険の扶養に移しました。国保は加入する人数が増えると保険料が上がるためです。
住民税は、前の年の所得をもとに計算されるため(地方税法313条)、退職後にも請求が来ます。給与から引かれていた職場を辞めると、退職後の分は、その職場からは引かれなくなります(地方税法321条の5第2項。退職の時期によっては、最後の給与や退職金から残りを一括で引かれる場合があります)。引かれなくなった分は、市区町村から届く納付書などで自分で納めます。筆者も、退職後に1期分(3か月分)ずつ、年4回の分割払いで請求が来ました。辞める前に、いくら来そうかを市区町村の窓口で聞いておくと安心です。
辞めさせてもらえない職場があるとき
掛け持ちでは、片方の職場の人手が足りず、「今辞められると困る」と言われることがあります。
期間の定めのない雇用(正社員や、期間の決めがないパート・アルバイト)は、辞めたい日の2週間前までに伝えれば、原則として辞められます(民法627条)。 期間の決まった契約(有期雇用)は、原則として契約期間の途中では辞められず、「やむを得ない事由」が必要です(民法628条)。契約書を確かめてください。
自分で伝えても話が進まない、連絡するのが怖い、というときは、代わりに伝えてくれる退職代行という手段があります。料金や対応範囲は、各公式サイトで確認してください。
会社との間で、未払いの給料や退職金など「交渉」が必要になりそうなときは、弁護士や労働組合が窓口になるサービスが向いています。弁護士でない人が、報酬を得る目的で、会社との間の法律上のやりとり(交渉・和解など)を業として取り扱うことは、弁護士法72条で禁じられているためです。個別の依頼がこれに当たるかどうかは、事案ごとに判断されます。
手続き前のチェックリスト
□ 給与明細で、雇用保険料が引かれている職場を確かめた □ 雇用保険被保険者証(または被保険者番号)を手元に用意した □ 加入先の職場に、離職票が必要だと書面(メール)で伝えた □ 加入していない職場には、通常の退職連絡だけでいいと理解した □ 辞めたあとも続ける仕事があれば、その働き方(週の時間・収入)をメモした □ 健康保険の切り替え先(国保・任意継続・扶養)と、期限を確かめた □ 二以上事業所勤務の届け出の有無を、職場の担当者に聞いた □ 住民税の請求がいつ、いくら来そうか、市区町村の窓口で聞いた
次にやること
給与明細を開いて、「雇用保険料」が引かれている職場を1つだけ見つけてください。
そこが、離職票を頼む相手であり、失業保険の申請の起点です。
出典(2026年9月22日調査)
- 厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~事業主の皆様へ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140565.html (複数の会社で加入要件を満たす場合、「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ加入」と書かれていることを確認。本文の数字との相違なし)
- 厚生労働省「Q&A~雇用保険マルチジョブホルダー制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508_00002.html (65歳以上・各事業所が週5時間以上20時間未満・合計20時間以上・各31日以上の見込み・申出をした日から加入(遡って加入はできない)・高年齢求職者給付金が基本手当日額の30日分または50日分、を確認。本文の数字との相違なし)
- 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html (自己都合退職の給付制限は、退職日が2025年4月1日以降なら原則1か月、3月31日以前なら原則2か月、を確認。本文の数字との相違なし)
- 厚生労働省職業安定局雇用保険課「令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について」(2025年8月20日 職業安定分科会雇用保険部会 資料) https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001542937.pdf (雇用保険の加入条件の拡大が2028年10月1日施行であることを確認。本文の日付との相違なし)