退職日を会社に早められた
- 1早める打診が来る
- 2同意するか判断
- 3同意なければ書面で記録
- 4賃金を請求
- 5争うなら弁護士へ
この記事の内容
「退職は9月30日でお願いします」と伝えたのに、会社から「じゃあ今日でいいよ」「もう来なくていい」と言われた人向けの記事だ。結論から言うと、労働者が同意していないのに会社が一方的に退職日を早めることは、法的には「解雇」として扱われる可能性がある。この記事では、合意退職と解雇の見分け方、賃金を請求できる根拠、実際に言われたときにやることを順番に答える。
結論:同意していなければ「解雇」として扱われうる
- 労働者が自分の意思で退職日を早めることに同意すれば、それは「合意退職」であり問題ない
- 労働者が同意していないのに、会社が一方的に「今日で終わり」「もう来なくていい」と告げて就労を拒否した場合、それは労働契約法16条にいう会社側からの労働契約の一方的終了、つまり実質的な解雇にあたる可能性がある
- 解雇にあたるなら、労働基準法20条の解雇予告(原則30日前、またはその日数分の平均賃金の支払い)が必要になる。これが無ければ、その分の賃金・手当を請求できる余地がある
以下、それぞれの根拠と、実際に言われたときにやることを説明する。
なぜ「本人の同意」がそんなに重要なのか
民法627条1項は、期間の定めのない雇用契約について「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めている。条文の言葉どおり、労働者が辞める意思を伝えれば、会社の承諾がなくても2週間後に契約は終了する(月給制など、期間によって報酬を定めている場合は、民法627条2項により、使用者からの解約の申入れは次期以後についてのみ、かつ当期の前半までにする必要がある〈確認済み〉。自社の給与規程・就業規則の退職予告期間の定めと合わせて確認してほしい)。
一方、会社が労働者を一方的に辞めさせる権利は、同じようには認められていない。労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めている。会社にとって都合が悪い、あるいは単に「もういい」という感情的な理由だけでは、労働者を一方的に辞めさせることはできない。
つまり、労働者は自分の意思で辞められるが、会社は労働者を自由には辞めさせられない。この非対称性が、「もう来なくていい」という言葉の重みを決めている。
合意退職と解雇、何で見分けるか
| 論点 | 合意退職になりやすい | 解雇にあたりやすい |
|---|---|---|
| 誰が退職日の変更を持ちかけたか | 労働者が「早めたい」と申し出た、または会社の提案に労働者が同意した | 会社が一方的に告げ、労働者は同意していない |
| 労働者の返答 | 「分かりました」「それでお願いします」と応じている | 何も言っていない、または「困ります」と伝えている |
| 記録の有無 | 書面・メールで日付変更に合意した記録がある | 口頭のみで、同意した証拠が無い |
| 就労の扱い | 双方合意のうえで出社しない期間を決めた | 会社が一方的に出社を拒否した |
| 賃金の扱い | 早めた分の賃金についても合意がある | 早めた分の賃金が支払われない、または説明が無い |
表の左側であれば、退職日は合意によって変更されただけで、法的な問題は基本的に生じない。右側に近いほど、会社側からの一方的な契約終了、つまり解雇として争える可能性が出てくる。
「自宅待機」と「解雇」は意味が違う
ここで見落としやすい点がある。「明日から来なくていい」という言葉には、少なくとも2つの意味がありうる。
- 自宅待機の指示:雇用契約自体は続いたまま、会社の指示で出社させない(有給消化、または休業扱い)。この場合、労働契約は終了していないので、賃金(または休業手当)の支払い義務は会社に残る
- 解雇の意思表示:雇用契約そのものを会社の意思で終わらせる。この場合、労働契約法16条・労働基準法20条の規制がかかる
同じ「もう来なくていい」でも、会社がどちらの意味で言っているかによって、労働者が取るべき対応も、請求できる権利も変わる。言われた場面で、「それは自宅待機ということですか、それとも解雇ということですか」を確認するのが最初の一歩になる。曖昧なまま流されると、後から「本人も辞めることに納得していた」と会社に主張される余地を残してしまう。
会社都合か自己都合か、離職票で分かれ目になる
退職が解雇にあたる場合、雇用保険上の扱いは「会社都合退職(特定受給資格者)」になるのが原則だ(雇用保険法23条2項は、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く)その他の理由により離職した者などを特定受給資格者と定めている。確認済み)。会社都合になれば、同法33条1項が定める給付制限(自己都合退職者に課される支給停止。2025年4月の制度改正で原則2か月から原則1か月に短縮されており、過去5年間に2回以上自己都合退職している場合は3か月になる)の対象外となり、給付日数も同法23条1項により自己都合より優遇される。
ところが実務では、会社が離職票の離職理由欄に「一身上の都合による退職(自己都合)」と記載してくるケースがある。同意していないのに退職日を早められ、かつ離職理由が自己都合になっていた場合、それは事実と異なる可能性がある。
- 離職票が届いたら、まず離職理由欄を確認する
- 実態と違う場合、ハローワークの窓口で「事実と異なる」と申し出ることができる。会社への異議申立てではなく、ハローワークが双方の言い分を確認したうえで判定する仕組みになっている
計算例:退職日を早められた分の賃金は請求できるか
会社の一方的な都合で就労を拒否された場合、民法536条2項が根拠になりうる。「債権者(ここでは会社)の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」と定められており、かみ砕くと、会社側の都合で働けなくされた期間についても、労働者は賃金を請求できるという考え方だ(労働基準法26条の休業手当(平均賃金の60%以上、確認済み)はあくまで最低保障であり、労働者の民法上の権利を減じる趣旨ではないとされる。実際に全額請求できるか60%にとどまるかは、休業命令に合理性があったかなど会社側の帰責性の程度によって個別に判断される。2026年9月、複数の弁護士による解説記事で確認)。
前提を仮に置いて計算する。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 本来の退職予定日 | 9月30日 |
| 会社から出社不要と言われた日 | 9月16日 |
| 就労を拒否された日数 | 15日間(9/16〜9/30) |
| 月給(基本給) | 300,000円 |
| 1日あたりの賃金(月給÷30日で試算) | 10,000円 |
| 請求しうる金額(試算) | 10,000円 × 15日 = 150,000円 |
前提:この試算は月給を暦日数(30日)で単純に割った簡易計算であり、実際の平均賃金の算定方法(労働基準法12条)とは異なる場合がある。会社の給与規定によって所定労働日ベースで計算することもあるため、正確な金額は自分の給与明細と就業規則に基づいて計算し直す必要がある。あくまで「早められた日数分は請求できる可能性がある」という考え方を示すための試算だ。
文例:退職日の変更に同意していないことを伝える
口頭で流されそうになったら、その場で言い返す必要はない。後からメールで記録を残す方が確実だ。
件名:退職日について(確認のご連絡)
〇〇部長
本日お話のありました「本日付での退職」の件について、
私からは同意しておりませんので、その旨ご連絡いたします。
私の退職日は、〇月〇日付でお伝えしたとおりです。
それまでの間の就労および賃金のお支払いについて、
どのようにお考えか、書面にてご回答いただけますでしょうか。
〇〇(氏名)
このメールの目的は、会社と揉めることではなく、「同意していない」という事実を記録として残すことだ。後日、離職理由や未払い賃金が争いになったときに、この記録が意味を持つ。
それでも「もう来なくていい」を押し通されたら
会社の担当者が繰り返し出社を拒否し、話し合いにならない場合、一人で抱え込む必要はない。ここでも注意したいのは、争う内容によって相談先が変わるという点だ。
一般的な退職代行サービス(弁護士資格を持たない業者)は、退職の意思を会社に伝えることはできても、解雇の有効性を争ったり、未払い賃金の金額交渉をすることはできない。 金額を争う、解雇の効力を否定するといったやり取りは「法律事務」にあたり、弁護士でない者が代理で行うと非弁行為(弁護士でない人が行ってはいけない交渉。弁護士法72条、確認済み)になってしまう。
解雇の有効性を争いたい、未払い賃金を請求したい → 弁護士に相談する
すでに退職する方向で、あとは書類のやり取りだけ穏便に進めたい → 一般の退職代行でも対応できる場合がある
※いずれも2026年8月時点の調査。料金・対応範囲は各社サイトで要確認。
「もう来なくていい」と言われた瞬間は、自分が何か悪いことをしたかのような気持ちになりやすい。ただし、会社が労働者を一方的に辞めさせる権利は法律で厳しく制限されている。動揺したまま即答せず、まず「同意していない」という事実だけは残しておいてほしい。
チェックリスト:「もう来なくていい」と言われたら確認する5つ
- □ 自分から退職日を早めたいと言ったか、会社から一方的に告げられたか
- □ 会社の言葉は「自宅待機」なのか「契約終了(解雇)」なのか、意味を確認したか
- □ 退職日の変更に同意した記録(メール・書面)を、こちらが残していないか
- □ 早められた期間分の賃金が支払われる予定になっているか
- □ 離職票の離職理由欄が、実際の経緯と一致しているか
複数に不安が残る場合、その場で同意せず、まず記録を残すことを優先してほしい。
次にやること
会社から退職日を早めるよう言われたら、その場で同意する前に、「同意していません」という事実をメールか書面で1通残す。それが、後から賃金や離職理由を争うときの土台になる。
出典(2026年9月9日調査)
- 兵庫労働局「解雇・退職」https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/kaiko_taishoku.html(民法627条1項・2項の内容を確認。期間の定めのない雇用は解約の申入れから2週間で終了し、月給制など期間で報酬を定めた場合は使用者からの申入れに別ルールがあることを確認した)
- 厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html(労働契約法16条の解雇権濫用法理、労働基準法20条の解雇予告(30日前予告、または不足日数分の平均賃金の支払い)を確認した)
- 栃木労働局「労働基準法のポイント 第26条」https://jsite.mhlw.go.jp/tochigi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/roukijou/roukihou_point/kijunhou_kaisetsu/article26.html(労働基準法26条の休業手当が平均賃金の60%以上であることを確認した)
- 厚生労働省「自己都合離職者の給付制限期間の短縮」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_51380.html(雇用保険法33条1項の給付制限が、2025年4月1日から原則2か月→原則1か月に短縮されたことを確認。本文の「1〜3か月の支給停止」という記述を、この改正内容(原則1か月、過去5年に2回以上の自己都合離職があれば3か月)に合わせて修正した)
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html(雇用保険法23条2項の特定受給資格者に、解雇等により離職した者が含まれることを確認した)