退職代行は新卒でも使える?1年目の有給・失業保険・研修費の注意点
- 新卒1年目でも退職代行は法律上まったく問題なく使える
- ただし有給休暇が0日の可能性が高い
- 失業保険もすぐには出ない(条件を満たさないことが多い)
- 「研修費用を返せ」は言われても払う義務がないことが多いが個別確認が要る
この記事の内容
入社してまだ数ヶ月、あるいは1年たっていないのに「辞めたい」と感じていて、退職代行を使うことに引け目を感じている——この記事はそういう人向けです。
結論を先に言うと、新卒1年目でも退職代行は法律上まったく問題なく使えます。勤続年数による制限はありません。
ただし、新卒1年目ならではの注意点(有給休暇・失業保険・研修費用)があります。それを先に知っておいたほうが安心です。
結論:法律上は使えるが、1年目特有の落とし穴が3つある
| 項目 | 新卒1年目の状況 | 影響 |
|---|---|---|
| 退職代行を使う権利 | 制限なし。入社1日目でも同じ | 問題なく使える |
| 退職できるまでの期間 | 無期雇用(正社員)なら、意思表示から原則2週間(民法627条) | 勤続年数と無関係 |
| 有給休暇 | 入社から6か月未満だと0日の可能性が高い(労働基準法39条) | 消化できる有給がないことが多い |
| 失業保険(基本手当) | 離職前2年間に被保険者期間が通算12か月必要(雇用保険法13条) | 1年目で自己都合退職だともらえないことが多い |
| 研修費用の返還請求 | 「返せ」と言われることがあるが、有効かどうかは契約の実態次第(裁判例あり) | 慌てて払わず、まず確認する |
新卒1年目の退職代行利用そのものに、法律上のハードルはありません。むしろ気をつけるべきは、辞めたあとにお金の面で「1年目ならではの不利」が起きやすいことです。
そもそも辞める権利に「勤続年数」の条件はあるか
ありません。無期雇用の正社員であれば、民法627条により、退職の意思を伝えてから2週間で雇用契約は終了します。この条文に「入社◯年以上でないと使えない」といった条件は書かれていません。入社1週間でも、入社11ヶ月でも、同じ条文が同じように適用されます。
ただし、次の2点は別に確認が必要です。
- 試用期間中かどうか — 試用期間中でも民法627条の考え方は基本的に同じですが、契約の形態によって扱いが変わることがあります。詳しくは別記事「試用期間中の退職|即日で辞められるか」で扱います
- 契約社員(有期雇用)として採用されたか — 新卒でも契約社員扱いの場合、期間の定めのある雇用に当たり、扱いが変わります。詳しくは別記事「契約社員は契約期間の途中で辞められるか」で扱います
多くの新卒採用(正社員・無期雇用)であれば、この記事の結論(勤続年数の条件なし)がそのまま当てはまります。
「3年は続けろ」は法律ではない
「石の上にも三年」「新卒は最低3年」という言葉を、上司や親から言われた人は多いと思います。ですが、これは法律上の義務ではなく、あくまで慣習・価値観の話です。労働基準法にも民法にも「新卒は3年間辞めてはいけない」という規定はありません。
辞めていいかどうかの判断基準は、周囲の言葉ではなく、自分の心身の状態です。「3年続けた実績が欲しい」という考え方自体は否定しませんが、それを理由に体調を崩すところまで続ける必要はありません。20代の退職全般については、別記事「20代の退職|『3年は続けろ』への現実的な答え」でも扱っています。
1年目特有の注意点1:有給休暇がまだ無い可能性が高い
労働基準法39条により、有給休暇が付与される条件は「雇入れの日から6か月継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上出勤したこと」です。この条件を満たすと10日分の有給休暇が発生します。
つまり、入社から6か月未満で辞める場合、有給休暇はまだ0日という人が多くなります。退職代行を使う際、「有給を消化してから辞めたい」という要望をよく聞きますが、そもそも消化できる有給がなければ、この交渉自体が成立しません。
自分の入社日から数えて、いま何ヶ月目か。ここを先に確認してください。
有給休暇を使い切って辞める一般的な流れは、別記事「有給休暇を使い切って辞める方法」で扱っています。
1年目特有の注意点2:失業保険がすぐには出ないことが多い
雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)を自己都合退職で受け取るには、雇用保険法13条により、原則として「離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上」あることが必要です。
新卒で入社してから1年未満で辞めた場合、この12か月の条件を満たせないことが多く、自己都合退職では基本手当を受け取れない可能性が高いという点は、退職前に知っておくべきです。
- 倒産・解雇など会社都合、あるいはハラスメントなどで「特定受給資格者」「特定理由離職者」に該当する場合は、雇用保険法13条2項・23条2項により、離職前1年間に通算6か月以上の被保険者期間で足りるとされます。ただし、自分のケースがこれに該当するかどうかは個別のハローワーク判断になるため、離職票を持ってハローワークの窓口で直接確認してください
- 退職代行を使うこと自体は、失業保険の受給資格に影響しません。受給資格は退職理由と加入期間で決まります
失業保険がすぐに出ないとなると、退職後の当面の生活費をどう確保するかが最初の壁になります。貯金の見通し、実家に頼れるか、次の職の当てがあるかを、退職を決める前に一度整理しておくことをおすすめします。失業保険の金額・受給条件全般は、別記事「失業保険はいくら・いつから・いつまで」で詳しく扱っています。
1年目特有の注意点3:「研修費用を返せ」と言われたら
新卒研修に力を入れている会社ほど、「早期退職した場合は研修費用を返還してもらう」という規定を就業規則や誓約書に入れていることがあります。これを理由に引き止められたり、退職代行経由でも会社から請求されたりすると、不安に感じるのは当然です。
ここで知っておくべき条文は、労働基準法16条です。「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められています。この条文があるため、「◯年以内に辞めたら研修費用◯万円を払え」という取り決めは、無効と判断されるケースが少なくないとされています。
ただし、この論点は次の点で単純ではありません。
- 「金銭消費貸借契約(研修費用をいったん貸与とし、一定期間勤務すれば返還を免除する)」の形式を取っている場合、有効と判断された裁判例もあります。実際に、会社主導の業務関連留学だった富士重工業事件では返還請求が無効と判断された一方、労働者本人の自由意思で応募した海外留学だった長谷工コーポレーション事件では、金銭消費貸借契約とみなされ会社側の請求が認められています
- 有効か無効かは、契約の実態(本当に自由な意思による合意だったか、金額が実費相当か、業務上必須の研修だったか等)によって個別に判断されます
つまり、「請求された=必ず払わなければいけない」わけではありませんが、「請求された=無視してよい」とも言い切れません。どちらに転ぶかは、あなたが結んだ契約書・誓約書の具体的な文言と、その研修が「会社の業務命令だったか、自分の意思で応募したものだったか」で変わります。請求書が来ても即座に応じず、まず契約書・誓約書の文言を確認し、必要であれば弁護士や労働基準監督署に相談してください。
退職代行を使う場合、新卒1年目でも料金は変わるか
料金体系は運営元(民間企業・労働組合・弁護士)や雇用形態(正社員・アルバイトなど)で区分されるのが一般的で、新卒か中堅社員かという「年次」で料金が変わる仕組みは確認できませんでした(2026年8月時点の調査。各社の料金ページに「学生プラン」「新卒プラン」といった年次区分は見当たらず、正社員/非正規の区分のみが一般的でした)。ただし、有給消化の交渉や未払い残業代の請求など、「会社との交渉」が必要な場面では、交渉権を持たない民間企業では対応できず、労働組合か弁護士を選ぶ必要があります。新卒1年目は有給がそもそも無いことが多いため、交渉事項が少なく済むケースもありますが、研修費用の請求など会社側から金銭を求められる可能性がある場合は、交渉できる運営元を選んだほうが安心です。
運営元による違いの詳細は、別記事「退職代行おすすめ3選|『誰が運営しているか』で選べば失敗しない」「労働組合の退職代行と弁護士の退職代行、どちらを選ぶか」で扱っています。
感情の面で:「せっかく入った会社なのに」で自分を追い詰めない
新卒1年目の退職には、中堅社員の退職とは違う重さがあります。就職活動でかけた時間、内定をもらったときの喜び、周囲からの期待。それらを思うと、「もったいない」「逃げたと思われる」という気持ちが先に立つのは自然なことです。
ですが、就職活動の時点で見えていた会社の姿と、実際に働いてみて分かった会社の姿が違うことは、珍しくありません。入ってみないと分からないことがあるのは、当然のことです。「入社前に分からなかったことに、入社後に気づいた」というだけであり、それ自体はあなたの落ち度ではありません。
「新卒カードを1回で使い切ってしまう」という不安を持つ人もいますが、早期退職者向けの転職支援や第二新卒枠は一般的な採用市場に存在しており、1年目の退職が即座にキャリアを閉ざすものではないという見方もできます。この点は個々の状況によるため、次の職を探す段階で転職エージェントや求人情報を確認してみてください。
体に出ている不調(眠れない、食欲がない、動悸がするなど)がある場合は、退職の判断そのものより先に、医師や産業医に相談することを優先してください。
実体験について
私自身は2026年6月末に退職した経験がありますが、新卒1年目での退職経験はありません。この記事は、私自身の体験ではなく、条文・制度の調査に基づいて書いています。新卒1年目特有の状況(有給0日、失業保険の受給要件、研修費用の請求)については、実際に直面している方の状況が一人ひとり違うため、最終的な判断は個別の事情に応じて専門家に確認することをおすすめします。
次にやること
まず、自分の入社日から現在までの在籍期間を数えてください。6か月未満であれば有給休暇はほぼ無く、1年未満であれば自己都合退職での失業保険もほぼ出ないことが多いという前提で、退職後の生活費をどう用意するかを先に考えておくと、退職代行への相談がスムーズになります。研修費用の返還を求められそうな契約を結んだ心当たりがある場合は、就業規則・誓約書を手元に用意した上で相談してください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。個別の契約内容・受給資格の判定は、弁護士・社会保険労務士・最寄りのハローワークにご確認ください。研修費用返還特約の有効性は契約の実態によって判断が分かれるため、断定的な結論は避けています。
出典 - 民法627条(期間の定めのない雇用は、解約の申入れから2週間経過で終了。勤続年数の条件なし) - 労働基準法39条(有給休暇の付与要件。雇入れの日から6か月継続勤務+全労働日の8割以上出勤で10労働日付与) - 雇用保険法13条1項(基本手当の受給資格。一般の受給資格者は離職の日以前2年間に被保険者期間通算12か月以上) - 雇用保険法13条2項・23条2項(特定受給資格者・特定理由離職者は、離職前1年間に被保険者期間通算6か月以上に緩和) - 労働基準法16条(労働契約の不履行についての違約金・損害賠償額の予定を禁止) - 裁判例: 富士重工業事件(会社主導の業務関連留学は返還請求無効)、長谷工コーポレーション事件(本人の自由意思による留学は金銭消費貸借契約として返還請求を容認)