診断書があると退職はどう変わるか
- 退職の意思表示そのものに診断書は不要(民法627条は理由も証明も求めていない)
- 診断書があると変わりうる場面は主に3つ:やむを得ない事由による即日退職(民法628条)・特定理由離職者としての給付制限なしの認定・傷病手当金の申請(健康保険法99条)
- 会社から診断書の提出を求められても、応じるかどうかは自分で判断してよい(個人情報保護法上「要配慮個人情報」にあたる)
- 症状が続くなら、退職の判断より先に医師・産業医への相談を優先する
- 1体調に気づく
- 2医師に相談する
- 3診断書をもらう
- 4会社・制度へ提出
- 5退職の手続きへ
この記事の内容
この記事は、体調不良を理由に退職を考えていて、「診断書は必要なのか」「もらったら何が変わるのか」が分からず止まっている人に向けて書いています。 結論を先に言うと、退職の意思を伝えること自体に診断書は要りません。ただし、診断書があることで扱いが変わる場面がいくつかあります。何が変わり、何が変わらないかを分けて整理します。
- 辞めたいが、診断書がないと退職できないと思い込んでいる
- 心療内科に行くべきか、「これくらいで受診していいのか」と迷っている
- 診断書を取ったら、会社に病名まで知られてしまうのではと不安
結論:意思表示に診断書は不要。変わるのは別の3つの場面
退職の意思表示そのものは、民法627条により、理由を問わず2週間前に伝えれば成立します(期間の定めのない雇用契約の場合)。ここに診断書は登場しません。「診断書がないと辞められない」という制約は法律上ありません。
一方で、診断書があることで有利に働く、あるいは手続き上必要になる場面が別にあります。
| 場面 | 診断書の役割 | 根拠 |
|---|---|---|
| 退職の意思表示そのもの | 不要。理由の開示も証明も求められていない | 民法627条 |
| すぐに辞めたい(即日退職) | 「やむを得ない事由」の裏付けとして使われることがある | 民法628条 |
| 失業保険の給付制限を外したい(特定理由離職者) | 判断材料の一つになりうるが、公式に必須書類とは明記されていない | 雇用保険法13条3項・同法施行規則19条の2 |
| 傷病手当金を受け取りたい | 医師の意見書(診断書)が申請書類そのものに組み込まれており必須 | 健康保険法99条 |
同じ「診断書」でも、場面によって「あると有利」「実質必須」「そもそも関係ない」の3パターンに分かれます。 次の章で、それぞれどう違うかを見ていきます。
診断書があると変わる場面
① やむを得ない事由による即日退職(民法628条)
原則、退職は意思表示から2週間かかります(民法627条)。ただし、パワハラ・賃金未払い・心身の健康を著しく損なう状態など「やむを得ない事由」があるときは、直ちに契約を解除できるとされています(民法628条)。
心身の不調がここに当たるかどうかは、事情ごとに判断が分かれます。この条文自体、もともと期間の定めがある雇用を想定しており、期間の定めのない雇用契約にそのまま適用されるかは解釈が分かれる点も確認されています(姉妹記事008参照)。診断書は、体調がその水準にあることを客観的に示す材料の一つにはなりますが、診断書さえあれば自動的に即日退職が認められるわけではありません。
② 特定理由離職者としての認定(給付制限なし)
自己都合退職には原則、失業保険(基本手当)の給付制限がつきます(雇用保険法33条1項)。ただし、健康上の理由など「やむを得ない理由」による離職と認められれば、「特定理由離職者」として給付制限なしで扱われる場合があります(雇用保険法13条3項、同法施行規則19条の2)。
ここで注意が必要です。ハローワークインターネットサービスの公式ページ「特定理由離職者及び特定受給資格者の範囲」には該当しうる事由が列挙されていますが、それぞれに必要な証明書類として診断書を明記した記載は見当たりません(姉妹記事019で確認済み)。必要書類は事由ごとにハローワークが個別に案内する運用のため、「診断書さえ出せば特定理由離職者になる」と断定はできません。自分の場合に何が必要かは、離職票を受け取った時点で窓口に確認することが唯一の確実な方法です。
③ 傷病手当金の申請(実質必須)
会社の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に加入していれば、業務外の病気やけがで働けないとき、給与のおよそ3分の2を最長1年6か月受け取れる制度があります(健康保険法99条)。この申請書類には医師が記入する意見書の欄があり、診断書の取得が事実上、手続きの出発点になります(姉妹記事052参照)。うつ・適応障害のような心の不調も、医師が「療養のため労務不能」と記載すれば対象になります。制度上、体の病気か心の不調かで扱いが変わることはありません。
診断書がなくてもできること
逆に、診断書がなくても本来できることを確認しておきます。
- 退職の意思表示:民法627条は理由の開示を求めていません。「一身上の都合」とだけ伝えれば足ります
- 有給休暇の取得:有給休暇をいつ取るかは労働者が指定する権利(時季指定権)であり(労働基準法39条5項)、取得理由を会社に説明する義務はありません。体調不良であることを詳しく説明する必要はなく、残った有給を使って退職日までの出社を避けることもできます
- 退職代行の利用:退職代行は退職の意思表示を代行する手段であり、利用に診断書や理由の証明は要りません
「診断書を取ってからでないと動けない」と考えて足踏みする必要はありません。 診断書が要るのは、傷病手当金のように制度側が書類として求めている場面に限られます。
会社から診断書の提出を求められたら
体調不良を理由に休職・退職の相談をすると、会社側から診断書の提出を求められることがあります。これに応じるかどうかは、基本的に自分で判断してよい事柄です。
病歴は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたり、事業者が取得するには原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法20条2項。個人情報保護委員会の公式FAQでも、要配慮個人情報の取得には原則としてあらかじめ本人の同意が要ることが確認できます。2026年8月確認)。応募先・勤務先から求められても、常に詳細な病名まで開示しなければならないものではありません。ただし、休職制度の利用や傷病手当金の申請など、こちら側が制度を使いたい場面では、診断書の提出が手続き上の前提になることがあります(姉妹記事057参照)。
「どこまで開示するか」に迷ったら、病名そのものではなく「就労可能かどうか」「どの程度の配慮が必要か」といった、業務に関わる範囲の情報に絞って伝える方法もあります。就業規則に診断書提出の規定がある場合は、その内容も確認してください。
医師に相談する目安
ここまでは制度の話でしたが、制度より先に大事なことがあります。次のような状態が続いているなら、退職の判断より先に、医師・産業医に相談することを優先してください。
- 眠れない日が2週間以上続いている
- 出社しようとすると動悸がする、体が動かない
- 通勤中や仕事中に涙が止まらない
- 食欲がない、あるいは食べ過ぎてしまう状態が続いている
- 「もう限界かもしれない」と繰り返し感じている
「これくらいで受診していいのか」と迷う人も多いですが、その判断自体を医師に委ねてよい場面です。この記事では心身の状態についての医療判断はしません。 それは医師の領域です。相談窓口としては、勤務先に産業医がいればまず産業医、いなければ心療内科・精神科の受診が入り口になります。診断書の取得費用は健康保険が適用されない自由診療にあたり、医療機関ごとに料金を設定しています。厚生労働省などが全国一律の相場を公表している一次資料は見当たらず(厚生労働省の公表資料・複数の医療機関の公式料金表を確認したが、統一的な相場を示す公的資料は無い。一次情報は確認できず)、正確な金額は受診先の医療機関に直接確認してください。
実体験について、正直に書きます
私自身は2026年6月に会社都合で退職し、失業保険・ハローワークの手続きを進めた実体験があります。ただし、体調不良を理由に診断書を取得・提出して退職した経験はありません【本人の実体験の範囲外】。
そのため、この記事で挙げた診断書の位置づけや医師への相談の目安は、調査した範囲での一般的な整理であり、私自身が診断書を使った経験に基づく記述ではありません。実際に体調不良で退職を検討している場合は、まず医師に相談し、必要な手続きは加入している健康保険やハローワークの窓口で個別に確認してください。
次にやること
まず、いま自分がどの場面に当てはまるかを1つ確認してください。 今日・明日にでも辞めたいなら民法628条の「やむを得ない事由」に当たりうるか、失業保険の給付制限を外したいなら「特定理由離職者」に当たりうるか、療養しながら収入を確保したいなら傷病手当金の対象になるか。どれに当てはまるかで、診断書の要不要と取得のタイミングが変わります。判断に迷う、あるいは症状が続いている場合は、手続きより先に医師・産業医に相談してください。
会社に直接体調不良を説明するのがつらい場合は、退職代行サービスを使えば、会社との直接のやり取りを避けて退職の意思だけを伝えることもできます(※2026年8月時点の調査。各社のサービス内容・料金は公式サイトで最新情報を確認してください)。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報整理です。診断書の要否・提出範囲・制度の適用は個別の状況によって異なります。判断に迷う場合は、医師・産業医、加入している健康保険の窓口、ハローワーク、社会保険労務士にご確認ください。心身の不調がある場合は、退職の判断より先に医師・産業医への相談を優先してください。
出典 - 民法627条(期間の定めのない雇用の解約申入れ)・628条(やむを得ない事由による解除) — 姉妹記事008(2026年8月25日、条文原文を確認) - 雇用保険法13条3項(特定理由離職者の定義)・同法施行規則19条の2(該当類型)、ハローワークインターネットサービス「特定理由離職者及び特定受給資格者の範囲」 — 姉妹記事019(2026年8月26日確認。必要書類として診断書を明記した記載が無いことも確認済み) - 雇用保険法33条1項(自己都合退職の給付制限) — 本記事にて条文原文を確認(2026年8月31日) - 健康保険法99条(傷病手当金の支給要件) — 姉妹記事052(2026年8月28日、条文原文を確認) - 個人情報保護法20条2項(要配慮個人情報の取得制限) — 姉妹記事057(2026年8月確認)、個人情報保護委員会公式FAQ「要配慮個人情報とはどのようなものを指しますか」(2026年8月確認) - 労働基準法39条5項(年次有給休暇の時季指定権) — 姉妹記事021・034(条文原文を確認) - 診断書の取得費用の相場 — 厚生労働省の公表資料・複数医療機関の公式料金表を確認したが、全国一律の相場を示す一次資料は無し(2026年8月確認、(一次情報は確認できず)として本文に明記)