会社都合退職と自己都合退職で退職金の額は変わるか
- 1規程を読む
- 2規程上の区分を見る
- 3金額を試算する
- 4理由を書面で確認
- 5退職届に署名
この記事の内容
退職金のある会社を辞めようとしていて、「会社都合と自己都合で金額が変わると聞いたが、自分はいくら違うのか」を知りたい人に向けた記事です。 先に答えを言います。変わるかどうかは、法律ではなく、自分の会社の退職金規程が決めます。差をつけている会社が多いとされますが、差がない会社も、そもそも退職金がない会社もあります。 規程のどこを見れば差が分かるか、仮の数字での計算例、退職の理由を書面で確かめる文例、確認リストの順に書きます。
先に言っておく。金額の差が気になるのは、当たり前
「会社都合なら満額、自己都合なら減る」と聞くと、辞め方だけで大きな差が出るのかと不安になります。 辞めるのは自分の意思なのに、その意思のせいで損をするように見える。そう感じるのは自然なことです。 会社から辞めるよう促されたのに、書類上は自己都合にされそうで困っている人もいます。言い出しにくいのも、よく分かります。
この記事は、辞めると決めたあとに、分かっていれば防げる損と、規程どおりで動かせない差を分けるためのものです。不安を全部消すことはできませんが、何を確認すればいいかは決まります。
なお、眠れない、食欲がない、出社しようとすると体が動かないといった心身の不調があるなら、金額の確認より先に、医師(会社に産業医がいれば産業医)に相談してください。休むかどうかの判断は、この記事ではしません。
結論:差があるかどうかは、会社の規程で決まる
| 自分の会社の状況 | 自己都合と会社都合の差 |
|---|---|
| 退職金制度がない | 差以前に、もともと出ない |
| 規程に「自己都合は係数を下げる」とある | 差がある。係数の分だけ金額が下がる |
| 規程に「勤続○年未満の自己都合は不支給」とある | 条件に届かなければ、自己都合では出ない |
| 規程に区分がなく、理由にかかわらず同じ式 | 差がない |
つまり、「会社都合の方が多い」は一般的な傾向であって、自分の会社に当てはまるかは規程を読むまで分かりません(中央労働委員会「賃金事情等総合調査」のモデル退職金でも、自己都合退職金は会社都合退職金より低い水準で集計されています)。
退職金は、法律で「理由別に決める」お金ではない
退職金は、法律で全員に支払いが義務づけられているお金ではありません。 出るかどうか、いくら出るか、理由で差をつけるかは、就業規則(または、そこから切り出した退職金規程)に書かれた内容が根拠です。
- 退職手当を定める場合、適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期を就業規則に書く決まりです(労働基準法89条3号の2)
- 就業規則などで支給条件が明確に決まっていれば、退職金は賃金として扱われます(労働基準法11条)
- 会社は、就業規則を労働者に周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。見られない状態にはできません
法律には「自己都合なら減らしてよい」とも「減らしてはいけない」とも書かれていません。
規程では、何が「会社都合」で何が「自己都合」か
「会社都合」「自己都合」という言葉の意味は、規程ごとに違います。次は、よくある分け方の例です。実在の会社の規程ではありません。
| 辞め方 | 規程上の扱いの例 |
|---|---|
| 本人の希望で辞める(転職・独立・家庭の事情など) | 自己都合 |
| 会社に解雇された | 会社都合 |
| 会社から退職を勧められ、それに応じた(退職勧奨) | 会社都合とする規程と、自己都合とする規程がある |
| 会社が募集した希望退職・早期退職に応じた | 会社都合、または割増付きの特別な区分とする規程が多い |
| 定年で辞める | 定年退職として、会社都合と同じ扱いにする規程が多い |
| 会社の倒産・事業所の閉鎖 | 会社都合 |
規程に書かれた言葉が、そのまま基準です。「会社に言われて辞めたのだから会社都合のはず」と思っても、規程が「本人が退職届を出した場合は自己都合」と書いていれば、その規程で判断されます。 ## 失業保険の「離職理由」と、退職金の「会社都合」は別の話
ここで混ざりやすいことがあります。ハローワークが見る離職理由と、退職金規程の区分は、別々のものです。
| 失業保険(雇用保険) | 退職金 | |
|---|---|---|
| 何で決まるか | 雇用保険法とハローワークの判断 | 会社の就業規則・退職金規程 |
| 会社都合に近い扱い | 倒産・解雇などで辞めた人は「特定受給資格者」となり、給付の日数が増える場合がある(雇用保険法23条) | 規程の定義しだい |
| 誰が判断するか | ハローワーク(会社の記載と本人の申立てを見て判断) | 会社(争いになれば裁判所や労働審判) |
たとえば、退職金規程では自己都合でも、失業保険では会社都合に近い扱いになることがあります。逆もあります。一方の結果が、もう一方を自動で決めるわけではありません。 離職票が届いたら理由の記載を見て、納得できなければハローワークで相談してください。
差が生まれる4つの書き方
退職金規程を読むときは、次の4か所に印を付けます。
| 見る場所 | よくある書き方(例) | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 支給率(係数) | 「自己都合は会社都合の○割」 | 理由で金額が直接変わる |
| 勤続年数ごとの段階 | 「勤続10年以上は自己都合でも○割」 | 勤続年数の節目で差が縮む |
| 最低勤続年数 | 「自己都合は勤続3年以上」 | 届かなければ自己都合では出ない |
| 支給日の在籍要件 | 「支給日に在籍していること」 | 辞める日の付け方で結果が変わる場合がある |
勤続年数の端数の数え方(切り捨てか、月割か)も規程にあります。退職日の見通しが立ちます。
計算例:基本給28万円・勤続8年の場合(仮の規程)
読者の状況として、仮の数字を置きます。実在の規程ではありません。
| 項目 | 仮の内容 |
|---|---|
| 計算式 | 退職時の基本給 × 勤続年数 × 支給率 |
| 基本給 | 28万円(この間、変わらない前提) |
| 支給率(会社都合) | 1.0 |
| 支給率(自己都合) | 勤続3年未満は0(不支給)、3年以上10年未満は0.6、10年以上は0.8 |
まず、勤続8年で辞めた場合です。
| ケース | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 会社都合 | 28万円 × 8 × 1.0 | 224万円 |
| 自己都合 | 28万円 × 8 × 0.6 | 134.4万円 |
| 差 | 224万円 − 134.4万円 | 89.6万円 |
次に、あと2年働いて勤続10年になってから辞めた場合です。
| ケース | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 会社都合 | 28万円 × 10 × 1.0 | 280万円 |
| 自己都合 | 28万円 × 10 × 0.8 | 224万円 |
| 差 | 280万円 − 224万円 | 56万円 |
分かることが2つあります。
- 節目(勤続10年)を越えると、差は89.6万円から56万円に縮む
- ただし差はゼロにならない。この例では、どの勤続年数でも区分の差が残る
これは退職金だけを見た計算です。あと2年働き続ける負担は、この数字に入っていません。心や体が限界なら、節目のために我慢することを、この記事は勧めません。数字は判断の材料のひとつにしてください。
なお、退職金の所得税の控除は勤続年数で決まり、自己都合か会社都合かでは変わりません(所得税法30条。退職所得控除額の計算式は勤続年数のみが基準で、国税庁の解説でも退職理由による違いはありません)。
会社から辞めるよう促されたときは、署名の前に区分を確かめる
上司や人事から「辞めてもらえないか」と言われたとき、次のような場面が起きやすくなります。
- 会社が用意した退職届(または退職合意書)の理由欄に、あらかじめ「一身上の都合」と書かれている
- 「一身上の都合で」と自分で書くよう言われた
書類の理由が「一身上の都合」だと、会社が自己都合の根拠として使う場合があります。退職金の区分にも、離職票の記載にも影響し得ます。 会社が辞めるよう促した事実があるなら、その経緯を日付とともにメモしておくのが一般的な対処です。 署名する前に、規程上どちらの扱いになるかを書面で確かめてください。口頭だけの約束は、後で残りません。
文例:規程上の退職理由の扱いを確かめるメール
日付や部署は自分の事情に置き換えてください。
件名:退職理由の扱いについてのご確認(○○部・氏名)
人事ご担当者様
お疲れさまです。○○部の△△です。
○月○日の面談で、退職についてのお話をいただきました。
退職届(または退職合意書)に署名する前に、
次の点を確認させてください。
1. 今回の退職は、退職金規程上「会社都合」「自己都合」の
どちらの扱いになりますか。
2. 退職金の見込み額と、計算の根拠になる条文を教えてください。
3. 退職届(合意書)の理由欄は、どのように記載する予定ですか。
お手数ですが、メールで回答をいただけると助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
答えが「自己都合」でも、回答が書面で残ること自体が、後で確認するときの材料になります。 規程を持っていないなら、まず閲覧を頼んでください。見せてもらえない場合は、労働基準法106条の周知義務に反する可能性があり、労働基準監督署に相談できます。
チェックリスト:区分の差を確かめる6つ
- □ 退職金規程(または就業規則の退職金の章)を手元に置いた
- □ 自分が退職金の対象者(正社員のみ、など)に入っているか確認した
- □ 「自己都合」「会社都合」の定義が規程のどこに書いてあるか探した
- □ 自己都合の支給率と、勤続年数の節目(何年で率が変わるか)に印を付けた
- □ 今日の勤続年数で、会社都合・自己都合それぞれの金額を試算した
- □ 会社から退職を促された経緯があるなら、日付と発言をメモした
会社の区分に納得できないときの相談先
会社が「自己都合」と決めつけて話を進める。そういうときは、1人で抱えずに、次のどこかに規程と事実経過を持っていってください。
- 各都道府県の労働局にある総合労働相談コーナー(無料)
- 労働基準監督署(退職金の不払いも相談できる)
- 弁護士(区分の判断や交渉が必要な場合)
金額や区分をめぐる話し合いは、法律上の「交渉」にあたります。弁護士でない人が報酬を得て代わりに行うことは弁護士法72条で制限されているため、退職代行を使うなら、弁護士か労働組合が運営する窓口の方が、交渉が必要な場面にも対応できる可能性があります。汎用のリストは次のとおりです。
料金やサービス内容は、公式サイトで最新のものを確認してください。退職金や退職理由の区分に対応してくれるかは、依頼前に質問しておくと安心です。 退職金の請求権は5年で時効になります(労働基準法115条。同法附則143条3項により、退職手当以外の賃金請求権は当分の間3年に短縮されていますが、退職手当の請求権は5年のままです)。規程、退職届、メール、離職票は手元に残しておいてください。
会社都合と自己都合で退職金の金額は必ず変わりますか
いいえ、必ず変わるとは限りません。差があるかどうかは自分の会社の退職金規程しだいで、規程に理由による区分がなければ金額は同じですし、そもそも退職金制度自体がない会社もあります。まず自分の会社の規程を確認してください。
会社に「一身上の都合」と書くよう言われたら、どうすればいいですか
署名する前に、規程上「会社都合」「自己都合」のどちらの扱いになるかを書面で確認してください。書類の理由欄が「一身上の都合」だと、会社が自己都合の根拠として使う場合があり、口頭だけの回答は後に残りません。
退職金はいつまで請求できますか(時効はいつですか)
退職手当の請求権の時効は5年です(労働基準法115条、同法附則143条3項)。退職手当以外の賃金請求権は当分の間3年に短縮されていますが、退職手当は5年のままなので、規程・退職届・メール・離職票は手元に残しておいてください。
失業保険で会社都合扱いになれば、退職金も会社都合になりますか
いいえ、自動的には連動しません。失業保険(雇用保険)の離職理由と、退職金規程上の会社都合・自己都合は別々の制度で、判断する主体も基準も異なります。退職金規程では自己都合でも、失業保険では会社都合に近い扱いになることがあり、逆もあります。
退職金にかかる税金は、自己都合か会社都合かで変わりますか
いいえ、変わりません。退職金の所得税は退職所得控除額で計算しますが、この控除額は勤続年数のみで決まり、退職理由による違いはありません(所得税法30条)。
次にやること
今日、就業規則か退職金規程を探して、「自己都合と会社都合の定義」と「自己都合の支給率」の2か所に印を付けてください。 それだけで、差があるのか、いくらなのかが分かります。署名する書類が手元にあるなら、印を付けるまで署名はしないでください。
出典(2026年9月24日調査)
- 労働基準法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049(89条3号の2の退職手当に関する相対的必要記載事項、11条の賃金の定義、106条1項の周知義務、115条・附則143条3項の退職手当の時効5年を確認)
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」(厚生労働省) https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html(雇用保険法23条に基づく特定受給資格者の所定給付日数の扱いを確認)
- 国税庁タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm(退職所得控除額の計算式が勤続年数のみで決まり、退職理由による違いがないことを確認)
- 弁護士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205(72条の非弁行為の禁止を確認)
- 中央労働委員会「令和5年賃金事情等総合調査」 https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/chingin/23/index.html(モデル退職金が退職事由別に集計されていることを確認。自己都合と会社都合の具体的な金額差の数値までは、公開PDFの構造上テキスト確認ができなかった)